街を行きかう人の姿も、露店の姿もすっかりとなくなっていった。

いつもは賑やかな街の中。今は、ただ雨が地面を打つ音だけが聞こえる。

そんな中で、少し急ぎ足では傘を差しながら歩いていた。

ちょっと散歩でもしようと思っていたのに、思わぬハプニングである。

傘を持っているのだから何の問題がないようにも思えるが、早く宿へ戻らなければ

紳士な空族(彼も相当なお人好しだ)が心配してこの雨の中を探すに違いない。

 

「ん…?」

 

泣き声が聞こえる。それも、小さな子供の泣き声だ。

急いでいた足を止めて、辺りを見回した。

雨宿りするには少し頼りない木の下で、うずくまり泣いている男の子の姿。

 

「…泣かないで?おうちはどこですか?」

 

男の子ははじめ、驚いての顔を見上げた。

雨で湿った髪の毛をのハンカチがやさしくなぞる。まるで母親のような振舞い、

柔らかい微笑みに、男の子はほっとしたように硬い表情を緩めた。

 

「おうち…おうちは、この坂をこえて、ずーっとずっと先の方…。」

 

男の子の指差した方向は、が向かっている場所とは見事に反対方向。

男の子を家に送っていくにしても、で急いでいるわけであり、

彼から雷を落とされるのはできれば避けたいのだ。

とはいえ、が このまま男の子を放置出来るはずも、雨の中歩かすはずもなく…

 

「重いけど、ちゃんと差しておうちへ帰るのよ?濡れないように気をつけてね。」

 

傘をあげてしまった。

体と不釣り合いな傘を、両手でしっかりと握って 男の子は一歩ずつ歩いて行く。

ようやく姿が見えなくなったところで、はふっと溜息をついた。

――――これからどうしようか。

一気に走って宿へ戻るには距離が遠すぎる。かといって雨を止むのを待っていれば

おそらく次の日になってしまうだろう。

仕方がない。屋根の下をたどっていけば、少々濡れるが戻れるだろう。

まさにそう考えている最中だった。

 

 

 

 

「…おうちはどこですか、お嬢さん。」

 

 

 

 

顔を濡らす雨が止まった。傘を差し出す大きな影。

その声を聞くだけで、不思議と口が緩む。嬉しくて幸せで、心が満たされるのを感じる。

 

「バルフレア…迎えにきてくれたの?」

「帰りが遅かったからな。こんなことだろうと思ったよ。」

「あぁ…これは…いろいろあったの。ごめんなさい。」

「まぁいいさ。…では。」

 

バルフレアは小さくお辞儀をして、そっと右手を差し出した。

洗練されたその動きは彼のスタンスなのか、はたまたがその仕草ひとつひとつに

胸を高鳴らせていると分かってのことなのか。答えはバルフレアしか知らないが。

 

 

「あなたを皆の所までお連れしようと思うのですが。わたくしめの傘の中へはいっていただけますか。」

「………ええ、もちろんです。喜んで。」

 

 

 

 

の小さな手をぎゅっと握る。離れないように、離さないように。

ふたつの影がぴったりと寄り添う、そんな雨の日の午後の出来事。

 

 

 

「ねぇ…バルフレア?怒らないの?私てっきり怒られると思っていたのに…。」

「………良い口実になるからな。」

「良い口実…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(お前と相合傘できる口実だよ、なんて)

(ほら、もっとこっち寄れよ。濡れちまうぞ。)(う、わわ…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

***

バルよ、お前乙女思考か(^▽^) と言わざるをえないね!

セリフで最初は「あなたを宿までお連れしよう」だったけど、それってなんかエロスじゃね?と思った。

久しぶりにラブラブンなおふたりでございます。

20080416