「おい。こりゃ何のシャレだ。」

 

 

 

ぶっとばすぞ、と物騒な台詞を吐いたバルフレア。

端整なその顔には青筋が立てられ 誰が見ても不機嫌なのが分かる。

 

「いや…バルフレア…。これはだな…。」

 

どう言ったらいいものかと頭を悩ませるバッシュ。

それに構わず、バルフレアの視線はどんどん鋭くなっていった。

 

バルフレアが気になっているもの、それは

ヴァンの足元にしがみ付いて、じぃ…っと見つめてくるの姿。

ヴァンに引っ付いているのも腹の立つことではあるが、問題はそこではない。

 

「にゃああ。」

 

にゅっと伸びた尻尾、それに加え ぴくんと動くネコの耳。

 

この状況から考えられることはたった一つだった。

しかし、受け止めたくない現実 というかまさかそんな夢みたいな話があるわけないと

頭に浮かんだ答えを振り払ったのだ。

 

そりゃあ見た目は可愛いにも程があった。

薄らと涙ぐんだその瞳も、ふるふると震える尻尾も耳も

刺激するには充分だ。

だからきっと、これは何かの冗談だとバルフレアは思いたかった。

俺がどんな反応をするか、どれだけ我慢できるか 面白がっているのだと。

 

「バ、バルフレアー…。じ、実はさぁ…。」

 

言いにくそうに、口ごもったヴァンの目は明らかに泳いでいた。

本当のことを言おうが、嘘をついてごまかそうが

バルフレアから雷が落ちることは目に見えていたからだ。

 

そんな終わりの無い攻防に 終止符をうったのは

フランの一言だった。

 

 

 

 

、ネコになったの。」

 

 

 

 

バルフレアは頭を抱えてその場にうずくまったのだった。

 

 

 

 

 

 

Dolce 優しく可愛らしく

 

 

 

 

 

 

事の始まりは昨日の朝のことだった。

新たに引き受けたモブの討伐を、ヴァン バッシュ フラン の4人が行くことになった。

を危険な目にあわせたくないバルフレアは もちろん猛反対。

ただでさえ おっちょこちょいなから目を離すなんて心配でならなかったからだ。

 

を連れて行くなら俺も連れて行け。」と

バルフレアの言葉に反対したのは 自身だった。

 

 

 

 

「大丈夫。絶対、危ないことしないって約束する。

 傷一つだって付けて帰ってこないから、ね?」

 

 

 

 

結果

傷一つどころか、事態は余計悪かった。

人間の身体にネコのオプションが追加されただけならまだしも

今のの意識は完全にネコになりきっている…否ネコそのもの。

ヴァンたちが誰なのか、仲間の顔は覚えているようだが 

言葉はネコ語だし、話しかけても分からないようだった。

 

「一体どうしたらこんな とんでもねぇことが起きるんだよ。」

「それは…―――――」

 

バッシュが、その時のことを ポツリポツリと話し出す。

 

 

あともう少し、というところで

モブは一気に物理防御力を上げた。

攻撃力もグンと跳ね上がり ヴァンたちは苦戦を強いられた。

長期戦になるとこちらが不利になる、と

は敵に狙われることを承知で魔法を放ったんだそうな。

 

「んで敵を倒した変わりにネコになったってか。」

 

はぁ、と大きな溜息を吐いてバルフレアは頭を悩ませた。

だいたい、元に戻るのかすらわからない。

 

 

「数時間したら戻るみたいよ。」

 

 

まるで心を読んだようなタイミングの良い答え。

そう言うと、フランは床に座ったままのの頭を一撫でした。

気持ちがいいのか、にゃぁと声を出している。

 

「だから、それまで満喫したら?」

「なっ!?」

 

 

『カワイイでしょ』

 

と 声は出していないものの 

楽しそうなその口の動きから 確かにそう言っていた。

 

 

「そういう問題じゃねぇ!」

 

 

バルフレアの声に驚いたのか

はフランの身体にすがりついた。

 

 

「あらあら。駄目よ、大声出しちゃ。がこんなに怖がっているわ。」

「だったらどうしたってんだよ。」

「…強気ね。知らないわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌われたって。」

 

 

 

 

 

 

少なからずその言葉がショックだったとは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

こんなにイライラするのは久しぶりのことだ。

向こうの方では、ネコと遊んでいるヴァンとパンネロの楽しそうな声が聞こえてくる。

 

そりゃあ俺だって男だ。

フランの言うとおり、ネコオプションが加わったはより一層可愛いもので…

不謹慎にも、触れたいとか 独占したいとか

欲望が浮かんでいたことは確かに嘘ではない。

 

でも。

思った以上に、この状況は全く面白くない。

であって、ではない。

今のは別人だ。

 

 

 

「数時間って…どのくらいだよ。」

 

 

 

ずるずると壁にもたれながら腰を下ろす。

何だか煙草でも吸いたい気分だが、生憎手元にはない。

こうなりゃもう寝てしまおう。

そう思って目を閉じる。

 

 

 

「……にゃぁぁ…。」

 

 

 

 

聞き逃してしまいそうなくらいの小さな鳴き声が聞こえて

何の用だと目を開ければ 様子を伺っているようなの姿。

 

 

「何だ?遊んで欲しいなら向こうで…ってオイ!」

 

 

ごろん、と俺の膝に乗っかって 勝手に眠ろうとする。

いくらの身体が小さいと言えど、さすがに収まってはいないが…

「膝枕」とはまた違うのがネコだからとも言うべきだろうか。

 

 

「ここで寝るつもりなのかよ。」

 

そうは言いながらも、

頭を撫でれば目を細めて鳴くその様子に 気をよくする。

ふと横に目をやれば、丸まってしまっている尻尾があった。

柔らかそうなそれに、思わず触れてみる。

 

 

 

「…っにゃあ!…ふにゃぁ…。」

 

 

 

甲高い声を上げ

ぶるぶると身体を震わせながら 俺のボトムをぎゅっと握る。

…感じるんだろうか。

 

 

(俺って酷ぇ奴…)

 

 

ネコのに不満だったというのに。

喘ぎにも似た声で鳴くがあまりにも可愛くて

悪戯したくて、苛めてしまいたくて どうしようもない。

 

今度はもっと優しく、ふわふわのその尻尾を撫であげた。

 

 

「にゃうぅ…にゃ、ぁあっ………にゃああっ!!」

 

 

 

 

「!! 痛ぇ…!」

 

 

がぶり、と俺の指に思いっきり噛み付く。

 

「分かったよ。悪かったって、もう何もしねぇよ。」

 

両手を挙げて、降参のポーズ。

それを見て安心したのか、は俺の膝の上でスヤスヤと寝息を立て始めた。

 

無防備なその顔は、相変わらず俺を刺激するけど。

 

 

 

『バルフレア』

 

 

 

澄んだ声で俺の名前を呼ぶその響きが

 

やっぱり一番好きだ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネコになっても、好きなのはバルフレアなのだな。」

 

 

寄り添うように眠るとバルフレアを見て

嬉しそうにバッシュは言った。

 

 

 

「そうみたいね。」

 

 

 

 

ほらね、言った通り。

 

満喫できたでしょう、バルフレア?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

二人が目を覚ました時には は元の姿に戻っていた。

 

「あれ…?バルフレア。その指どうしたの?……えと…歯型??」

「………何でもないさ。」

「無抵抗の“ネコさん”を苛めた報いよね。」

「………フラン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

****

趣味丸出しでごめんなさいw

ベタベタな恋愛モノでもいいんですけど

思わずプッ…と笑ってしまいそうな ギャグ風味にさせて頂きました。