「おい。こりゃ何のシャレだ。」

 

 

 

ぶっとばすぞ、と物騒な台詞を吐いたバルフレア。

端整なその顔には青筋が立てられ 誰が見ても不機嫌なのが分かる。

 

「いや…バルフレア…。これはだな…。」

 

どう言ったらいいものかと頭を悩ませるバッシュ。

それに構わず、バルフレアの視線はどんどん鋭くなっていった。

 

バルフレアが気になっているもの、それは

ヴァンの腕に抱かれながら、じぃ…っとこちらを見つめてくるの姿。

ヴァンに抱かれているのも腹の立つことではあるが、問題はそこではない。

 

「あのねー、ばるふれぁ。」

 

舌足らずに名を呼ぶ声。長い髪も 肩ほどしかなく、どう見ても3歳児。

 

そんなことがあるわけないと思っても

目の前の少女は、と同じ服で 同じ髪色で 同じ瞳。

 

「なんだ将軍…隠し子でもいたのか…。」

 

これは何かの冗談だとバルフレアは思いたかった。

俺がどんな反応をするか、面白がっているのだと。

 

「バ、バルフレアー…。じ、実はさぁ…。」

 

言いにくそうに、口ごもったヴァンの目は明らかに泳いでいた。

本当のことを言おうが、嘘をついてごまかそうが

バルフレアから雷が落ちることは目に見えていたからだ。

 

そんな終わりの無い攻防に 終止符をうったのは

フランの一言だった。

 

 

 

 

、子供に戻ってしまったのよ。」

 

 

 

 

バルフレアは頭を抱えてその場にうずくまったのだった。

 

 

 

 

 

 

Dolce 優しく可愛らしく

 

 

 

 

 

 

事の始まりは昨日の朝のことだった。

新たに引き受けたモブの討伐を、ヴァン バッシュ フラン の4人が行くことになった。

を危険な目にあわせたくないバルフレアは もちろん猛反対。

ただでさえ おっちょこちょいなから目を離すなんて心配でならなかったからだ。

 

を連れて行くなら俺も連れて行け。」と

バルフレアの言葉に反対したのは 自身だった。

 

 

 

 

「大丈夫。絶対、危ないことしないって約束する。

 傷一つだって付けて帰ってこないから、ね?」

 

 

 

 

結果

帰ってきたのは小さな子供。

背丈が縮んだだけだとは言っていたが、心なしか

精神年齢も下がってしまったような気がする。

 

 

「一体どうしたらこんな とんでもねぇことが起きるんだよ。」

「それは…―――――」

 

バッシュが、その時のことを ポツリポツリと話し出す。

 

 

あともう少し、というところで

モブは一気に物理防御力を上げた。

攻撃力もグンと跳ね上がり ヴァンたちは苦戦を強いられた。

長期戦になるとこちらが不利になる、と

は敵に狙われることを承知で魔法を放ったんだそうな。

 

「んで敵を倒した変わりに子供に戻ったってか。」

 

はぁ、と大きな溜息を吐いてバルフレアは頭を悩ませた。

だいたい、元に戻るのかすらわからない。

 

 

「数時間したら戻るみたいよ。」

 

 

まるで心を読んだようなタイミングの良い答え。

そう言うと、フランは床に座ったままのの頭を一撫でした。

嬉しそうに、えへへーと笑っている。

 

「(これのどこが“背丈が縮んだだけ”だよ…。)」

「いいじゃないの。」

「なっ!?」

 

 

『カワイイでしょ』

 

と 声は出していないものの 

楽しそうなその口の動きから 確かにそう言っていた。

 

 

「そういう問題じゃねぇ!」

 

 

バルフレアの声に驚いたのか

はフランの身体にすがりついた。

 

 

「うわぁぁぁぁん!」

「あらあら。大声出すから…がないちゃったじゃない。」

「だったらどうしたってんだよ。」

 

 

大声で泣き喚くを横目でちらりと見る。

 

 

「うわぁぁぁん!ばるふれあ、きらいー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少なからずその言葉がショックだったとは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

キャッキャッと騒がしい声が部屋中に響き渡る。

がヴァンとパンネロと遊んでいるのだろう。

日ごろ、孤児たちと共に過ごしてきただけあって、小さい子の扱いには慣れているようだった。

 

に近寄りたくても、今の3歳児の彼女にどう接していいか分からずにいた。

(仕方ない。俺は面倒見るより 見られる側だったんだから)

 

時々精神年齢だけ元に戻ることがあったが、それは一瞬のことで

すぐにまた3歳児へと戻ってしまっていた。

 

 

 

「おーい、バルフレア。昼飯の時間だぜ!」

 

 

 

ヴァンが嬉しそうに昼食を知らせる。

そういえばそんな時間かと、腹の具合で分かった。

 

 

 

 

 

 

『バルフレア、お昼の時間だよ。』

 

 

 

 

 

 

いつものように、俺を呼ぶの姿が思い浮かんだ。

子供になっても、はにこにこ笑っているが

やはり 花みたいに綺麗な笑顔のほうが、俺は好きだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ダイニングへ向かうと

そこには そびえ立つ椅子と格闘しているの姿。

 

 

 

「うんしょっ…ハァ…あとちょっとなのに…ハァ…上れないー…!」

「…ほらよ。」

 

 

 

ひょい、と身体を持ち上げて椅子に座らせてやる。

 

 

「ありがとー、ばるふれあ。」

 

 

えへへ、と笑いながらパンを口に頬張る。

おいしいねーと言うから

そうだなと言ってやった。

 

何だかんだ言って、コミュニケーションは取れているのだろうか 俺たち。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

食後のコーヒーも程ほどに、部屋に戻るため立ち上がる。

これからの旅の進路を考えなければならない。

 

「まって。」

 

トテトテと効果音が聞こえそうな歩き方で

が追いかけてくる。

 

「あたしも連れていって。」

「はいはい。お嬢様。」

 

 

 

 

 

 

部屋に着くなり、をベッドの上に置いて

自分はさっさと机に向かう。

早く進路を決めないと王女様のご機嫌を損なうので、一緒に遊んでやる時間はない。

 

 

「バルフレア。」

「なんだよ、遊んで欲しいならヴァンのところへ行ってこい。」

 

 

冷たいとは分かっていながらも地図とにらめっこ。

 

 

「違うの、バルフレア…。」

 

 

何か様子がおかしいと振り返ってみたら、

半泣きになって俯いているがいた。

 

「どうしたんだ?」

 

ポタポタと落ちる涙を吸い込むベッドに向かい

頬をそっと撫でる。

 

「このまま、戻らなかったらどうしよう…って。」

 

なるほど、今は19歳のらしい。

だが心配になるのも当然だろう。

子供になってから結構な時間がたっている。

 

 

「なら元に戻れるように、魔法をかけてやるさ。」

「…キス、するの…?」

 

 

四の五の言えないように、

身体を持ち上げて俺の視線にあわす。

 

 

「ああ。でもとびきりのおまじないだ…。」

 

 

 

小さなを傷つけてしまわないように

そっと口付けた。

 

 

 

「…………!?」

 

 

 

ピカッとあたりが光ったと同時に

持ち上げていたを支えきれなくなる。

 

 

「…………戻ったのか…?」

「…………そう、みたい…。」

 

 

突然の出来事に驚く二人に

ノックの音など聞こえるはずもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルフレア、すまない。次の目的地について話したいことが……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

バッシュの言葉が止まる。

それもそうだろう。

が俺を押し倒して、跨っている光景が バッシュには見えているのだから。

 

もちろん、大人のが だ。

 

 

 

 

 

 

「違うのバッシュ!これはね、これは…違うのよ!」

「すっ、すすまない!また後で伺おう…!」

 

 

 

の必死の制止もむなしく

バッシュは赤面しながら、バタン!と扉を閉めて出て行った。

 

 

 

「だと。お陰でしばらく邪魔者は来ないんだ。

 それに…お嬢様も相当乗り気のようだしな。」

「ちがっ…!」

 

 

 

文句も何も言えないようにもう一度キスを送ってやった。

 

特別甘い、大人のキスを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

 

「ん…?そういえば先程の、何か違ったような…。」

 

頭を悩ませるバッシュの姿があったとか。

 

 

 

 

 

****

 

子供バージョン。

そういえば、「トード」とか「ミニマム」とかいう魔法

なくなったなぁ…なんて思ったのが始まりです。

やっぱりビジュアル的に耐え難いものがあるからでしょうか?

…バルフレアのカエル姿…。

 

………………。

うーん、耐えられない。