※短いうえにちょっと暗い話ですのでご注意を。

 

 

 

 

悪夢を見た。

それもとびきり良くない夢だ。

 

たとえば予知夢だとか、正夢などという類のものを信じているかといえば、

どちらかというと自分はあまり信じてなどいない。

そもそもそういった「見えないモノ」を感知する能力は俺には欠如しているし、

フランやが 有る と言えば有るのだろうが………

いや、そんなことはどうでもいい。(悪夢の所為で頭がおかしくなったのか)

予知夢でも、正夢にでもなってなるものか。

 

悪夢を見た。

それもとびきり良くない夢だ。

 

世界中の奴らが 俺とを咎めた。

手を繋いで逃げ惑う俺たちを指を指して嘲笑って、石を投げつけた。

アーシェは俺たちを見て憐みを浮かべ、バッシュはただ「すまない」と呟き

俺たちを捕らえようとした。(やっとの想いで手に入れた宝だぞ?)

いつも能天気なヴァンとパンネロも 深刻な顔で「と離れたほうがいい」と

口をそろえて言った。(手に入れた宝を手放す馬鹿な奴がいるか?)

頼みの綱のフランも、俺たちが何を言っても首を振るばかりで 当然かくまってなど

くれなかった。(を手放すことは、俺には死を意味するんだぜ?)

 

世界中、どこを彷徨っても どこを探しても俺たちに居場所はない。

ゆっくり座って話す場所も、静かに抱き合い口付けを交わす場所もない。

当然俺たちが笑うことなど何一つなくなった。どんなに辛い時でも笑顔を絶やさなかった

が、表情豊かなが、喜びも悲しみも絶望も顔に浮かべなくなった。

 

が笑ったのは、夢の最後であり彼女の最期の瞬間でもあった。

蚊の鳴くような小さな声で俺の名前を呼んで、自害する

「私がいなければ 世界中の人を敵にまわさなくてもいい」と思ってのことだろう。

(俺には君がいない世界の方がどれほど辛いかなど知らずに)

 

変にリアルだった。

倒れこむ彼女の重みも 徐々に失われていく彼女の温かさも。

もしそこで目が覚めてなければ 本当に俺の気はおかしくなっていたかもしれない。

 

に会いたい。

 

俺にあるのは今それだけだった。

嫌な汗でびっしょりな身体に気にも留めず、急いで身支度を終えて部屋を出る。

宿屋の1階には やはり呑気にヴァンたちは仲良く朝食をとっている。

「顔色が悪いわよ」とフランは顔を見るなり言った。が、そんなことはどうでもよかった。

がいない。また冷や汗が出る。(正夢など信じないと言ったはずなのに)

 

なら外にいるぞ。」

 

俺のおかしな様子に気付いてか、バッシュがそう告げる。

安心する間もなく慌てて外へ向かう。

 

「……!」

「おはよう、お寝坊さん。」

 

当の本人はというと、楽しそうに小鳥にえさをやって戯れている。

は笑っている、血色もいい。(あぁ、いつものだ)

 

「どうしてあいつらと一緒に飯を食ってなかった。」

「…怒ってるの?あなたを待ってたのよ。一緒に食べようと思って。」

「………よかった……。」

 

半ば強引に腕を引き寄せ強く抱きしめる。

 

「…どうしたの…バルフレア…。あなた…震えてるわ…。」

「……………。」

「…どうしたの?何かあったの?私力になるから…相談して?」

 

もし、俺があの悪夢のことを教えたら。はきっとこう言うだろう。

「近い未来、そうなるかもしれない」と。

が 有る と言えば 有り得てしまうと先ほど言ったばかりだ)

 

「…もしもの話だ。たとえ世界中の奴ら…ヴァン達もだ。全員が敵になっても…」

「……うん?」

「俺から絶対離れるな。俺もを離したりしない、だから…。」

「うん……。」

「何も言わず、勝手に俺の前から消えるようなことはしないでくれ…。」

「……わかってる…」

 

 

 

「…もう…馬鹿ね…。」

「あなたに抱きしめられてる時点で、私は世界中の女の人を敵にまわしてる…。」

 

 

 

 

 

 

 

逆鱗にれる

 

 

 

たった一人の人を愛している、ただそれだけなのに。

世界はあまりに無情で、絶望に満ちている。

 

 

 

 

 

 

 

***

すっごくザラザラで触れるのも辛い恋、というかなんというか…。

あとはそのままの意味で 神やら世界やらの逆鱗に触れる、という意味で。

暗い話なんだけども、ものすごくお互いを大切に想っている…というのが伝わればよいのですが…。

20081002