「おねーさん、おねーさん。お菓子をちょうだい。」
空には月がぽっかりと浮かび、吹き抜ける風が冷たくて少し肌寒い。
それにも関わらず、街の中はにぎやかで熱気を帯びていた。
子供たちは満面の笑みを浮かべ、可愛らしくお化けの格好をして家を訪ね回る。
そう、今日は所謂ハロウィーンであった。
(もともと修道女だったこともあってか)子供たちの笑顔が好きで、喜ばすイベントが好きなは
朝からこの夜のために休むことなく大量のクッキーを作っていた。
「はい、どうぞ。可愛いお化けさん。」
男の子はからクッキーを受け取ると、スキップしながらまた隣の家へと走っていった。
しん と静かになる一室。遠くから、ハロウィーンパーティーの音や、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
仲間は皆街へ出て行ってしまったが、ずっと動き回っていてよくやく全てのクッキーを配り終えたには
宿屋から出る元気など残されていなかった。
「!ただいま!!」
静かだった部屋に突然ドンと大きい扉の開ける音が聞こえ、の眠気は一気に吹き飛んだ。
「びっくりした…!一体どうしたのヴァン。あなた、パンネロと一緒にパーティーへ行ったんじゃなかったの?」
「それがさぁ…パンネロ、フランとアーシェと一緒にどっか行っちゃったんだ。」
「そうだったの。でも、まだパーティーは終わってないんでしょう?」
「あぁ。ちょっと忘れ物してさ。」
ニシシっとヴァンは笑うと、の前に立ち両手を差し出した。
「トリックオアトリート!」
突然のヴァンの言動に、始めはきょとんとしたが 17歳の青年にしては幼い顔にぷっと吹き出した。
そういえば朝クッキーを作っている時から、彼は物欲しそうにの後ろをくっ付いて回っていたなぁ、と。
「はい、これがヴァンの分よ。」
「やった!ありがと!バルフレアに自慢してやろっと。…は外、行かないのか?」
「ええ…。私はここにいるわ。ちょっと疲れちゃったの。」
「そっか。じゃあまた後でな!」
ぶんぶんと手を振るヴァンの姿を見送ると、部屋に再び静寂が訪れた。
ソファにもたれ、読みかけの本を開くと びっしりと詰まった文字を目で追いかける。
1ページ1ページめくるスピードは、次第にゆっくりになり いつしかその手は止まっていった。
***
「……ん…」
ふわふわと体が浮いている気分に不自然さを感じ、はぼやける頭をゆっくり覚醒していった。
浮遊感はどうやら間違いではなく、今確かに体は浮いていた。
「…戻っててきて正解だったな…。」
聞きなれた声。安心する香水の匂い。
「………バルフレア!?」
「…悪い、起こしたか…。でもソファで寝るなよ。風邪ひくぞ。」
「どうして…バッシュと一緒にお酒を飲みに行ったんじゃ…」
バルフレアはぽすんとの体をベッドの上に降ろすと 自分も隣に腰を降ろした。
「さっきまでな。今将軍はヴァンの子守りでてんてこまいだ。それよりお前。」
「なにかしら。」
「もうちょっと警戒しろよ。ここは宿屋で、その上今まで以外誰もいなかった。無防備すぎる。」
「気付いたら寝てしまっていたの…。でも大丈夫よ、私なんか 誰も襲ったりしないわ。」
がそう言うと、バルフレアは途端に表情を曇らせた。
しかし、まだ寝起きのにはそれをはっきりと読み取ることなど到底無理なこと。
「本当にそう思うのか?」
「ええ、もちろん。」
バルフレアはふぅんと呟くと、じりじりとをベッドの端へと追い詰めた。
「…Trick or treat ?」
「……バルフレア?」
「ヴァンにはあって、俺にはないのか?」
「…ごめんなさい、ヴァンにあげたので最後だったの。」
もう一度 ごめんなさい、と眉を下げるとは裏腹に
バルフレアの顔は残念がるどころか 妖しい笑みを浮かべていた。
「きゃっ…どこ触って…!だめだって、バルフレア!みんなが帰ってきたら…」
「…パーティーはまだまだ終わらないさ。ハロウィーンの夜は長いんだ。……それに」
「お菓子をくれなきゃ 悪戯していいんだよな、。」
狼男にご用心!
***
ちょっと早いけどハロウィーンということで。英語でスラスラ言えるバルフレアとそうでないヴァン。
バルフレアは、ある意味、狼男の仮装をしてたよ的な。
…なんだこれ。
20071027