いつからこんな風になってしまったんだろう?
どうしてこんなにも、あなたを想うようになったんだろう?
あなたがいない。
あなたがいない。
モブ討伐へ行った3人を思い浮かべて、今日何度目かの溜息をつく。
正確には、3人のうちの1人を思っているのだが。
…ヴァン、バルフレア、フランの3人は、昨日依頼を受け 夜明けには討伐へ出かけてしまった。
今回の敵は、非常に凶暴で 体力と力のあるヴァンとバルフレア、
そして魔力もあり、体力的にも強いフランが行くことになったのだ。
当然、今現在のように心配でたまらなくなるのは目に見えていたし、
それならいっそ着いて行こうと「私も行く」と名乗りを上げれば
即座にバルフレアからお叱りを受けた。
「お前には危険すぎるから駄目だ」と。
その次の瞬間には、優しく微笑んで
「俺の言うことが聞けるだろう?」
と頭を撫でてそういわれては、従わずにはいられなかった。
納得なんて言葉は 心にも体中探し回ってもないのに。
「はぁ〜…」
盛大な溜息をまたひとつする。
「まだ帰ってこないのかな……。」
止まっている宿屋の窓の2階から
外を見つめて放った言葉は、空へと消えて行く。
一番に、帰ってくるその姿を見つけるために陣取った場所だというのに
一向に訪れないその瞬間に 逆に切なくなってしまう。
「心配しなくても直に帰ってくるさ。」
突然後ろから声を掛けられてびっくりする。
でもそれがよく知っている声だと分かれば途端に安心する。
「それとも、私では君の気を紛らわすことも出来ないかな?」
「まぁ、バッシュさんたら…!そんなこと、私が思わないって分かってるのに!」
にっこりと大らかな笑顔につられ、顔が緩む。
バルフレアとはまた違う、大人の包容力に今は落ち着く。
それもそのはず。
元々、モブ討伐には フランではなくバッシュが行くはずだった。
その方が戦力的にも有利だし、何より頼りになる。
それでもこの場にバッシュがいるのは…言わば、子守りを任されたようなものだ。
今の、心配で仕方ない私を支える為なのかもしれないし、突っ走ってしまいがちな私を止めるストッパーかも分からないが。
とにかく私を気にして バルフレアがバッシュをここへ残したのは分かっている。
危険な目に合わせない様に、連れて行ってくれなかったのも ちゃんと分かってる。
気付いているのに。
ちゃんと、頭では分かっているのに。
いつからこんな風になってしまったんだろう。
これじゃ、子供と一緒だ。
「…帰ってきたら、バルフレアに怒られてしまうな。」
「………えっ?」
「私では、役不足だったようだ―――。」
そう言ってまた優しく笑うバッシュ。
「ごめんなさい、バッシュさん。私…。」
「ははっ、君の所為じゃないさ。ただ、君の心に隙間はないということだな。」
バッシュの言葉の意味が上手く理解できなくて、必死に頭を動かす。
隙間がない?
隙間ってどういうことなんだろう?
そんなに切羽詰まった顔をしているんだろうか。
「はさ、バルフレアさんがよっぽど好きなのよ。」
同じように心配になって来てくれたのか、パンネロがそっと背中に触れる。
「私から見れば二人はそっくりだな。」
「そっくり…?」
「バルフレアも君も、同じだな。お互いが大切で仕様がないようだ。」
あぁ、そうか。そういうことなんだ。
隙間がないって。
私は、本当に一つことしか見えてないんだ。
「大丈夫よ、―――。さぁ、元気をだして?」
「あぁ、もうすぐで帰ってくる。」
ポンとバッシュが頭を撫でてくれる。
その手は大きくて、暖かくて、とても優しいものなのに。
心は確かに安心して安らぐのに。
駄目なんだ。
―――バルフレアじゃなきゃ、駄目なんだ。
「!ヴァンたち帰ってきたみたいよ!」
階段の下からアーシェが声をかけてくれる。
それと同時に宿屋の戸が開いた音がして、大きな声が聞こえる。
「たっだいまぁー!すっごいお宝見つけてきたぞ、パンネロ!」
「…お前はうるせぇんだよ、まったく。」
ヴァンに鋭い突っ込みをいれたかと思えば、
バルフレアは辺りを見回して姿を探す。
「バルフレア、お疲れだったな。」
バッシュのその声に軽く手を上げて返事をした。
「おい、は―――。」
どこにいる、と続くはずだった言葉が途切れる。
それもそうだ。
探していた張本人が、今まさに自分の胸に顔を押し当てて抱きついているのだから。
もっとも、体の小さなでは しがみついているという表し方の方が正しいと言えそうだが。
「おい…。どうした…?」
声をかけてみても 顔を隠したまま何も言う気配がない。
何があったのかと、バッシュに視線を向けたバルフレアに
バッシュは肩をすくませて微笑んでみせる。
言葉はなかったものの、バッシュの言わんとしていることが分かったのだろう。
がこうしている理由が。
―――なるほどな。
「…フラン。」
名前を呼んで視線を向ければ
「いいわよ。」
と返ってきた。
了解を得たのだから、後はをどうにかするだけだ。
「世話のかかるお姫様だな―――。」
「…あっ」
そういって、バルフレアはの体を抱き上げる。
俗に言う、お姫様だっこで、バルフレアは階段を上っていった。
***
連れてこられた場所は、昨日の夜フランと共に過ごした寝室。
ああ、だからさっきフランに声をかけたんだと一人納得しているとそっとベッドの上に下ろされる。
座った私の前にバルフレアがひざまずいて 目の高さをあわせてくれた。
「……。ただいま。」
そう言うと、ぎゅっと手をにぎってくれる。
待ちわびたそのぬくもりに、自然と涙がこぼれてくる。
「…バルフレア…っ」
「おいおい、本当に一体どうしたって言うんだ。」
本当、私はどうしてしまったんだろう。
いつからこんな風になってしまったんだろう?
「嫌なの…っ!嫌なの…あなたが、私の知らない遠いところへ行ってしまいそうで…!」
そうだ―――。
私は、怖いんだ。
バルフレアのいない、明日があると思うと。
「あなたが、好きなの…っ バルフレア……」
たとえ髪の毛一本でも、失いたくない。
「…。」
「俺はここにいる。分かるか?」
「…分かる…。」
「なら何も心配するな。俺はどこへもいかない。だから、もう泣くな。」
私では、ただしかみつくしか出来ないというのに、
今度はバルフレアに強く抱きしめられる。
包みこまれるように。
「バルフレア…?」
そばにあるぬくもりに嬉しくなって、名前を呼ぶ。
「そんな声で名前を呼ぶな。…襲うぞ。」
耳元でそう呟かれ、頭がくらくらした。
おかしくなってしまいそうだ。
「……バルフレア…。私、おかしくなっちゃ……」
おかしくなっちゃったのかなぁ、と投げかけようとしたら
途端に唇が触れる。
背中にあった手で、そろそろと体を撫でられ、さらに強く抱きしめられる。
「…んん、バルフレア…!」
「…ばぁか、とっくに俺はおかしくなってる。」
要らない心配を、二度としないように。
「心も体も、俺で一杯にしてやるさ。」
それこそ、とっくに私はバルフレアのことでいっぱいなんだよ…。
いつの間にか、バルフレアの存在が大きくなって。膨れ上がって。
どうしてこんなにも、あなたを想うようになったんだろう?
少し離れただけでも我慢できない。
そばにいたくて、たまらない。
きっと。バルフレアは麻薬なんだ。
耳にそっと囁くその声が
私の身体に触れるその手が
愛をくれる、その心が
あなたの全部 何もかもが 私の全てを駄目にしていくの
そう
あなたは あまいあまい麻薬
もう放せない 止まれない
あなたがいなきゃ
私はもう 一人で立ち上がることすら出来ない身体なんだよ
***
えっちぃ感じにしようとか、そう思ったわけではないのですが
気付いたときにはこんなことに。。。 セーフですか?アウト?
とはいっても、結月はチキンなのでそんなすんごいのは書けないですからご安心を。
“気付いたら相手のことで一杯でしょうがない” っていう恋がすきです。