今思えば、朝から彼女の様子はおかしかった。
真っ白な肌が、今日は妙に血色がよかったり
やけに足がふらふらしていたり、ほっておくと明後日の方に歩いていったり。
(まぁ日頃から危なっかしいところが多いのだが。)
「ー!そっち行ったぞ!」
「わかったぁ!まかせてー!」
任せてくれという言葉の割には、どこか気の抜けるような声。
モブ討伐のため、ギーザ草原にやってきた俺たちは苦戦を強いられていた。
小さくすばしっこくその上草の色と同化し、追いかけては逃げられまた追いかけては逃げられを繰り返し、
二手に分かれたところで、ようやく挟み撃ちに成功したのだ。
しかし残念なことに、今は雨期。地面は滑っているし、雨は容赦なく降り続ける。
旅をしているとはいえ、あまり雨の中を歩く事のない俺たちと 雨期のギーザ草原に出るモブとでは
あきらかにこちらが不利だ。
「よぉぉし、いっくぞー!」
おいおい、なんか気合入れすぎじゃねぇかと思っていた瞬間
「サンダー!サンダラ!サンダガーー!!」
そりゃもう凄いなんてもんじゃないほどの稲妻が空から落ちてきた。
まだ目がチカチカするし、耳だってめちゃくちゃ痛い。
魔力が強くて、誰よりもデカイ威力の魔法使える奴が、強い魔法使ったもんだからそうなっても不思議じゃないが
雷三連発をナメちゃいけない。モブを倒せるかどうかより自分の身を案ずるべきだ。
「うわわわっ !ストップストップー!!」
同じように身の危険を感じたパンネロがすぐさまを止めに入る。
魔法の大サービスは終わったが、モブの姿がない。倒れてる様子もない。つまり見逃した。
あんな凄まじい雷光の中で物を捕らえられるほど人間の視力は発達してないはずだ。多分。
「。頼むから今日は魔法使わないでくれ…。」
「えー!何でだよ!の魔法、威力強いのによ!」
「だから問題なんだよこのバカが!」
そりゃあヴァンの言うとおり、の魔法が役に立つときもある。
だけど今日は別だ。いつもこんな乱暴に魔法を使ってないし、…うまく力配分できてないんじゃないのか?
「問題ないって〜 バルフレア。そんなに怒んないでさぁ。」
………………まさか、こいつ
「わたしならだいじょうぶだいじょうぶ〜!って…あれ…?」
ふらふらふらふら こてん
まさにそんな音が、の体から聞こえてきた気がした。
「おい、泥の上に倒れんな。服よごれるぞ……ってお前!」
「バルフレア…顔、怖い…。」
「何が顔怖いだ!お前…すごい熱じゃねぇかよ!熱出してんのに何でこんな雨の中突っ立ってる!」
「ご、ごごごごめんな…さ………い……。」
…ほら見ろ。
この女の大丈夫ほど信用できないものはないんだ。
***
(風邪ひいて熱だしたのって…いつ以来だろう…)
(ふかふかのベット…気持ち、いいな……すいこまれそう……)
「…大丈夫よ。もう泣かないの。お母さん、ついてるからね。」
(おかあさん…そっかぁ…そんなに幼い頃だったのか……)
「可愛い…。私の大切な娘よ、。」
(おか…あさん……私……)
「………………っ」
「…大丈夫か?」
「バルフレア……(夢、だよね。やっぱり…)」
風邪引くと人は気弱になるっていうけど、あながちはずれではないみたいだ。
母親のことを思い出すことは別に普段でもあるというのに、今はとても寂しくて仕方がない。
目が覚めたときにバルフレアがいたことは、寂しさを紛らわすには良かったが、
「バルフレア…ありがとう。でも風邪うつるから…離れてたほうがいいよ。」
「ああ、いいんだ。風邪ひくから休むっていってこっちへ来た。」
……へ?
「風邪をひく…?誰が?」
「俺が。」
ちょっと待って、なんか嫌な予感がするのですが
「あの…風邪、ひいてないですよね…?」
「……これからひくんだよ。」
ギシリ、とベットのスプリングが静かな部屋に響く。
「―――ちゃんとうつせよ。」
灼熱のくちづけ
(おれが嘘吐きにならないように、な)
***
…なんだこれ…。
バルフレアが、最近プンスカ怒ってるだけのような気がします。