長い長い野宿生活を乗り越え、ようやくたどりついたそこは、

街全体がアンティークな雰囲気を漂わせていて

落ち着いた、どこか懐かしい気持ちになれる小さな街だった。

買出しの途中、通り過ぎた店の前に もう一度戻る。

ショーウィンドウに飾られたそれと、目が合った。

 

「可愛いなぁ…。」

 

そうつぶやいたの視線の先には、小さなテディベアのぬいぐるみ。

はりつくように、じぃっとテディベアを見つめては「う〜ん…。」と唸っていた。

 

「(欲しいなぁ…でも怒られるかなぁ…。絶対、“子供っぽい”とか言うだろうなぁ…)」

 

この場を立ち去ることも、テディベアを思い切って買うことも、

どちらの決意もには出来ないまま、時間がすぎていく。

 

「……なにしてるんだ?」

「――――!!」

 

よく知った声を聞き、一瞬体が跳ね上がる。

一番見られてはいけない人に、見つかってしまったから。

そぉっと振り返れば、相変わらず格好よく立っては自分を見つめるバルフレアの姿。

バルフレアもまた、自分と同じ買出し担当なのだから 宿に戻るこの道で会わない訳がないのだ。

 

「あ、いや…なんでもないの。なんでも!」

 

却下されるのが分かっていたからこそ、とっさに自分の体でそれを隠す。

もちろん、あからさまに不審なその行動に バルフレアが気付かない訳がないのだが…。

 

「なんだぁ?それが欲しいのか?…お前意外とガキっぽいもんが好きだな。」

 

方眉を上げて、隠されたテディベアを見てそう言い放つ。

ほんの数分前に想像した相手と台詞がぴたりと当たり、苦笑した。やっぱり思った通りだったと。

 

「大人の色気がなくて、すみませんね…!」

 

別に腹が立ったとか、そういうことではないのだが

言い返せる言葉がこれしかなかった。気まずくなって、バルフレアの横を通り過ぎる。

実際、自分でも子供だなぁとは思うのだ。

19にもなって、何を今更と。

…でも、一回くらい 触ってみたいじゃないか。

ぬいぐるみといえど、私には手にしたことも触ったこともないのだから。

 

 

 

 

 

が立ち去ったその店の前で、今度はバルフレアがテディベアを見つめる。

笑っているようにも見えるその顔を眺めては、ポリポリと頬をかいた。

 

「俺としたことが、言い方が悪かったな…。」

 

先程に告げた一言は、どちらかと言えば自分に対して言ったというほうが正しい。

馬鹿にするつもりも、からかうつもりもなかった。

に何かプレゼントしたいと、そう思いながら今日の買出しへ出たのだ。

好きな女のためならば。もっとも、恋愛に疎い彼女は こちらの気持ちなど気付いてはいないのだが…。

の喜ぶ顔が見れるのなら、何だってしてやりたいから。

 

しかしそんな思いとは裏腹に、なかなか決まらなかったのだ。

に似合うものなどすぐに見つかったのだが、が気に入るものとなると話は別だ。

シンプルなネックレスでも「神に対して失礼です!」と相変わらずの台詞を返されるから。

ところが帰りの道で偶然をみかければ、はこのテディベアが欲しいという。

「なんだそれがいいのか。やっと分かった。」 そう思ったことがつい口に出てしまった。

それをは勘違いしてしまった。

好きな女を傷つけたのだから、これ以上の悔しさはない。

 

 

口説いた女は沢山いるし、不自由したこともない。

こんなに頭を悩ませたのは、たった一人だというのに。

 

 

 

***

夜が明け、皆それぞれ身支度を整える。

今日でこの街ともお別れだ。

 

「(あのくまちゃんともお別れかぁ…)」

なんて情けないことを思っていると、同室のフランに声をかけられた。

 

「あら?元気がないわね…。プレゼントが気に入らなかったのかしら?」

「プレゼント…?」

 

 

 

 

ドンドンと大きなノックが何回も聞こえる。

朝からヴァンの奴め…と、呆れて扉を開ける。

 

 

その瞬間、抱きついてきたのは 以外にもだった。

 

「おい、どうし――「ごめんなさいっ!」

 

何のことだと思って、の続きの言葉を待つ。

 

「ごめんなさい、私…。あなたが私に何か贈り物を考えていてくれたなんて知らなくて…

 なのにあんなに酷い言い方して…本当にごめんなさい。」

「ちょっとまて。それ、誰から聞いた?」

「フランから…。」

 

そういえば、この前一緒に酒を飲んでいた途中、そう話した記憶がある。

酒の所為で口止めするのを忘れてしまったが。

 

「怒ってますよね…。」

「怒ってないさ。」

 

むしろ怒るのはの方ではないのだろうか。

理由があったにせよ、あの言葉は俺の本心なのだから。

 

、ちょっとここで待ってろ。」

「う、うん…。」

 

そういって一旦部屋に戻り、目的の物を手にしての元に戻る。

 

「俺はお前にごめんと言わせたい訳じゃないんだ。」

「え…?」

 

綺麗に包まれたそれを、の手に渡す。

開けてみろと目で促し、リボンをほどくのしなやかな手を見つめる。

 

「これ…!」

「お気に召しましたか、姫?」

 

の手には、ふんわりとした毛のテディベア。

 

「ありがとう、バルフレア!嬉しい…すごく嬉しい…!」

 

そう言うなり、また俺に抱きついて「ありがとう」を繰り返している。

ぬいぐるみ1つでここまで喜んでくれるなら安いものだ。

 

 

なんせ君を喜ばせるためなら、どんなことだって出来る そんな気がするから。

 

 

 

愛する君に捧ぐ

 

 

 

 

***

ヒロイン憎たらしいなぁ…。(笑)

本当はもっとおとなしい女の子ですよ、本当に。

というか、この世界に熊はいなさそうだよね;ギーザラビットとかがいるくらいだし、

ヴィエラに至ってはまんまだし、ウサギのぬいぐるみの方がよかったかもしれない。

でも今更もうどうしようもない。(笑)