目が合うと、どうしていいか分からない。
前は、こんなことなかった。
目が合ったとき、軽く微笑む余裕だってあったし 手をひらひらと振る余裕だってあった。
いつからか、
バルフレアの姿を見るだけでドキドキして、ほんの一瞬でも目が合うだけで心臓が破裂しそうで。
それなのに この眼にその姿をずっと映しておきたいから ゆっくり顔を上げて、こっそりバルフレアを探す。
バルフレアもこっちを向いていたら、目が合ってしまうからもう一度顔を下げる。
背中を向いていたら、「振り向きませんように」と祈りながら盗み見する。
(大概、彼はどうしてかすぐ振り向いてしまうのだけど)
皆で歩いている時、街へ来た時は、
もう、自分の意思とは無関係に、目が勝手にバルフレアを探した。
私は迷子になった子供のように、親を探す子供のように、必死になって彼の姿を探す。
「やっと見つけた!」と思ったときには目が合っていて、私の思考はフリーズする。
はっと意識が戻った頃には、私は急に沸騰したお湯のように真っ赤になって
自分でもおかしなくらいうろたえてしまう。
いつからこうなってしまったんだろう。
どうしてこうなってしまったんだろう。
「…。?」
「え?あ、ごめんなさいアーシェ。ボーっとしてて…。」
「いいのよ。あなた、パンネロと一緒にアイテムを買い揃えて欲しいんだけど…いいかしら。」
「う、うん!分かったわ。」
本当はもっと近づきたいのに、もっと話をしていたいのに。
目が合うだけで、どうしていいか分からなくなってしまうなんて。
「バルフレアはヴァンと一緒に宿の手配をしてきて頂戴。」
「はいよ、っと。かしこまりました。」
しばらくの間、会えなくなると思うと寂しくて こっそり彼を見たら目が合った。
あたふたして逃げる間もなく、バルフレアはこちらへと向かってきたから、
私の心臓は更にオーバーヒートしそうになった。
「帰り途中で酒買ってきてくれ。…姫様には内緒、な?」
「…う、うん。」
「くくっ…あわててコケんなよ。」
「コケない、よ…!」
そうかじゃあ頼むな、と頭を撫でられた。触れられた部分が熱い。顔が火が出たように熱い。
私はどれだけ彼にドキドキしたら気が済むのだろうか。
別れ間際にもう一度バルフレアを見たら、案の定また目が合ってあわててパンネロと買出しに向かった。
「どうして、合っちゃうんだろ……。」
「あぁ、バルフレアさんのこと?」
「目が合うと嬉しいんだけどね、そしたら私 ドジなことばっかりしちゃうから…」
この歳になって、初めて迎えた恋という名の感情は なかなか理解できなかった。
今まで何の変哲もなかったことに、好きな人が加わるだけで世界はがらりと変わる。
枯れ果てた大地は花畑に、モノクロの世界はカラフルへと変わる。
胸のドキドキは止まらないし、心臓は周りに聞こえてしまいそうな大きな音を出して揺れる。
「目が合わないほうが助かるんだけどな…。それなのに、どうして合っちゃうんだろう…。」
頭からつま先まで好きという気持ちで満たされて、体中から溢れ出てしまいそう。
だけど好きという言葉じゃ足りない。好きという言葉じゃ表せない。
もっともっと大きくて、もっともっと頑丈な言葉が欲しい。
「うーん……それはさ、あれだよね。」
愛は、この世に存在する。
きっと、ある。見つからぬのは愛の表現である。
その作法である。
「『相手も自分を見てるから』、じゃないかな。」
***
「愛は、この世に存在する。きっと、ある。見つからぬのは愛の表現である。その作法である。」 ―太宰 治
家に何故か、名言・格言集なるものがあって、そこから頂きました。
いやはや、やはり時間が流れても名を残してらっしゃる方は 本当にいい言葉を仰られる。
恋の始まって間もない頃って、こんな感じかなぁって。嬉しいけど困る。困るけど嬉しい。矛盾の繰り返しですよね。
わりと短い話ですが、様々な場面展開のある話よりも こうして心境を模写した話のほうが
どうやら得意らしい…。(文章の乱れが少ないよぉぉぉぉい!)
20071201