私があなたを好きだと言ったら 笑うかしら。

 

涙が出るくらい大笑いするかしら、それとも馬鹿馬鹿しいと鼻で笑うかしら。

たとえそうなっても仕方がない。だって恋なんてしたことないから。

右を見ても左を見ても、嗚呼知らないことばかり。

上を見ても下を見ても、嗚呼恋は限度を知らない。

嬉しいことも悲しいことも 唯あなたが関わるだけで果てしなくなる。

面倒くさいでしょう?つまらないでしょう?

ほんの些細なことでいちいち一喜一憂してる私は。

面倒くさいでしょう?つまらないでしょう?

あなたとお酒を楽しむこともできない。体を差し出すこともしない。

そんな私が。あなたに恋をしてるだなんて笑い事にも程があるのに、

私はこの想いを封じることも抑えることもできないなんて。

「バルフレア。…どうかした?」

話しかけても気付かない程に。考えているのが私の事だったならいいのにと思う。

「ありがとう。それでね、」

あなたが触れた感触を逃さないように。髪に敏感な神経が通っていたならいいのにと思う。

「アーシェがあなたを探していたの。」

本当はこのままどこにも行かないで欲しい。アーシェが、バルフレアを、バッシュや私達とは

違った意味で、信頼しているのを知っているから。

行かないで。ここにいて。心の叫び。でも私はそれを知られちゃいけない。

彼は自由を愛する人。縛り付けることなどしてはいけない人。

「…お前はこれからどうするんだ。」

「あ、大変!そう言えばアルシドさんにお茶を誘われていたんだわ。」

行くな、なんて言ってくれるわけもない。嗚呼期待して馬鹿みたい。眼中にもないのね。

アルシドさんがアーシェに近付いた時には、あんなに不機嫌な顔をするのに

目の前のあなたは表情ひとつ変えてくれない。

「早く行ってあげて。ずっと待ってたみたいだから。」

だから私も表情を変えてはならない。どんなに悲しくても辛くても苦しくても悔しくても。

優しい彼は 私がそんな顔をしたら心配してしまうもの。

人は私を聖人君子のように言うけれど、私は人よりずっと狡賢くていやらしいのよ。

枯葉をとってもらったことに二度もお礼を言って、いい子だなって思ってもらうの。

(何度もお礼を言いたいほど私には嬉しい出来事に間違いはないけれど)

 

「私、バルフレアのそういうところ、結構好きよ。」

そういうと彼は初めて表情を変えた。

でもその表情は優しいほほ笑みではなく、なんだか苦い顔をしてた。

『軽い気持ちで言ったように聞こえる好き』なら、どんな反応をされても

怖くないと思っていた。傷付かないと思っていた。

そう思っていたのに、分らない。

私の心は 「言わなきゃよかった」 そんな気持ちでいっぱいなのはどうして?

 

 

 

嗚呼、のように

 

 

 

右を見ても左を見ても、上を見ても下を見ても、嗚呼行き先が分らない。

あなたに関する全ての感情を背負って、私は何処へ向かえばいいのかしら?

 

 

 

 

 

 

***

「立つ鳥跡を濁さず」の反対版。救済のように見えて余計にやりきれない、か…?

狡賢いと思っているヒロインですが、本当に狡賢い人は「悲しい顔」して相手を引き留めるものです。

そのへんが、恋をまだよく知らない甘さであり、嫉妬したりする自分に対する嫌悪でもあり…。

気を抜くとすぐにでもヤンデレになりそうでした。

 

20080304