「あら…?ヴァン。ズボンの膝のところ、破れちゃってる…!」
宿に向かう途中の街の中で。
きっかけは、のそんな一言だった。
ヴァンは戦闘の時にしたって、ただ普通に歩いてるときだって、
とにかく騒がしくて行動的だ。
そんなヴァンに悲鳴を上げる服は
何回だって、穴が開いてしまったり破れてしまっている。それを何度が繕ったことだろう。
「あ、本当だー!」などと、当の本人はパンネロと共に大きな声で笑っている。
「ヴァンはいつも元気がいいからな。」
とバッシュが3人のもとへ呑気に言う。
それを聞いて達は楽しそうにまた笑う。
「…あ!バッシュさんも、ベストが破れてしまってるみたい!」
そうやって細かい事にも気付けるのはのいいところだと思う。
だが今はそんなことは別の話だ。
「ふふふっ。2人とも、今日お風呂入ったあと私のところに持ってきてくださいね!」
何だかもやもやした。
そんな優しい顔で笑うなと、心の中で呟いては何とか嫉妬ともとれる感情を押し留めた。
***
「ふーっおわったぁ…」
宿屋のリビングで、ひとり黙々としていた裁縫作業が終わったのだろう。
扉を開けて、に近寄った。
「あれ…?バルフレア、まだ起きて…きゃっ!」
立ち上がった瞬間、ぎゅっと抱きしめられる。
私は身長が小さいから、すっぽりとバルフレアの中に納まってしまう。
恥ずかしくなって、「どうしたの…?」って聞いてみたら。
「別に…何でもないさ。」
と言われ、更に強く抱きしめられる。
いつもと違う、ベストを脱いで シャツを着ただけの姿に、胸が高鳴る。
ふと見つける、それ。
「ぁ…バルフレア、ボタン取れそうだよ…?丁度いいし、今つけるね!」
自分の胸の高さにあるの顔。
恥ずかしがって伏せているとは言え、気が利くだからこそ
見つけられるボタンの緩み。実は少し前から、それは取れかかっていた。
言われるままにシャツを脱げば、現れた体に思ったとおりに赤くなる顔。
「それじゃ寒いよね…!何か羽織るものもって…!」
あわててそう言うに
「いや、大丈夫だ。これだと寒くないからな。」
と言って、ソファに座った自分の膝の上に
半ば強引に座らせた。
初めのうちはじたばたしていただが、
観念したのか今はまた黙々とボタンを縫い付けている。
何回、指に針を刺してしまいそうになっただろう。
無いと思ったことはないが、普段は見えない 程よく付いた筋肉に
恥ずかしくなって目を逸らしたのに、今ではその体に包まれていて。
おまけに左手は太股に、右手は髪を撫でられて…
顔がきっとすぐ後ろにあるんだ… 耳にかかる、穏やかな呼吸。
くらくらして、熱くて。
何とか終えた作業。
「バルフレア…終わったよ?」
そう言うとすぐさま離れようとするをぎゅっと捕まえては
どこへも行けないように、腹を手で固定してやった。
面白いくらいの反応が返ってくるかと思えば。
そっと自分の手に重ねられた、小さなの両手。
それだけで嬉しくなって、少しつめたいの手を温めるように絡めてやる。
「…」
耳元で名前を呼べば、一瞬びくっと震えるが愛しくて。
「…好きだ。」
と思わず口に出せば。
「わ…私も好きだよ…」
珍しく返ってくる、小さな返事。
本当は抱きしめられるのも、手を繋ぐのも好きで。
でもそんなこと恥ずかしくて、いつもじたばたして逃げてしまう。
いつもそのあと後悔してるのをバルフレアは気付いてるのかな。
思えばずっと、私の頭の中はバルフレアで一杯だ。
ヴァンたちとどれだけ楽しく話してたって、ずっと想う バルフレアのこと。
話しかけようにも話しかけられなくて、“話に入ってきてくれないかな”なんて
自分だけ、勝手なわがままをもって。
「だいすき、なんだよ…?」
ちゃんと伝わってる?そう問いかけるように、今度は大きな声で言えた言葉。
するとまるでその返事のように、頭にキスされる。
ドキドキする。胸が苦しくなる。でも心に広がる、幸福感。
こんな感情、バルフレアと出会ってからだ。
自分でもガキみたいな嫉妬だと思ったが
それでもよかった。
の前だから、自分はありのままの感情を出せる。
の前じゃ、俺は不器用になれる。
どんな些細な事も、小さな出来事も
がいれば、嬉しくなって、大きく膨らんでいきやがる。
欲は尽きないばかりだ。
を喜ばせるなら何でもしたいし、
独占できるなら、ずっとそうしていたい。
矛盾する想いも、それは相手がだからだ。
随分侵食されていると思う、心の奥の 奥まで