Sweet Kiss

 

 

 

 

「あいつらどこいった?」

 

 

 

小さな森の中で、少し不機嫌そうなバルフレアの声が響く。

あいつらというのは、“今日はここで野宿をしよう”と決めた途端に

探検へと出て行ってしまったヴァンとパンネロの事。

「ちょっくら行って来るぜ!」と意気込んだヴァンにぐいぐいと連れて行かれたパンネロが

嫌だと言いつつも抵抗しなかったのは惚れた弱みと言うべきか。

 

 

「そろそろ日が暮れる…。このままだと危険だろう。」

 

 

バッシュの言う通り、ただでさえ迷ってしまいがちな森が更に迷いやすくなる。

野生の勘が鋭いヴァンといえど、無事に戻ってくる確率は100%とは言い切れない。

 

 

「でも、これだけ広い森の中を探すとなると…逆に入れ違いになるかもしれないですね…。」

 

 

「う〜ん…」と三人が唸って頭を抱えだす。

今夜の夕食を担当するフランとアーシェの手も、気になるのか動いてはいない。

 

 

ガサガサ

 

 

葉っぱのすれる音が聞こえ、モンスターかと全員が身構え飛び出してくるその瞬間を待った。

しかし

 

 

「たっだいま〜!」

 

 

出てきたのは凶暴なモンスターでも何でもなく。

顔や服を汚したヴァンであった。

 

 

「ヴァン!お前どこまでお嬢ちゃんを連れまわしてんだ。」

「な、何怒ってんだよバルフレア。いてっ!痛ぇって!」

 

 

バルフレアから説教を受けるヴァンはさておき

しょんぼりと眉を下げたパンネロが とバッシュの元へ駆け寄った。

 

 

「ごめんなさい、心配かけて。」

「君もヴァンも、怪我はしていないのか?」

「はい。」

 

 

パンネロがそう返事すると バッシュは安心したようで、微笑みながらパンネロの頭を撫でた。

 

 

「なにをしていたの?ヴァンなんか、すごく汚れているけど…。」

「えっとね、ヴァンがこれを見つけて採ってたの!今夜のデザートにしようと思って。」

 

 

 

***

 

月が照らすテントの中で、楽しそうな女性陣の会話が聞こえる。

 

…ヴァンとパンネロが、遅くなるまで採っていたもの。

それは赤くて小さなさくらんぼ。

ヴァンは夕食も、さくらんぼもお腹一杯食べて今はすでに夢の中。

バルフレアはいくつか摘んで夜番へ、バッシュは剣の鍛錬へ。

 

「何度食べても甘くておいしい!」

「あはは、よかった。」

 

残ったさくらんぼは、女性陣の会話のお供になっていた。

年頃の女の子が集まれば 話は盛り上がっていくわけで。

 

「そういえば…さくらんぼの茎を口の中で結べる人って…」

「キスが上手いっていうわね。」

 

パンネロが呟いたセリフにアーシェが続けた。

『なかなか出来るものじゃないわよね』と二人は顔を合わせて苦笑した。

 

「そうなんだ…。初めて聞いた!」

「フフ、もやってみたら?」

 

フランから手渡された一粒のさくらんぼの茎を口に入れて挑戦してみる。

もごもごと動かしてみても、結べるどころか輪っかにすらならない。

 

「ホントだ…!すごく難しいよ、これ。」

 

…キスという行為そのものが無縁だったは当然とも思えるが。

 

「ね、ヴァンに試してみた?」

 

悪戯っ子のようなの顔に、パンネロはボッと顔を赤くした。

 

「し、してないよ!ヴァンなら何にも考えないでやってくれそうだけど…。

 それにヴァンが結べたら、何か複雑…。」

 

ぐーぐーと、隣のテントにも関わらず聞こえるヴァンの寝息。

確かにそうかもしれないと、クスクスと皆笑った。

 

そして流れる沈黙。

もしかしたらフラン以外、同じ考えが浮かんだのかもしれない。

 

「……バルフレアさんって、キス上手そうだよね。」

「ええ…。」

「そういうオーラ出してる、よね。」

 

ひょこっと、テントの隙間からバルフレアの姿を見た。

暇そうに、焚き火を見つめるその背からは表情は伺えない。

 

 

 

「…試してみたら?」

 

 

 

思わぬ言葉に、三人はフランの方を振り返った。

「はい」と渡されたのは、まだいくつか残るさくらんぼが入ったかご。

渡されたのはもちろん

 

「え…わたし…?」

「そうよ!それがいい。」

「これはじゃなきゃ駄目なことだわ。」

 

にとって良くない方向へと進んだ展開に 未だ付いていけない張本人。

戸惑うにかごを握らせ 小さなその背を、パンネロとアーシェがぐいぐいと押し出す。

 

「えっ、ちょ…わっ!!」

「ほらほら、行った行った!」

 

ぽん、とテントの外へと出されてしまった

何もなかったことにしようとしても、散々騒いだ所為でバルフレアは外に出てきたに気付いている。

 

「いや、あの〜…。」

 

このまま戻るのは、いくらなんでも怪しい。

 

「…となり、座ってもいい?」

「ああ、どうぞお姫様。」

 

そう言うと、小さな岩の端に寄って の服が汚れないように

ポンポンと埃をはたいた。

二人で座るにはあまり大きくなく、自然と距離が近くなる。

ゆらゆらと炎に照らされるバルフレアの横顔に思わず見とれてドキドキした。

 

「さくらんぼ、まだ余ってるからどうかなって。」

「…これは、これは。」

 

かごからひとつ取り出して、赤い粒を口に入れる。

 

「さくらんぼの茎を結べる人って、キスが上手なんだってね…。」

「それで俺が結べるか試しにきたってか?」

 

その言い方が何だか怒っているように聞こえてハラハラする。

そうだ、誰だって試されていい気分な訳がない。

 

「ごめんなさい。こんなこと、どうでもいいことなのに試そうとして…。」

 

だから忘れて、そう言おうとした瞬間。

 

「試してみるか?実際に。」

「――――え?」

 

ぐっと掴れた腕はどんどんバルフレアの方へと引き寄せられる。

 

心臓がバクバクとうるさくて、端整な顔が近づいてきて

 

「ひゃっ!」

 

怖気づいて逃げようとした所為か、後退った所為か。

 

がくんと岩からの身体が倒れそうになる。

「うわぁ…きっと痛いだろうな」と先程とは違ったドキドキがの心臓を鳴らす。

 

 

 

 

「…っと。」

 

 

 

 

大きな腕が、の背を支えて倒れるのを防いだ。

だがそれ故に、近くなった距離。触れ合った、身体。

 

バルフレアの真剣な顔から目が離せなくなって…視線が絡み合うとはこういうことを言うのだろうか。

バルフレアの瞳には私が映っていて。

きっと私の瞳にも、バルフレアが映っているんだ。

 

このまま…――――――

 

 

 

 

 

ふいに、更にバルフレアの顔が近づいてきて はぎゅっと目を閉じた。

 

 

「まったく…危なっかしくて目を離してられねぇな。」

 

目を離せない理由は、本当はそれだけではないのだけれど。

 

 

ちゅっと額にキスを落とす。

そして何事もなかったように、倒れかけていた身体を起こしてやった。

呆然と、動かないに声をかける。

 

「何だ、期待がはずれてがっかりしたのか?」

 

その言葉に気を取り戻したのか、慌てて否定し始めた。

 

「なっ!違うったら!」

 

頬を膨らませて、ぷいとバルフレアにそっぽを向いた。

 

今目を合わせてしまったら、心の中が見透かされてしまいそうで。

 

 

なんて恥ずかしいことを考えていたんだろうと思う。

あの時。

 

 

 

―――このままキスしてもいいと思った。

―――この瞬間が永遠になればいいと思った。

 

 

 

とんでもないことを考えていた自分が 恥ずかしくて恥ずかしくて。

ああ、穴があったら入りたいって感じ。

 

このドキドキを気付かれないうちに。

勘のいいバルフレアに、バレてしまう前に。

 

 

「助けてくれてありがとう…!みんなが心配するといけないから、テントに戻るね。」

 

「…。」

 

 

呼び止められて、振り返った見たバルフレアの手に。

 

 

 

 

「…据え膳食わぬは男の恥、ってな。」

 

 

 

 

きゅっと真ん中が結ばれた、さくらんぼの茎。

 

 

 

「今度こそが、俺のキスを判断してくれよ。」

 

 

勝ち誇ったように、見せた笑顔にまたドキドキして

悔しくなって

 

 

「…し、知らないもん…!」

 

 

今の私が出来る、最大限の力を振り絞って

そっけない答えを返して、慌ててテントへと戻る。

 

 

「くくく…おやすみ、。」

 

 

それでも楽しそうにそう言うのは

 

 

 

 

 

 

私の顔がさくらんぼと同じくらい真っ赤だって、とっくに気付いているからなんだ きっと。

 

 

 

 

 

 

***

ちゅーしねぇのかよっ!!(苦笑)

ありがち…というかベタだよね、展開じゃなくて内容が

春らしいモノを書こうとしたら、やっぱり桜かなぁって思って。

桜→さくらんぼ→茎結ぶ人キス上手い みたいなね。

よく言いますよね??出来る人は本当にすごい!

私の中で、バルフレアはダントツにキスは上手いと思うんです!!

キスだけで、相手をへにょへにょにさせちゃうんじゃないかって!

いや、もちろんバッシュとか…アルシド? この3人はきっとベスト3だと思います!

アルシドは雰囲気からそんな感じだし、バッシュは一見無縁そうだけど年の功で…(?)

いかん!テンション↑でこのままでは止まりそうにないので強制終了!