あなたは俺の気持ちなど知らずこの胸に降り立つのでしょう。
綺麗でないわけじゃない。いや、そこらへんの女に比べてもずっと綺麗だ。
でも自分はもっと、軽くて遊び感覚で付き合えるような女を好んでいたはずだ。自由を愛
し、何かに縛られることを嫌う。なのにどうして。今目で追いかけている相手はそれに随
分かけ離れている。軽い気持ちで愛を語ることも、寂しさを紛らわすために抱かれること
もない。それ以前に彼女は誰かを愛し関係を持つことは禁忌を犯すこと。
自分が持っていた愛と彼女の愛の落差。愛がどれほど尊く重要なものだと知るにはあ
まりに遅すぎだ。自分の手は、彼女を抱きしめるには穢れすぎている。自分の行いを後
悔するだけで過去が変えられるならどれ程幸せだろうか。そうしたら、何の躊躇も迷いも
罪悪感もなく彼女を手に入れられるのだろうか。
「バルフレア。…どうかした?」
無邪気に顔を覗き込む。よく見れば彼女の美しい長い髪に枯葉が付いている。絡
まないようにそっととってやると彼女はとても嬉しそうに笑う。
「ありがとう。それでね、アーシェがあなたを探していたの。」
そんな可愛らしい顔をこちらに向けないでくれ。この想いは届かないのにより一層膨らんで
ゆくから。たとえ同じ旅をする仲間であっても女に呼ばれているのになんの戸惑いもないと
ころをみると、自分は全く眼中にないといったところか。
「…お前はこれからどうするんだ。」
「あ、大変!そう言えばアルシドさんにお茶を誘われていたんだわ。」
このまま彼女の手をとって、どこか遠いところへ攫っていってしまえたら。
痛いほど締め付けるこの胸のわだかまりは、きっと消えてくれるのに。
行くなと言いたい。でもそんなことを言える権利はどこにもない。
「早く行ってあげて。ずっと待ってたみたいだから。」
他の男に同じように笑いかけると思うだけで自分は、酷い独占欲に駆られる。自分のもの
でもない、たった一人。彼女に向けて。
「さっきは枯葉、とってくれてありがとうね。」
時折思うことがある。実は、彼女は自分よりずっと自由人ではないかと。
「私、バルフレアのそういうところ、結構好きよ。」
立つ鳥跡を濁さず
あなたは俺の胸に波紋を残しているのも気付かず飛び去ってゆくのでしょう。
***
非常に読みにくい編集ですみません(スライディング土下座)
長編はわりとこんな感じですが、SSでシリアスなのは初めてかもしれない。
どこまで行っても報われない片想い、というのもたまには。
タイトルはニュアンス?で決めたので本来の意味とは色々間違っています。ちなみに
「立つ鳥跡を濁さず」という言葉の意味は『立ち去る者は、あとが見苦しくないように始末をするということ。』です。
20080215