心地よい風が肌を撫ぜる。
それが妙にくすぐったくなって、ゆっくりと目を開けた。
「朝か…。」
青く晴れた空からは、小鳥の小さな鳴き声が聞こえる。
部屋には自分しか残っておらず、寝坊したのだろうか。
ベッドから出て、身支度を整えて部屋から出た。
すると、廊下の角から声がして思わず立ち止まる。
「ヴァン、あのね…。これ、昨日作ったんだけど…。」
「おっ!チョコレートじゃんか! ありがとな、パンネロ!」
「う、うん。あのね、ヴァン!私…。」
「よし、パンネロ!一緒に外出て食おうぜ!」
パンネロの言葉など無視して、手を引っ張って行くヴァン。
一世一代の告白も、ヴァンの前では意味をなさない。
それでも。
本当に伝えたいことは、うまく伝えられなかったはずなのに。
パンネロの顔は嬉しそうに笑っていた。
「…若いな。」
そう一言残して階段を下りると
また再び、部屋の奥で声がする。
今日は一体何なんだとそちらを伺うと、真っ赤な顔して立っているアーシェの姿。
「バ、バッシュ…。あのっ、私…
日頃あなたに気を遣ってもらっているから、そのお礼にと思って…っ」
「殿下…。」
「べ、別に迷惑だったら受け取らなくてもいいのよ!」
「いえ、嬉しいです。ありがとございます、アーシェ殿下。」
にっこりと笑うバッシュに更に赤くなるアーシェの顔。
旅が始まった当初は、とても笑いあえるような仲ではなかったはずなのに。
今ではアーシェはすっかりバッシュの力を頼りにしているし、
バッシュはバッシュで、そんなアーシェをしっかり守っている。
時が二人を変えたわけじゃない、きっかけをあたえたのは…―――
きょろきょろと辺りを見回しても、今まさに思い浮かべていた人物の気配は感じられない。
昨日から、全くと言っていいほど彼女の姿を見ていないのだから
会いたいと思っても不思議じゃないんだ。
「遅いお目覚めね。」
「…昨日はなかなか寝付けなくてね。」
突然聞こえた声は、彼女のものではないものの、
なじみのあるその声には自然と笑みが浮かんだ。
「…を見てないか?」
「さぁ…今日はまだ会ってないからわからないわ。」
いつも頼り甲斐のある相棒でも、さすがに知らないか。
ふぅ、と溜息を吐こうとしたその瞬間、聞こえた声に重い気持ちは一瞬で軽くなっていく。
「おはよう、フラン。…バルフレア…。
あのっ、えっと…フ、フラン!こ これ、昨日言ってたでしょ!フランにプレゼント!」
「まぁ…ありがとう。嬉しいわ。」
「あっ、うん。そ、それじゃあっ。私はちょっと部屋に戻る、戻るわ!」
チラとこちらを見て、俺と目が合えば顔を真っ赤にしてすぐに視線を反らす。
そしてまたこちらを見ては…まさにそれの繰り返しだった。
色恋沙汰に慣れているんだ、今日が何の日で どういう日なのか。
それくらい知っている。が恥ずかしがっているのも分かっているんだ。
「ふふふっ、可愛いわね。」
「…そうだな。」
「悔しい?」
「誰が。」
フランが持つ、小さな箱が目に入る。先程がカタカタと震えながら渡したもの。
性格が表れていると思う、綺麗に包装されているのがらしい。
「恥ずかしがっているのよ。」
「分かってる。」
「それなら、ちょっと助けてあげたら?いつものあなたらしく、ね。」
そういうと不適な笑みを浮べて
フランは目の前を通り過ぎていった。
「いつもの俺らしく、ねぇ…。」
言われた台詞を今度は自ら口に出してみる。
相手は恋愛に慣れていない、真っ白なプリンセス。
ならば自分が出来るのは、たったひとつ。きっかけを与えてやればいいんだ。
「…。一緒にお茶でもしないか?」
昨日見つけた、にぴったりの落ち着いたカフェ。
昨日は誘えなかったが 今日は叶いそうだ。
何たって相変わらず慌ててまま、急いで出てきてくれたのだから。
***
バルフレアが連れてきてくれたカフェは、静かな音楽が流れていて、
この激しい心臓を落ち着かすには最適だった。
「…どうぞ。」
席に着こうとしたら、スッと椅子を引いて座りやすくしてくれる。
折角心を落ち着かせようとしたのに
あまりにそれが紳士的で、格好よくて、「ありがとう」と言った言葉がつい裏返ってしまう。
そうして向かい側に座ったバルフレアをじっと見つめた。
「…なんだ?」
「(渡さなきゃ…渡さなきゃだめなのに…あーんっ!しっかりして、!)」
きっと気を遣ってくれたんだ。
二人きりで、私が渡しやすいように…。
手の中の包みが、手の揺れでガサゴソと音がなる。
しっかりしなきゃ!勇気、出すんだ…!
「あの…っ!これ…バルフレア、に…。もらってください…!」
覚悟を決めたものの、そんな想いとは裏腹に
どんな反応が返ってくるのかが怖くて、ぎゅっと目をつぶってしまった。
でも…。
ぶるぶると震える手がピタリと止まる。
「…ありがとな、。」
暖かくて、大きな手に、包まれたから…。
「開けていいか?」
「うっ、うん!もちろん!」
箱のリボンをほどいて、バルフレアが箱を開ける。
昨日、皆に応援されながら作った、バルフレアにプレゼントする私だけのチョコレート。
一口サイズのそれを1つ、口の中に入れる。
「少しお酒を入れて…大人の味にしたんだけど…どうですか?」
「…あぁ、美味い。俺が好きな味だが…。
しっかしお前…。バレンタインは初めてか?」
ここまで出来ていて、渡せなかったらどうするつもりだと その目が言っている。
仰る通りです。
バルフレアに気を遣ってもらわなかったら、おそらくもじもじして
何度も近づいて、その度恥ずかしくなって逃げていたに違いない。
今朝のアレが、いい証拠だ。
「そりゃあ、シスターしてたんだから、教会にきてくれた子供達に
あげたりしたことはあったけど…。
好きな人にあげるなんて はじめてのことだか…ら………」
……………………………
…………………
…………
「きゃぁぁっ!あっ、あぁっ、やだっ 私何言ってるんだろう…!
忘れて…!今の、忘れてください……!」
「ククク…忘れるもんか…。
チョコよりもっといいプレゼントをもらったんだからな…。」
不適な笑みで見つめられるが、どうやら顔を見れそうにない。
また一層激しくなった心臓を落ち着かせるので精一杯なんだから。
女の子にとって、今日は本当に大変な日。
だってこんなに、ドキドキするんだもの。
チョコレートは上手く作れたけど
まだまだ完成に満たない、私の恋のカタチ。
これから作り上げていくんだ。
あなたと、一緒に。
***
何故2部構成…?!
女の子同士仲良くなってるのを書きたくて取り入れたら大半を占めちゃったんだよね。
私、別にヴァンネロがとかバシュアシェとかの観念があるわけではないですよ。(好きですけどねw)
ラサパンも好きだし、やっぱりヒーローとヒロインはラブが!って今だに思ってるんでヴァンアシェも好きです!
今回はこんな感じですけど。
なんだか煮え切らない終わり方かもしれない。
ヒロインは固定なんだけどさ。
長編ではまだ全然ラブラブ(死語?)って感じじゃないからな〜…
早くそこへたどり着きたいって思っても、全ては私のさじ加減なんですよね。
うっかり忘れてしまいそうになる(逃げてしまいそう?)悲しい現実…。