08
所々に張り巡らされた赤いレーザー、もとい探知装置を上手く避けて戦艦を進んで行くたち。
とはいっても、見張りをしている兵士達は居るわけで…
丁度今も、何人目かの鉢合わせてしまった兵士を倒したところだった。
「(兵士を見るとびっくりするけど…)」
楽だなぁと思う。
何せ、2人の将軍がいるのだ。
バッシュたちが先陣を切ってくれるため、サポートに徹すること以外に役目はない。
「!お怪我をなさってますわ…。……ケアル!これで大丈夫です!」
碧白い光がの手からウォースラの傷口へと移り、みるみるうちに傷は塞がって行く。
「すまん、助かった。」
「いえ、それはお互い様ですから…。そう言えば名前をまだ伺ってませんでしたよね。
私、・です。」
「…ウォースラだ。」
ウォースラは自分の名を告げると、さっさと前へ歩いていってしまった。
バッシュとウォースラ。共に強力な勇将ではあるが二人の雰囲気はかなり違うと言ってもいい。
正直なところ、一言で言ってしまえば ウォースラは冷たいようにも思える。
今アーシェを救うため、パンネロを救うため 互いに協力し合わなければならないのだが
彼は、空賊であるバルフレアとフラン。一ラバナスタ国民のヴァン、
そしての同行をあまり快くは思っていない。
その為か、時折きつい言葉をぶつけたり 鋭い視線を向けたりするのだが…
「ウォースラさん、ですね。ではお怪我をなさったら私に言ってください!
私でも、それくらいは出来ますから。」
はいつもと同じようににっこりと笑って、尚も話しかけるのだ。
決して、ウォースラの態度に気付いていないわけではない。
むしろ、自分がここに居ることを良く思っていないということをは知っている。
誰だって、自分を好いていない者と関わるのは辛いし、どこかぎこちなくなるものだ。
かといって、「今は仲良くしなきゃいけないから」といった“仕方なく”という感じは一切ない。
「(らしいな…)」
バッシュは、とウォースラの背を見つめながら思った。
のことだ。“私が仲良くなりたいから、仲良くなるの”と思っているのだろう。
は不思議だ。
その性格故か否かは分からないが、は人と打ち解けるのが早い。
ヴァンももちろん、持ち前の明るさで親しめるのだが
さすがにウォースラのピリピリした雰囲気で、彼でもあまり話しかけないのだ。
それから少し経ってからだ。
ウォースラの、へ向ける視線が少し柔らかくなったのは。
***
「殿下、ご無事で。」
「ウォースラ―――。」
数人の兵士を迎え撃ち、進んだ先にアーシェはいた。
一人で監禁され不安もあっただろう、信頼できるウォースラという部下を見てほっと安堵したアーシェ。
立ち上がった拍子によろめいたアーシェをそっとウォースラは支えた。
「殿下。」
「ありがとう。大丈夫です、私―――。」
先程の艦橋の時とは一転、表情も話し方もやんわりとしていた。
しかし、バッシュの姿をみるやいなや、途端に顔をこわばらせる。
眉をよせて、今にもまた「何故お前がここにいるのだ」と罵声を浴びせそうであったが
「ぐずぐずするなよ。時間がないんだぞ、パンネロが待ってるんだ。」
「さっさとしてくれ。敵が来る。」
ヴァンとバルフレアの言葉で、一旦は落ち着いたようだ。
アーシェを助け出せた今、残ることはパンネロの救出とさっさとこの戦艦から脱出することのみ。
納得いかないことがあるにせよ、今は受け入れてもらうしかないのだ。
「話は後ほど。」
ウォースラの言葉に、アーシェは小さくうなずいた。
部屋から出た途端、大きな警報が鳴り響き、視界が真っ赤なサイレンで染まる。
今までは、こそこそと気付かれないように、少数の兵士だけを相手にしてきたが
こうも艦内に響き渡られては 見つからずに通り抜けるのは不可能。
そう思ったバッシュは剣を握り、口を開いた。
「殿下、我々が血路を開きます。」
力に長けているバッシュとウォースラが先頭に立ってくれれば
余計な戦闘をすることなく、うまく逃げれることは目に見えている。
しかし、アーシェのプライドがそれを許さない。
父を殺した裏切り者の力を借りるなど、彼女にとっては屈辱でしかないのだから。
「私は裏切り者の助けなど―――!」
借りるくらいなら、自分で何とかする。
アーシェの言葉を遮り、ウォースラが強く言った。
「何としても必要です。自分が、そう判断しました。」
しぶしぶと言った様子で、一応は承知したものの
ウォースラの言葉に、アーシェは今度は頷かなかった。
どうしてウォースラはそんなことを言うんだろう。
私が受けている屈辱を分かっているというのに…。
複雑な思いのまま、話はすすんでいった。
「引き返すぞ。艦載艇を奪って脱出する。」
ウォースラの言葉にバッシュは頷き、ヴァンたちは駆け出していった。
「殿下は、無力な自分を許せんお方だ。 だが、現実を受け入れてもらうしかない。」
一度バッシュとウォースラは、先を歩くアーシェの背を見つめた。
アーシェには、沢山の重荷を背負わされているのだ。
残された王族としての責任を、何とかして果たさなければならない。
そんな想いとは裏腹に事態は全くいい方向には進んでいかない。焦りと苛立ち。
だからこそ今、再び二人でアーシェを支えなければ。
血路を開くため、バッシュとウォースラも急いで走り出した。
***
警報が鳴り響く艦内を、全速力で走りぬける。
出会った兵士を倒す暇など無く、追いかけてくるその姿を必死に振り切った。
「ヴァン―――!」
兵士のものではない、高く可愛らしい声が聞こえ、一同は足を止めた。
ラーサーに連れられたその少女、パンネロの姿があった。
「パンネロ…。ごめん、もう大丈夫。」
互いに歩み寄り、ぎゅっと抱きしめあう二人の姿にほっとした。
「(…よかったね、ヴァン…)」
ヴァンが、パンネロに怖い思いをさせてしまったことを酷く後悔しているを知っているだけに
もう他人事ではなかった。 ラーサーが護ってくれてるとは言え…内心はヒヤヒヤして仕方が無かったのだ。
友達とヴァンは言っていたが…二人は友情よりもっと深い“絆”があるのだろう。
相手の存在を確かめ合うような抱擁を見れば、一目瞭然だ。
「ギースが気付きました。早く脱出を。」
ラーサーのその言葉に、皆の視線は彼へと向いた。
脱出―――
艦内を騒がせている張本人がこちらであることを気付いているのにも関わらず
ラーサーは脱出を促す。帝国の人間であるのにだ。
「アズラス将軍ですね。僕と…―――――」
ラーサーが、ウォースラとアーシェと話し合っているその時、
は少し離れたところで見守るバッシュの元へと近づいて行く。
ここへ来てからずっと気になっていたことを聞くのには
全員の気が反れているい今が丁度いいと思ったから。
「あの…バッシュさん…。」
「!。…どうしたんだ?」
消え入りそうな声のを、バッシュは優しい微笑みで見つめた。
…だが。
にとって、今バッシュの笑顔ほど切ないものなどない。
「…痛くは…ないですか……?」
はて何のことだろうとバッシュは首をひねる。
珍しく俯いたままのからは、何も伺うことはできない。
そして思い出す、微かな頬の痛み。
「大丈夫だ。心配はいらない。赤くもなっていないだろう?」
確かめるように尋ねると、は首を横に振った。
「違うんです」と小さな声で言った後、顔を上げたの目には涙がたまっていて
あともう一度瞬きするだけで、涙の粒が落ちてしまいそうなほどだった。
「…心は…痛くないですか…?」
それは、がずっと気になっていたこと。
「心の傷は、魔法でも治せません…!わたし…私は、騎士の誓いとか、よく分からないけど…
だけど…だからって、そんな…。バッシュさん、悪くないのにって…」
「……。」
の声がだんだんと涙声になっていき、言葉も搾り出すように発していた。
感情が高ぶってうまく表せなかったのだろう。
いきなり信じろとは言わない。むしろ、信じれないのが普通の反応だと思う。
しかしバッシュは、今までずっと アーシェの身を案じていた。
自分の奪われた身分など、気にもとめないように。
それが仕える者のつとめなのかもしれないが
相手をここまで想っているにも関わらず報われないその姿が、には身を切り裂かれる程の痛みだった。
「そうだな…辛くないわけではない…。」
「…………。」
「だが、君は信じてくれているのだろう?それで十分だ。」
そう言ってもう一度にこりと笑うバッシュ。
そんなバッシュを見て、は思った。“バッシュらしい言葉”だと。
「さぁ、私たちもラーサーの話を聞こう。」
「……はいっ!」
そうして輪の中へと戻って行く二人を見つめる人物。
バルフレアの視線はいつしかラーサーではなくの方へと向いていた。
別に盗み聞きしたわけじゃない。
だが聞こえてしまったあの言葉。「心は痛まないか」の文字。
正直のところ、のことを馬鹿だと思っていた。
頭の良し悪しではない。
人が良すぎると何かと損をするというのに、何の迷いも無く救おうとする姿勢が。
そして分かった一つのこと。
彼女は、は “優しい”のだ。
美しい真っ白な心は、が何色にも染められていないと言うことではない。
純白―――。それがの色だ。
濃い色も淡く変えて、全てを包み込む の優しさ。
…もしに自分の過去を打ち明けたら、彼女はどうするだろうか。
いつものように、受け止めるのだろうか。自身が受け止められなかった過去をも。
「(ばかばかしい……。)」
もっとも、ここを脱出してしまえば、過去の話をすることなどきっとない。
「アーシェ殿下。隠れた歪みを明らかにしてください。私はその歪みを叫して、帝国を守ります。」
ラーサーの言葉に、アーシェは不服そうな表情を浮べながらも頷いた。
正体を知っているというのに、ここから逃がしてくれるラーサーはまさに天のよう。
だがしかし、その言葉から分かるように ラーサーは帝国の立場にある。
あくまで自国の為の言葉だと分かっているからこそ、アーシェは複雑な思いなのだろう。
「パンネロさん、これ。お守り代わりに。」
パンネロに向き直り、青く光る破魔石を手渡す。
自分の手に収まったその石を見つめ、パンネロは微笑んだ。
「行きましょう。」
ウォースラに声をかけ、二人は脱出用の飛空挺を押さえに走り去って行く。
危険を顧みず動いてくれたことを無駄にしないように、
残るたちも駆け出していった。
***
無理やりバルを詰め込んだ感がたっぷり。
でも少しだけヒロインに興味を持ち始めてくれたらいいなと思ったんですよ。
バッシュと会話するヒロインを見て、自分の場合はどんな反応をしてくれるんだろうっていう。
って、全然話進んでないよね;