09
ラーサーとウォースラが飛空挺を確保しに行っている間に
たちは脱出のため発着ポートへと向かった。
やっとたどりついたそこには、案の定とも言うべきか、ジャッジ・ギースが待ち受けていた。
行く手を阻むその姿を、皆は足を止めて見据える。
「残念ですな。ダルマスカの安定のために、協力していただけるものと信じておりましたが。
まぁ、王家の証はこちらにある。良く似た偽者でも仕立てればよいでしょう。」
法の番人だと言っていた口が、今は王女を殺すという残酷なプランを口にしているのだ。
反論の間もなく、掲げられたその手に揺らめく炎が 先程の言葉を立証していた。
「貴女には―――――」
「……!炎の魔法!」
「王家の資格も価値もないッ!!」
魔法が放たれると気付いたは、とっさにその威力を弱めようと
皆にシェルを唱えようとしたが あまりの急展開にさすがに間に合いそうも無い。
ギースの手から魔法が放たれ、数秒に訪れるであろう衝撃に耐えるようにぎゅっと目をつぶった。
……が。
「あ…あれ…?」
熱さどころか、何かが触れる様子すらない。
「なんなの……!?」
声のしたパンネロの方を見れば、その手にはラーサーが先程手渡した“それ”。
「破魔石か。」
ぴかぴかと光る石を見つめ、バルフレアはつぶやく。
明らかに反応している破魔石をみれば、石が魔法を吸収したのは一目瞭然だろう。
そういえばと、石を始めて見た―――ルース魔石鉱でのラーサーの言葉を思い出す。
人工的に作られたこの石は、普通の魔石とは違い 力を吸収するのだと。
「ご立派ですな、殿下!名誉ある降伏を拒むとは、まったくダルマスカらしい!!」
アーシェに向かって皮肉たっぷりに言いながら、ギースは剣を構える。
その言葉は、無力に悩むアーシェにとっては火に油。
自分の立場も、そして自国ダルマスカをも侮辱されたアーシェの怒りは頂点に達した。
「…貴様に何がわかる!!」
思いのたけを叫ぶと共に、アーシェも剣をぎゅっと握る。
言葉をつまらせ、そうとしか反論できないその後姿はあまりに痛々しく…辛そうだった。
アーシェがダッとギースの元へと駆け出し、剣の交わる音が響き戦闘は始まった。
「わっ…!」
がロッドを構えた瞬間に、帝国兵が襲い掛かる。
攻撃を受け止め、鎧の奥から睨みつけられているのが分かる。
ギリギリと金属のぶつかる音がして、お互い譲るつもりはない。
直接攻撃は得意じゃないんだけどな…
「でも、苦手ってわけじゃないのよ、ねっ!!」
ぐっと剣を押し返すと、それに驚いたのか よろめいた隙にロッドをぶつけ気絶させる。
結構 力あるんだから、私。
ふぅ、と一息ついてあたりを見渡すと
丁度同じように兵士を倒したヴァンの後ろから、剣を構える兵士の姿が。
「ヴァン!後ろ!!」
パンネロが危険を察知して知らせるも、すでに兵士はヴァンの目と鼻の先。
その上戦いを終えたヴァンの体制は崩れていて迎え撃つのは不可能に近い。
はロッドの下の方をもう一度強く握り締め、兵士の足目掛け
「…てやっ!!」
「!!!!?!!!??!」
フルスイングした。
鎧の上からといっても、力いっぱいに振ったロッドは
見事、兵士の脛にヒットし 足を抱えてへたり込んでいった。
「サンキュ、。…しっかしすげぇな!あれホームランだぜ。」
「もう…ヴァンったら!」
運が悪ければ大怪我では済まされない状況に面していたというのに
ゲラゲラと笑うヴァンは、褒めるべきなのか叱るべきなのかは置いておき。
今は早いことアーシェの援護のため兵士を倒しておかなければ。
武器を構えなおし、それぞれに駆け出していった。
***
攻防を続けること数分。
ガシャンと兜の落ちる音がして、見れば勝負はついていた。
膝を落とし、息を切らすギース…。
―――アーシェの勝利を意味していた。
「アトモスを抑えた!来い!」
その時、丁度タイミングよくウォースラの声が響く。
「アトモス?トロい船だな。主人公向きじゃない。」
「まぁまぁ…これで脱出できるんだから!」
飛空挺を操縦できるバルフレアの言うことだから、本当にゆっくりな飛空挺のかもしれないし、
最速の彼にとってはどの飛空挺も遅いのかもしれないが
どんな船であっても、脱出できる唯一の希望に変わりはない。
「俺が飛ばしていい?」
「また落ちたいの?」
ヴァンの提案はフランによって即却下された。
しかしそこでヴァンが何も反論しないのは、身に覚えがあるからだろう。
ウォースラの後を追いかけ、アトモスに乗り込む。
「早く、早く!全開!」
操縦席に座ったバルフレアとフランに近づき、パンネロは脱出を急かした。
しかしそれを、フランは「だめ」と言って制止させた。
達を乗せたアトモスは、ゆっくりと周囲の飛空挺に紛れてリヴァイアサンを離れていく。
艦内に安堵の息が漏れた。
「行ったわ。」
アーシェが、そう言った通り
何度か他の飛空挺が横を通り過ぎたが、気付かれることもなく脱出は成功した。
「下手に急いだら見破られていたわ。」
パンネロに向かって言ったフランだが、さすが空賊というべきか。
臨機応変な脱出術は、空賊業で培われたものだろう。
何はともわれ、一向は再びビュエルバへと向かった。
***
「あの…これ、洗っておきました。」
ビュエルバに無事到着し、ターミナルへ出るとパンネロがバルフレアを呼び止めた。
その手には、綺麗に折りたたまれたハンカチ。
「光栄の至り。」
胸に手を当て軽く会釈するその立ち振る舞いにびっくりした。
「(あいかわらずフェミニストだなぁ…)」と。
バルフレアのフェミニストぶりは度々目撃し、最近になって慣れてきたところだが やはりびっくりするものだ。
人前で堂々とやってのけるが、見ているこちらが恥ずかしくなる。
そんなことを考えながらじぃっと見ていたからか、バルフレアと目が合った。
「なんだ、お前もやって欲しいのか?」
まさに今、恥ずかしいことをと思っていたのに、その矛先が自分に向くなど
とても耐えられることではない。
「い、いい!いらない!」
必死になってそう言うと、バルフレアは小さく笑った。
達が話しているすぐ後ろでは、アーシェと、
ウォースラ、バッシュが今後について話し合っていた。
「オンドール侯に?でも、あの人は――――。」
「お会いになるべきです。表向き帝国に従っているように見えても、それは侯爵の本心ではありません。
こうして殿下をお助けできたのも、侯爵の“助言”があればこそです。 ―――少々、危険な手ではありましたが…。」
自分の自殺を発表した人物を、そう易々と信じれないのだろう。
だがしかし、帝国への手引きをしてくれたのも侯爵自身であるのは間違いではない。
複雑な思いを抱くアーシェの背中を押したのは、やはりウォースラの言葉だった。
「自分も同感です。これまで距離を置いてきましたが、
もっと早く侯爵を頼っていれば―――自分が愚かでした。」
「ウォースラ―――。」
ウォースラは下を向き、何かを考えたのち
決意に満ちた瞳でアーシェと向き合った。
「殿下、自分に時間をください。我々の力だけでは国を取り戻せません。別の道を探ります。
自分が戻るまでは、バッシュが護衛をつとめます。まだ彼を疑っておいででしょうが、
国を思う志は、自分と変わりません。」
再会した時よりも、疑いは少し薄れたもののやはりアーシェにはまだ信じきれないでいた。
しかし、“絶対的に信頼できる”ウォースラが言うのだからと、アーシェは異論を唱えなかった。
「あなたがそこまで言うなら―――任せます。」
「殿下を頼む。オンドール侯爵のもとで待っていてくれ。」
バッシュに向かってそう言い、頷くのを確かめるとウォースラは去っていった。
その後姿を、バッシュとアーシェは見えなくなるまでずっと見ていた。
…後に。
“信頼における”ウォースラ と
“裏切り者”バッシュ の
立場が入れ替わるとは
誰一人として予測できなかった
***
いったんはオンドール侯爵邸へ向かっていざレイスウォール!
まで書いたのですが 予想以上に長くなったので、ブチッと切っちゃいました。
今までで一番早く書けた気がします。
おそらくこの辺りから、私の妄想はもんもんと広がって
凄まじいほどにプランが出来上がっているからこそ スラスラと書いていけるのです。
バルフレアが、「光栄の至り」というシーンが 彼が一番フェミニストぶりを見せてくれるシーンだと
個人的に思っています。
お酒飲んでるシーンとか、綺麗なお姉さまを口説くシーンとかゲーム中に入れて欲しかったなぁ…。
それはそれで嫉妬するんですけど(笑)