静かな宿の中。
いつもなら食事を終えたあと、ゆっくりと雑談を楽しむ女性陣だが
どうやら今日はそうでもないようで…
いろいろな恋のカタチ
女性陣とはいっても、はいつものように外を眺めたり、本を読んだりしていたし
フランは食後のコーヒーを飲んで一服していた。
そこに、慌ててやってきたのがパンネロとアーシェだった。
「〜〜〜〜っ!助けてぇ〜っ!!」
「どっ…どうしたの二人とも。」
の問いかけに「あのねっ!」とパンネロは口を開くが
居ないだろうか…とキョロキョロと辺りを覗う。すると案の定、
愛用の武器を念入りにチェックするバルフレアとバッシュの近くをうろちょろしているヴァンの姿を見つけた。
聞かれちゃマズイと、口に手をあて内緒話のポーズをとって、の耳に近づける。
「(明日バレンタインでしょ?でもなかなかうまくいかなくて…の力を借りたいの!)」
なるほど。
すごい形相で来たもんだから、何事かと思えば明日のバレンタインのこと。
お菓子作りなら得意な方だし、手助けできないことはないだろう。
「なぁんだ。いきなり来たからビックリしちゃったじゃない!
それじゃあ今から部屋へ一緒に行こうか。」
「わぁい!よかったぁ〜!」
「、ありがとう!」
いつもは少し険しい顔つきのアーシェも
の快い返事に安心したのだろう、柔らかい笑みを浮べている。
「フランはどうする?」
察しのいいフランだ。今から何をするのか伝えなくてもわかっているだろう。
たちを見つめ、フッと微笑む。やはり予想は当たっていたようで
「これを飲んだら見に行くわ。」
と、まだ暖かいコーヒーに口をつけた。
「それじゃあまた後で」と言って、いつになくにぎやかな女性陣の会話に
きょとんとしている男性陣を残して、部屋へと向かったのだった。
***
「そうそう!ゆっくり湯銭で溶かしてね。
パンネロは…うん!生地はカップの八文目くらいまでね!」
「はちぶんめ…ね!う〜ん、チョコレートのいい匂い!」
「本当…甘くていい香りだわ…!
ところで。あなたもあげるつもりでしょう?パンネロはもちろんヴァンよね?」
簡易キッチンで肩を並べてチョコレート作りにとりかかる。
お年頃な女が集まって、またバレンタインを間近に控えれば 話は自然と恋の話へといくものだ。
「そっ、そうだけど〜〜〜〜っ!/// そういうアーシェはバッシュ小父様なんでしょ?」
「えぇ!?わ、私はその…いつも気を遣ってもらっているからそのお礼に渡すだけよ!
気になるのはよ。はどうなの?」
「わっ、私!?」
どこかへ行っていた質問が、再び自分のところへと帰ってくるとは思わず、
ピタリと作業の手を止めてしまう。
間に挟まれ、じぃー…っと二人に見つめられ 途端にの顔は赤くなった。
恋の話など、この年になって初めてしたようなもので、
いざ矛先が自分の方へ向くと、何と言ったらいいのか分からないのだ。
「私はー…えっと…っ」
「あげないの?」
「えーっ!バルフレアさん、きっとがっかりしちゃうわよ!」
突然大声で名前を出され、ぎょっとした。
ボッと音が聞こえるくらい、私の顔がさらに真っ赤になっていくのが分かる。
「ちょ、な、ちが…パンネロ…っ///」
「ふふっ、ったら顔が真っ赤よ。」
「もぉっ!アーシェまで…!」
先程の慌てぶりはどこだろう?と聞きたくなるほど
今の二人は意地悪だ。
「どう、進んでる?」
質問責めになれていたにとって救世主のようだ。
フランが閉じた扉の前には男子禁制と書かれている。
「あっ、聞いてよフラン!
ったらバルフレアさんにチョコ渡さないとか言い出すのよ。」
「わぁっ、パンネロ…!」
そんなこと言ってないでしょ!と言ったら
「あれぇ?そうだっけぇ?」と更に意地悪な声が返ってくる。
これじゃぁフランにまで質問されちゃう〜…と困っていた瞬間。
「それはないわよ。でないとチョコレートを用意している訳ないもの。」
あまりの鋭さに思わずぶっと噴出してしまう。
まさかね、まさか…。いくらフランでもそこまでは気付くはずは…
「どういうこと、フラン?」
同じように手を止めたアーシェが今度はフランに話しかける。
「この街には昨日の夜到着した。は今日一度も外へは出ていない。
そうなると、いつチョコを準備したのかしらね?」
「「あーーーっ!」」
パンネロとアーシェの声がハモり、尚且つさっきよりも1つ多くなった視線を向けられる。
にやにやとした笑みで見つめられるのが恥ずかしくなって
ぷしゅ〜と萎んでしまった風船のように、私は小さく小さくなっていった。
「なぁんだ。ちゃんと渡すつもりだったんじゃない!安心したわ。」
「う〜…でも…」
「でも、何?」
じりじりと再び二人に挟まれ、苦しくなって左右を交互に見つめた。
えぇい、もういいや!恥ずかしがってないで、この際皆に話してしまおう。
その方がいいアドバイスがもらえるかもしれないし!
そう意を決して口を開く。
「バルフレアって…モテるでしょ…?
だ、だから…私があげても受け取ってもらえないかと思って…」
不安なのはコレだ。
彼はとにかく女性に人気があるし、どの女性も驚くぐらいに美人。
そんな彼女たちから貰える贈り物なら喜ばしいだろうが…
手作りのチョコレート。相手は私。まさにトレジャーでサビのカタマリを引き当てた気分になるに違いない。
いや、むしろバルフレアは自分から女性にプレゼントするタイプだ。
「そんなことないわ。あの人、楽しみにしてるわよ。アレで結構。」
「…えっ?」
「あげたらきっと喜ぶわ。」
「………うんっ!」
そうだ。
誰かと自分を比べるなんて、私らしくない。
いつもと同じ顔で笑ったら、皆も私を見て笑ってくれた。
よかったねって、言ってくれてるみたいで すごく嬉しくて。
「そういえば、フランは誰かにあげないの?」
「私はあげるよりもらうほうがいいわ。」
「ふふっ、フランらしいわね。」
「じゃあフランには特製チョコをプレゼントする!」
楽しげな笑い声が聞こえる廊下。
部屋の前でふぅと息を吐く。
「男子禁制ね―――。」
ずっとこもりっぱなしで、朝から顔を見てない愛しい彼女に
「お茶でもしないか」と誘おうとしたのだが…女同士の会話に花を咲かせているようだ。
どうやら今日は邪魔しない方がいい。
何せこんなにも楽しそうに笑っているのだから。
「笑いすぎて疲れるなよ…。」
扉に向かい、口の端だけ上げてそう告げる。
「おい、ヴァン。お前も武器屋行くか?」
「おう!…でも、なんだぁ?珍しいな。 いつもは俺が言っても一緒に行ってくれないのにさ。」
「うるせぇよ。」
「うあ゛ーっ!くるじぃ、バルフレアー。」
誰もいなくなった廊下には
再び彼女達の声だけが響いていた。