01

 

 

今やアルケイディア帝国の収容所となり

脱出はもはや不可能とまで言われている地下牢獄ナルビナ。

そこにヴァンはいた。

同じように王宮に忍び込み、宝を盗もうとした空賊バルフレアとその相棒フランと共に。

辺りを見渡せば死体が転がっているうえに、どこからか叫び声が聞こえる。

「おとなしくしていろ」というバルフレアの忠告も無視して飛び出した。

 

「聞いたか?さっき女がここに連れてこられたらしい。」

「女?そりゃかわいそうに。女にゃここは死同然だ。」

「どうも怪我をした反乱軍を助けたらしい。ほっとけば良いものを…」

 

壁の隅に寝そべっている囚人たちの会話が耳に残った。

いつだって帝国はそうだと。ヴァンは唇をかみ締めた。

反乱軍だろうが何だろうが関係ない。

反逆でなくても こちらは帝国のいいように揺さぶられる。

そう、警告なのだ。

少しでも逆らえばどうなるかという。

 

***

 

先へ進んでいくと叫び声と、なにやら嫌な音が聞こえる。

音のする方を見てヴァンは驚いた。

一匹のバンガに2匹のシークが棍棒で殴りかかっているではないか。

どう見てもバンガは無抵抗。害はないはずだがシークはその手を止めない。

それどころか、今にも頭目掛け棍棒は振り下ろされそうだ。

“このままじゃ死んでしまう”

 

「やめろっ!!」

 

咄嗟にヴァンは叫ぶが、空しくも

その棍棒はバンガに直撃した。

同時にシークはヴァンへと視線を向ける。どうやら次のターゲットに選ばれてしまったようだ。

 

「(…武器はないけど、2匹ならなんとか…)」

 

倒せるかもしれないと。

しかし相手はずる賢く、一枚上手だった。

突然背後に上からもう1匹シークが飛び降りヴァンに襲い掛かる。

何とか身構えようとするが、後頭部にはしる鋭い痛みにぐらぐらした。

 

 

 

どれくらい時間がたったのだろう。

体中の痛みにヴァンは意識を戻したが

引きずられ、体が上手く動かせない。

そのうえ闘技場に連れてこられ、逃げ道をふさがれてしまった。

“逃げ場が無い”そう思ったその時

 

 

「…やめなさい!!無抵抗の人に、なんて酷い事を!」

 

 

フードで顔を隠しているから顔は見えないが

声からして女の子であろうか。

闘技場の上の柵から必死に声を出し、今にもまた殴りかかりそうなシークを静止する。

 

「珍しい…女か。ちょうど良い!そいつも連れて来い!!」

 

1匹のシークが声を上げ、誰に話しかけてるかと思えば

先ほどヴァンを背後から襲ったシーク。

殴られはしなかったものの、一気に担がれ闘技場に放り込まれた。

 

「わっ…きゃぁぁぁ!」

 

小さな叫び声と共にドサリと砂の上に落ちた。

「あいたた…」と言ってはいるものの、すぐ今だ立ち上がれないヴァンに声をかける。

 

「大丈夫ですか!?」

「く…っだいじょうぶ。それよりここをどうにかしないと…!」

 

話している間にも気味の悪い笑みを浮かべ、ヴァンたちへ近寄ってくる。

 

「怪我した男に女。こっちは3匹。お前らに勝ち目はねぇなぁ…!」

「そいつを始末したあとたっぷり相手をしてやるよ、お嬢ちゃん!」

 

「これでおわりだぁ!!!!」

 

じりじりとシークは迫り、背中には冷たい柵。

“どうにかこの子だけは”と、ヴァンは自分の後ろにその少女を隠した。

 

「…!あなた…だめです!そんな怪我してるのに…」

「だいじょうぶだから…」

 

自分を庇おうとしているのに気付いたのだろう。

無茶を止めようとするその声を

半ば自分に大丈夫と言い聞かせるように遮った。

 

「(どうしたら…どうしたら)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、本当臭いなぁ。こりゃ牢獄っていうよりブタ小屋だ。」

 

 

 

「バルフレア!?」

 

突然聞こえてきた声に上を見上げる。

挑発的なその言葉に腹が立ったのだろう。シークたちは声を荒げた。

 

「お前の方が臭いっていったのさ。このブタ野郎!」

 

拳をならし、唾を吐き捨て

バルフレアは闘技場へと踏み込んだ。

 

「大丈夫か?ヴァン」

 

口の血をこすり、ヴァンは平気だというように立ち上がった。

 

「怪我はないか?」

 

とバルフレアはそっと小さな声でその少女に尋ね、

手をとり、腰を支え ゆっくりと立たせてやる。

立ち上がらせたと思えば、スカートに付いた砂をはらってみせる。

 

「だっ…だいじょうぶです!」

 

あまり慣れていないのだろうか。

あわててそう答える彼女にバルフレアはふっと微笑んだ。

 

「なら怪我しないよう後ろにいるんだな。」

 

相手は薄汚い連中。

女を狙わないわけがないと思ってのことだろう。

バルフレアはそう言ったが

 

「いいえ。大丈夫、私も戦えます!」

 

真っ直ぐな彼女の言葉にバルフレアは何も言わなかった。

前に立ち、かかって来いよとでも言うように、指をくいと動かす。

それは戦いの開始の合図でもあった。

 

 

相手も3。こちらも3。

当然の事ながら、ヴァンとバルフレアが2匹の相手をすれば

1匹は少女に襲い掛かろうとする。

何とか行かせないように2人は邪魔をするが、棍棒を振り下ろし、避けるので精一杯だった。

2人の死角をつき、シークは少女に飛び掛ったのだが。

 

 

 

「邪悪なる心を 聖なる焔で燃やし尽くせ!

ファイア!!」

 

 

 

強烈な炎がシークの体を包む。

その手が彼女に触れることはなく、

たった1回の魔法で倒してしまった。

吹き飛んだシークを見てたった一言。

 

「女だからって甘く見たのが敗因ね。」

と。

ヴァンとバルフレアがかけよってくる。

戦いは終わった。

 

「お前強いじゃん!」と

ヴァンは相変わらず呑気に話しているが

バルフレアは少々驚いていた。

ファイアと言えば、火属性をもつ下級魔法。

それにも関わらず、彼女の放った魔法は上級魔法にも及ぶ程だった。

“ただ者じゃないな”

直感だった。そう感じたのは。

 

そうしているのもつかの間、騒ぎを聞きつけたのだろう

帝国兵と、バルフレアを探しに来たバッガモナン一味が駆けつけてきた。

 

「早いとこ逃げないとマズいか…。」

 

彼らの死角ではあるものの、気付かれたら厄介だ。

すると脱出口を探しに行っていたフランがタイミングよく現れてくれた。

バルフレアは気付かれないようにそっと近づき、ヴァンも少女の手を引き歩いた。

そっと静かにフェンスを開け、3人はフェンスをくぐる。

 

「奥の独居房に抜け道があるわ。ただし―――」

「ミストを感じる、か…」

 

抜け道があるとはいっても、安全ではないようだ。

突然帝国兵とバッガモナンがもめ出したかと思えば

今にも戦闘が起きそうだ。

 

「そのへんでやめておけ。バッガモナン。」

 

ピリピリとした空気を一転して凍りつかせたその声の持ち主は

ゆっくりと階段を降り、姿を現す。

鶴の一声とはまさにこのことか。

 

「ジャッジ―――!」

 

姿を見せたその男に、いち早く反応を見せたのはフランだった。

 

「ジャッジ?」

「知らないのか?アルケイディア帝国の法と秩序を名乗る連中さ。」

 

ジャッジを知らないのであろうヴァンに

バルフレアは説明を施す。

 

「その正体は、帝国を支配するソリドール家の武装親衛隊で―――

実質的な指揮官ってわけだ。ったく、裁判官っていうより処刑人だぜ。」

「それに…あの人は、どうやらジャッジを統括するジャッジ・マスターのようですね。」

 

と少女もヴァンに話す。

4人はもう一度、去ろうとしているジャッジを見た。

 

「将軍はどこだ。」

「奥の独居房です。」

 

独居房と言えば、これから向かおうとしている場所。

フラン曰く、強力な魔法でロックされており 後をつければ入り込めるだろう。

となれば長居は無用だ。

 

***

途中、取られていた荷物が置いてある小部屋へ来た。

これで先に進めるだろう。

するとヴァンが口を開いた。

 

「なぁ、そういえば名前まだ聞いてなかったよな!

俺はヴァン!こっちが空賊のバルフレアとフラン。お前、名前は?」

「ヴァン、お前な…」

 

初対面の相手に「お前」と言うのを注意したのも

起こられたのも近いうちに起きたことだ。

相変わらずのヴァンに、バルフレアは苦笑した。

 

「えっと、私の名前は…」

 

ヴァンのお前発言をあまり気にせず

彼女は紐を緩め、フードを取った。

 

です。」

 

サラリと流れる桃色の髪に、大きなダークブルーの瞳。

お世辞ではなく、そこにいた全員が「美人」だと思った。

 

か。よろしくな!

も一緒に来いよ!」

「でも…いいんですか?」

 

バルフレアとフランを気にしての事だろう。

だが2人も、特に異論はないようだ。

 

「あったりまえだろ!俺を助けてくれたんだからさ。じゃ、行こうぜ。」

 

そう言うと、ヴァンとフランは先を歩いた。

それに続こうとするにバルフレアは声をかけた。

 

「…いいのか?聖職者が空賊なんかと一緒で。」

「…!どうして…」

 

驚きを隠せない

バルフレアはスッと胸を指差した。

 

「そのペンダント。あんた聖職者だろう。」

 

ぎゅっとそのペンダントを握り、しばしうつむいていた。

 

「…“元”聖職者だから。問題ないです。」

 

そう言って顔を上げたの顔は、笑顔だった。

その小柄な体とは不釣合いな大きなロッドを背負い

前を行く2人にとことこと走っていった。

 

不意打ちともとれるその笑顔に何も言えなくなってしまったバルフレアだが

彼もまた笑顔で走り去っていった。

 

 

***

長い上にヒロインあんまりでてこなくてごめんなさい。

バル夢なのにヴァンがやたらかっこよすぎたかな?

文才が欲しいです。