02

 

 

「そういえば、ヴァンさん。お怪我は大丈夫なのですか?」

 

先ほどのことを思い出し、 はヴァンに話しかけた。

その問いかけを聞いたヴァンは吹き出した。

 

「大丈夫、大丈夫!もう心配ないって。

それよか“ヴァンさん”さんて呼び方やめてくれよ!あと敬語も。

軽くいこうぜ、軽く!」

 

は迷ったが、ヴァンの好意に甘え

「うん!ありがとう、ヴァン。」と笑った。

 

どうやらすぐ仲良くなれそうだとは安堵した。

すると、フランが2人に話しかけた。

 

「おしゃべりはそれくらいにして行きましょう。」

 

魔法鍵のかかった扉まではあとわずかだ。

ここで見つかれば水の泡なのだが、帝国兵があたりにいるというのに

陽気な2人にフランはそっと注意を、

バルフレアは小さなため息をしたのだった。

 

「ご…ごめんなさい。」

 

がすぐさま、あくまでも小さな声で謝ると

 

「もういい。どうやらここから独居房へいけるらしい。」

 

とバルフレアは言う。

すると先ほどのジャッジがみるみるうちに扉の魔法を解除し

帝国兵たちも続いて独居房へと入って行く。

たちも急いで入り込み、すっと壁際まで隠れた。 

あとは彼らが去るまでじっとしているだけ。

しかし、ジャッジの放った一言に、皆は驚くことになる。

 

「少しやせたな、バッシュ。」

 

その言葉にいち早く反応を見せたのはヴァンだった。

忘れるはずも無い、その憎い名前を聞いたのだから。

大きな兜を取り、ジャッジはさらに言葉を続ける。

 

「見る影も無い、生き恥だな。王を殺して処刑されたはずが、何故生かされている。」

 

冷たく、憎しみとも感じれるその言葉を向けている相手は

まるで捕らえられた鳥のように、拘束されている“バッシュ”と言う男。

 

「何度言わせる。オンドール侯の口封じだろう。」

「それだけか?」

「ヴェインに聞けないわけでもあるのか。」

 

尋問するつもりが、逆に図星をつかれたのか ジャッジは一瞬たじろいだ。

 

「反乱軍の重要人物を拘束し、現在ラバナスタより移送している。アマリアという女だ。

 さて、何者かな。」

 

バッシュは一瞬反応を見せるも、何も言わず

決してその口を開こうとはしない。

その様子をみてかジャッジは続ける。

 

「滅んだ国に義理立てとはつくづく忠犬だな。」

「国を捨てるよりはいい。」

「お前も捨てたではないか!―――俺たちの祖国を」

 

一際大きく言い放つと、

再び兜を被りなおし、帝国兵を引き連れ独居房を去った。

足音が遠ざかり、何も聞こえなくなったのを確かめて

バルフレアは物陰からでていく。フランや、ヴァンともそれに続いた。

帝国兵のものではない足音に気付いたのだろう。バッシュは力ない声を出した。

 

「誰だ?」

 

だがバルフレアは我関せず、といったように無視してバッシュの前を通り過ぎた。

 

「ここか?」

「ミストの流れが続いているからどこかに抜けているはずよ。」

 

そんなバルフレアの気持ちが分かっているからだろうか。

フランもさして興味を示さず、むなしくも横切ってしまった。

 

「帝国の人間ではないな。頼む、私をここから―――」

「死人とは関わらん主義でね。国王暗殺犯なら、なおさらだ。」

 

バッシュの言わんとしている言葉をすぐさま遮り、抜け道のあるオリをさらに調べる。

 

「わたしではない。」

「そうなのか?ま、どっちでもいいさ。」

 

このままでは、折角のチャンスを逃してしまう。

そう思ったバッシュは、バルフレアから視線をはずし、ヴァンへと向けた。

 

「頼む、出してくれ。ダルマスカのためだ。」

 

そんなバッシュの言葉は、ヴァンの心に火をつけた。

裏切りもののくせに。何もかも、奪っていったくせに―――。

長年のヴァンの怒りは一気に膨張し、爆発した。

 

「ふざけんなよ!!何がダルマスカだ!全部お前だろ、分かってんのかよ!

 いっぱい死んだんだぞ、お前のせいで!

 

 俺の―――お前が殺したんだ!」

 

止まることなくあふれ出る怒りに耐え切れず

ヴァンはオリに飛び乗り、ガシャンガシャンと激しい音を立て揺さぶった。

たまらずバルフレアが

 

「やめろ!戻ってくるだろうが!」

 

とヴァンを止めるが

頭に血が上ったヴァンは何も耳に入っていない。

 

「帝国兵が戻ってきたみたい!」

 

聞きなれた鎧の金属音が だんたんと大きくなり

こちらに近づいてくるのが分かり、がそう叫ぶも

このままでは埒があかない。

 

「落とすわ。」

 

「待て」というバルフレアの声を無視し、フランはレバーを強く蹴った。

その姿はオリごと下へと消えていった。

 

「空は遠いな―――。」

「…きゃっ!」

 

あきらめたようにそう呟くと、の手を引き

2人は共に暗闇に染まる地下へ落ちていった。

 

***

 

 

「(足がじんじんする…)」

 

バルフレアに突然手を引かれたとはいえ、途中からオリにつかまり

地面に直接着地、なんてことはなかったのだが

オリから伝わる振動はすさまじかった。

落ち着いたのもつかの間、ヴァンは大声を上げてバッシュに飛び掛かろうとした。

 

「逃げ切ってからにしとけ。」

 

とバルフレアはヴァンを制した。

 

「でも、こいつは!」

「ならやってろ。あの牢獄で一生な。

 ―――歩けるか?行くぞ。」

 

“なんでこいつまで!”納得できない、とヴァンはバルフレアを睨みつけた。

でもこの状況ではどうしようもない。

 

「このままだと追っ手が来るかもしれないわ。

 なおさら早くここを抜け出さなきゃ駄目じゃない?」

 

どんな理由があるにせよ、今はヴァンに我慢してもらわなければ。

ここに出口がつながっているというなら、そこから追っ手が来る可能性も、塞がれてしまう可能性もあるからだ。

そんなの台詞にヴァンは黙った。

 

「盾にはなるだろ。」

「引き受けよう。」

 

バッシュの同行が決まった瞬間だった。

 

***

 

無くなっていたフェンスの動力を取り戻し、一向はどんどん奥へと進んでいった。

武器による攻撃はヴァンたちに任せ、は魔法で皆をサポートした。

傷ついた仲間がいればケアルをかけて癒し、

うじゃうじゃと出てくるミミックにはそれぞれの弱点にあわせ魔法で攻撃していった。

は、ほぼ無傷に近かった。

本来なら、魔法を詠唱している間は隙を作るうえ 敵からも狙われやすい。

それなのに傷を作ることがなかったのは…バッシュのお陰だった。

文字の如く盾となり、敵の攻撃からを守った。もちろん、他のみんなも。

 

「(バッシュさんは…きっと“裏切り者”なんかじゃないんだわ…)」

 

自然と浮かんで来た、の中の答えだった。

 

 

どれくらいの時間、歩いたのだろう。

ミストが強くなってきた。おそらく出口はもうすぐだ。

 

「ミストが荒れているわ。」

「大物が近いな…。」

 

フランとバルフレアが話している間に、

バッシュは死体から防具と一本の剣を手にし、軽く振ってみた。

 

「さすがは将軍閣下」とその様子を見たバルフレアは言ったが

「裏切り者だ」とヴァンは言い捨てた。

 

「どうだかな。この目で見たわけじゃない。」

「―――兄さんが、見た。」

 

その台詞に、バッシュはかつての少年を思い出す。

 

「レックスか。“2つ下の弟がいる”と言っていたが。…そうか、君なのか。

 彼はあれからどうし―――」

「死んだ。」

「残念だ…。」

「お前がやったんだろ!!」

 

一度は小さくなった怒りがまた大きく燃え上がった。

兄さんを死へ追いやったくせに、今更何をいうのだと。

 

「君に真実を伝えるのが、私のつとめだな―――。」

 

 

自分が駆けつけたとき、すでに王は殺されていたこと。

王を暗殺した張本人は、バッシュに扮した双子のガブラスであること。

レックスは証人として、利用されたこと―――――

 

 

「双子の弟?できすぎだ…!」

 

確かに、上手くできすぎている話ではあるが

たった短時間でも、ガブラスの顔は皆覚えている。

バルフレアがもう一度口を開く。

 

「まわりくどい陰謀だが、筋は通ってる。あいつ似てたしな。」

「信じられるかよ。」

 

信じられないというよりも信じたくもないというようなヴァンの言葉に、バッシュは

 

「私はいい!彼を信じてやってくれ。最後まで祖国を守ろうとした。

 ―――いや、弟を守りたかったのだろうな。」

「あんたが決めるな!」

「ならお前が決めろ。楽になれるほうを選べばいい。

 

―――――どうせ戻らない。」

 

俺が決める?決めるって何を決めるっていうんだ。

バルフレアの一言が頭の中で、ずっといったりきたりする。

ヴァンとは、バルフレアたちの後を少し離れて歩いていた。

 

「なぁ…。はバルフレアが言ってた意味、分かるのか?」

「…死んだ人の心は、その人自身しか分からないわ。

 それをどう決めるのかは、生きてる私たちの思い一つなのよ…」

は…バッシュを信じてるのか…?」

 

何よりヴァンが1番知りたいことなのだろう。先ほどから芽生えてくる想い。

信じるのか、信じないのか。

 

「…信じてるわ。私はさ、ダルマスカの人間じゃないからこんな風に言えるのかもしれないけど…。

 悪い人が、あなたのお兄さんのことや、

 ましてやお兄さんが言っていた弟の話をいちいち覚えていないと思うの。」

 

先頭を歩くバッシュには聞こえているかは分からないが、バルフレアたちはその言葉を聞いていた。

たとえ短い間でも、ここまで共に来たヴァンを、彼らも気にしているのだろう。

 

「………。」

「でもこれは押し付けじゃないよ?ゆっくり、自分の答えを見つけたらいいと思う。

 ヴァンなら大丈夫!」

「うん…!ありがとな、。」

 

一行の足が止まる。

先ほどとは比べ物にもならないミスト。

 

「どうやら大将が現れなさったようだな。」

 

苦笑し銃を構えるバルフレア。皆もそれぞれに武器を構えた。

天井に付くほどの、ミミッククイーンに。

 

バッシュは上手くミミッククイーンの死角に入り込み、

ヴァンはすばやい動きで切りつける。

バルフレアとフランは遠距離からの攻撃を。

は、周りのミミックたちはロッド蹴散らしていった。

しかし一向にミミックたちが減る様子がない、むしろ増えてきているようだ。

「(このままじゃキリがないわ)」そう思ったは、

一度ミミッククイーンから距離をとり、魔法を詠唱する。

 

「ブリザド!!」

 

の手から放たれた青い光は、一気にその場を凍てつかせる。

動きが鈍くなったミミッククイーンに、バッシュの一撃がきまる。

勝負は付いた。

 

「なんとか終わったな。」

「そうね。」

 

心なしか微笑んでいるようなバルフレアとフラン。

たちも、やっと訪れた瞬間にほっとした。

 

ラバナスタは、もうすぐだ――――――