03

 

バルハイム地下道を抜けた一行は、東ダルマスカ砂漠を歩いていた。

先ほどの薄暗く、じめっとした空気は一転し、太陽から射す光はまぶしいくらいだ。

ただ1人をのぞいて…。

 

「暑い…あついわ…。もうしんじゃう…」

 

はよろよろと大分離れて必死に歩いていた。

おっとりとしているように見えるだが、以外にもその身軽さに皆は驚いていたのだが。

今ではずっと暑い暑いと繰り返していた。

それもそのはず。厚手の長袖に足首ほどある長いスカート。しっかりと履かれたブーツ。

極めつけは服の色が黒だ。おまけにそのスカートが、地面から立ち上る熱気まで閉じ込めてしまうのだから。

 

 

「う〜…(頭がくらくらする…)…!わわ…っ!!」

 

砂に足をのまれ、一際よろめく。必死で立ちなおそうとするが、今のには無理だった。

なんの抵抗もなく前に倒れそうになる。

 

「…大丈夫か?」

 

触れるはずだった砂の感触はなく、それとは別の手の感触に朦朧とする意識を戻した。

 

「あ…バルフレア…さん…?」

 

戻ってきてくれたのだろうか?バルフレアが肩を支えてくれていた。

 

「大丈夫じゃなさそうだな…。だいたいそんな格好で砂漠を越せるとでも思ったのか?」

「う…ごめんなさい;」

 

“元”聖職者なら修道服じゃなくてもいいだろ…。と言いたげなバルフレアの視線にあわてて目を伏せた。

 

「とりあえず、もう少しで集落がある。…それまではこれで我慢してくれ。」

 

バルフレアの言ってる意味が分からなかっただが、一瞬にしてその意味を理解することになる。

空中に上がる足。普段の自分とははるかに変わる、高くなった視界。

…おぶわれている…。そう気付いたときには、その広い背中に支えられていた。

 

「な…ななな、お、降ろしてください!こんなのバルフレアさんに悪いです…!」

 

ほどではなくても、バルフレアだって砂漠は暑い。密着すれば、更に暑い。

それを分かっているからだろうか。必死で止めるその仕草も、照れているともとれる様子にも

バルフレアは微笑した。“面白い女だ”と。

 

「言葉を返すようだが、あんたを降ろして1人で歩かせたほうが

 俺としては気になって疲れるんだがな。」

 

我ながら上手い言い方だと思った。

こう言えば、は「降ろして欲しい」とは言えなくなると。

相手が面倒だと言ってるほうを押し通すことは、彼女には出来ないと。

まさにそのとおりだったのか、はもう何も言わずおとなしく背負われていた。

 

***

 

集落についていきなりはキツかったとは思ったが、

バルフレアはフランにをまかせ、商人の所へと連れていかせた。

運良く服が売っていたのはいいが…比較的露出の多いダルマスカの衣装には顔を真っ赤にさせて拒んだ。

「こんなの着れないです!」だの「神に対する冒涜です!」だの意味の分からないことを言っていただが、

「またおぶってほしいのか?」というバルフレアの一言に、は決心したようだった。

着替えが終わったのだろう、フランとの話し声が聞こえる。

 

「似合ってるわよ。」

「だめだよっ こんな格好…///」

「でもその服以上、あなたのいう肌を見せない服はないわ。

 可愛いから大丈夫よ。」

 

ぽんっと背中を押され、はカーテンから出てきた。

白で統一された半袖の服で、膝丈ほどのスカートにこれもまた白いブーツ。

胸に光る青いブローチに、彼女のペンダント。臍が出ているだけで、他には目立つほどの露出はない。

ただ先程まではきっちり着込まれていて分からなかったが…は非常にスタイルがよく、ラインが美しい。

 

「ど…どうでしょうか…?」

 

おずおずと顔を真っ赤にして言うは相当可愛らしい。

 

「似合っているぞ、。」

「へー、なかなかいいじゃん。」

 

とバッシュとヴァンが言う。

バルフレアは口の端を上げて微笑み、の頭を撫でては去っていった。

正直言って綺麗だと、バルフレアは思った。

だからこそ本当なら誰よりも先に、賞賛の言葉を述べるのに 言えなかったのだ。

そんなバルフレアを見て、フランは笑った。

 

もうすぐ日が暮れる。夜の砂漠は冷えるため、今日はこのまま集落で泊まることになった。

ここまでほとんど休むことが出来なかった為か、ヴァン達は久しぶりに心から安心した。

 

「そういやさ、ってどっからきたんだ?」

 

あんまり見たことない服装だったしさ、とヴァンは続ける。

 

「う〜ん…あんまり詳しくは言えないんだけど、とても寒いの。雪が降っててね。」

「ん?じゃあ何でナルビナ送りになんてことになったんだ?」

「あぁ…それはね、ラバナスタに着いたら、沢山怪我してる人がいて。

 その時に、解放軍?の人たちを助けたら、すぐ捕まっちゃったの。」

 

とても笑えるような話ではないのに、は終始楽しそうに話していた。

 

***

集落の宿屋とはいえ、当然部屋は男女同室。

気持ちだけでも、と男女それぞれかたまってベッドへ入る。

疲労による睡魔に一行は眠りが訪れた。

 

しばらくして。

ヴァンは大きな寝息を立てて寝ているし、バッシュも久しい布団のぬくもりに 安心して眠っていたが。

パタン、と扉の閉じる音がして、バルフレアは起き上がる。

それが誰なのか分かっているからこそ、落ち着いて窓の外を見た。

月に向かって、祈る―――。

 

「なにしてやがる、あいつ。」

「気になるの?」

 

ふと聞こえる、よく知った声。

フランも同じように、窓の外を眺めていた。

 

「怪しい奴がいる中で眠れるほど、俺は単純じゃないんでね。」

「あの子、悪い子じゃないわよ。

 いいえ、むしろお人好し過ぎるわ。」

 

言い切ったフランの言葉。だがもちろん、バルフレアだってそんなことは分かっている。

先程のナルビナ送りの話だって、牢獄でヴァンを助けに入った事だって、

親切だからなんて理由ではかたずけられないからだ。

 

「…それとこれとは話が別だ。」

 

何を祈る理由がある?

何に祈ってる?

聖職者かと聞けば、そうではないと返され。

 

「…あら。結構気に入ってると思ったんだけど。」

 

意外なその台詞に、思わず振り返ってフランを見る。

 

「…誰が。」

「あなた。」

 

間髪入れずそう言われ、一瞬たじろぐ。

 

「そんなことないさ。」

「そう?なら、どうして言ってあげなかったの?悪くはなかったはずよ。」

 

昼間の服の話だろう。

痛いところをつかれたな、と思ったが。

 

「あなたらしくもない。」

 

再び横になって一言残す。

 

「…暑さの所為さ。」

 

 

と。そうして夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

***

さっさとラバナスタ戻れよっ!って突っ込みはなしの方向で…。

あんまり夢っぽくないですよね…;すみません。