04
朝集落を出たたち。
今回はが砂漠の暑さに倒れることも無かったので
かなり短時間で戻ってこれた。久しぶりに踏みしめる、王都ラバナスタの地に。
「世話になった。」
門の手前でバッシュは振り返り皆にそう告げる。
短い間ではあったがナルビナからラバナスタまで一緒に来たが
ここで皆別れのようだ。
「俺なら人ごみは避けるね。この街では今だにあんたは裏切り者だ。」
「反乱軍はすぐに私を見つけるだろうな。」
バルフレアの忠告を聞いたバッシュだが、おそらくバッシュは人ごみの中を通るだろう。
もちろんそれが彼の思惑であると分かっているからこそ、
バルフレアたちは何も言わず、「縁があったらまた会おう。」
と言って去っていったバッシュの背を見送った。
「脱獄囚なんだからな。当分はおとなしくしてろよ。」
とヴァンに向かって言ったかと思えば
「あんたも、人助けはほどほどにしろよ。」
今度はを見て言う。
そういって門をくぐろうとしたバルフレアとフランをヴァンが呼び止めた。
「魔石はいいのか?」
「好きにしろ、あれは縁起が悪い。」
「後悔してるのよ、あれを狙ったせいで 面倒にまきこまれたから。」
軽々と脱獄したようにも思えるが、並みの人間なら
人生を諦めてしまうほどの体験はしたと言える。そう思うのも当然だろう。
「しばらくはラバナスタにいるわ。」といって2人も去って行く。
残ったのはヴァンと。
「なぁ、兄さん。バッシュを信じていいのかな。」
そうぽつりと呟いたヴァンをは見つめた。
まだ暗い顔をしているし、完全に疑いが無くなったというわけではなさそうだが
いい方向に進んでいるようだ。
「じゃあ、俺もミゲロさんの店に戻るよ。も何かあったら店に来いよ!
案内してやるから。じゃあな。」
ヴァンはにこやかに軽々と門をくぐって去っていった。
独り立ちすくむ。
途端にくる、喪失感。
確かにここに戻ってくるまでに色んなことがあった。
疲れたし、大変だった。
でも…
「――――楽しかったなぁ…。」
久しぶりに感じた思い。
はぁ、と小さくため息をして 歩き出そうとしたその時。
すぐ近くで聞こえる泣き声。
その声の元を探せば、壁にもたれかかってうずくまっている小さな男の子。
「どうしたの?」
近寄って、目線の高さをあわせ、声をかけてみる。
「…お姉ちゃんとはぐれちゃったの…。」
返ってくる小さな声。
そっと頭を撫でて笑顔をみせる。
「私もさっきお友達と別れちゃったの。寂しいけど、私がいるからね。
一緒にお姉ちゃん探そう?」
「…うん!!」
泣くのをやめて笑顔の戻った男の子と共に。
かくしてお姉ちゃん探しは始まった。
ふいに思い出すあの言葉。
『あんたも人助けはほどほどにしろよ。』
つい先程聞いたばかりのその忠告に一瞬息が詰まる。
「(でもこれは別よね!迷子の子を助けるだけで帝国に捕まることはないだろうし…。
それにこの子にとったらお姉さんは親同然なのよ、きっと…絶対見つけてあげなきゃ!)」
ヴァンがラバナスタに向かう途中の砂漠の中で言っていた。
ほとんどの子が孤児で、親はいないと。
突然、きゅっと強くなった、繋いだ手。
「兵隊さんがいっぱいで…ラバナスタはもうだめだってお姉ちゃん言ってた。
だからもうきっとラバナスタ自由になれないんだ。」
何も知らないまま、何も分からないまま 沢山の人が大切な何かを奪われた。
こんなにも小さな子も、奪われたうちの独りで。
悲しいようだが、今ラバナスタが自由を取り戻すのは不可能に近いだろう。
解放軍が活動してるにしても、それもこの間、帝国の返り討ちに遭ったばかりだ。
“自由になりたい” よね…―――
「そんなことないわ。どんなに辛くても、諦めてはいけないの。
素敵なおまじない、教えてあげる。」
「おまじない…?」
かがんで、胸に手を当てる。
『ファーラム―――』
「これは、希望の光。辛いときはこうするの。
そしたらきっと、神様が助けてくれる!」
「うん!わかった!!お姉ちゃんにも教えてあげる!……あ!!」
先程よりももっと笑顔になる顔。
きっと、もう大丈夫だ。
「見つけた、お姉ちゃん!ありがとう、お姉さん。ばいばい!」
手を振って、お姉さんの下へと走って行く。
「命がある限り、希望はある。何度でも、チャンスはあるわ…。」
半ば自分に言い聞かせているのだと気付いていた。
自由になりたい、でもなれない思い。
そのの一部始終をずっと見ていた者が一人。
急に、がしっと腕をつかまれはっとする。
「あんた、聖人の方か!?な、何でもいい!どうか助けてやってください!」
「えぇ!?あっちょ、ちょっと待ってくださ…」
こちらの声にまったく聞き耳もたず、そのままずるずると連れていかれる。
嫌な予感がする…。
***
ダラン爺に頼まれた騎士の剣を届け、再び共に行動することになったヴァンとバッシュ。
バッシュに頼まれ、砂海亭へと案内した。
「ここだよ。」
扉を開けると、独特の酒の匂い。
人ごみを掻き分け、階段を上る。
「ミゲロさん…!?」
店に戻ってもいなかったミゲロが今目の前にいる。
ふとバッシュが、その横にいる小さな影を見つける。
「ではないか。君まで一体…。」
「あ、バッシュ…ヴァン。」
ヴァンとバッシュは訳が分からなかった。
用があってここへ来て、目の前で起きている、この妙な組み合わせが疑問でならない。
「おお、ヴァン。無事だったか!パンネロがさらわれてな、ごろつきどもが手紙をよこしたんだ。
バルフレアを名指しでな。ビュエルバの魔石鉱へ来いとな!」
「バッガモナンよ。ナルビナにいた。」
一同が「誰に?」という質問の前にフランは言う。
確かにあの時、血眼になって探していた記憶がある。
あの様子からして、どう見ても「裏の仕事」に通じているとしか思えない。
パンネロが人質という立場であるとはいえ、安心はできないだろう。
「あの子に何かあったら親御さんの墓前に何て報告すればいいんだ!
ほら、さっさと行け!空賊ってのはそういうもんだろう!!」
「男の手紙に呼ばれてか?だいたいビュエルバには帝国の艦隊が集結中なんだぞ。」
ミゲロの必死の説得にもさらりと返事を返すバルフレア。
元をたどれば、ナルビナへ送られる前に彼がハンカチをパンネロに渡したから、なのだが。
しかしくつろいでいるとはいえ、今は脱獄囚。
こちらが牢獄を抜け出したことは、とうにバレている。リスクが高い。
「じゃあ俺が行くよ!空賊なら飛空挺くらい持ってるだろ!?送ってくれたら、俺がパンネロを助ける!!」
平行線だった会話に終わりを告げたのはヴァンの言葉だった。
ヴァンの目には迷いなどない。
「つきあうぞ。私もビュエルバには用がある。」
「侯爵と直談判か。」
ヴァンに続けていったのはバッシュだ。
奇遇にも、目的地は同じ。
バッシュが共にパンネロ救出に加わってくれるとなると、大きな強みになるだろう。
途端は再び手をつかまれる。
「お願いします、聖女様!いや聖母様!!パンネロをお救いになってください!
あぁ、神のお力でこの男を動かしてくだせぇ!!」
この男とは一向に立ち上がろうとしないバルフレアのことだろう。
当然の話だが、にバルフレアを操縦する力などない。
「だ、大丈夫です。私も共にビュエルバへいきますから…!」
ぶんぶんと手を振られる中必死でそう伝える。
こんな形ではあるが、もとからパンネロを助けにビュエルバへ行くつもりでいた。
言いだせるきっかけになり、むしろ感謝している。
「頼む。送ってくれたらあんたにやるよ!」
その手にあるのは、決して渡そうとはしなかった魔石。
それをくれるというのだ。
「手間のかかる女神ね。」
フランとバルフレアは顔を見合わせる。
後はバルフレアの最終的な判断を待つのみ。
小さなため息を一つして。
「さっさと支度して来い。すぐ発つぞ。」
バルフレアは立ち上がり、酒場の階段を下りはじめる。
「わかった!!」
元気な明るいヴァンの声は響き、皆も階段を下りて行った。
はミゲロの方を見て、大丈夫というようにペコリとおじぎをした。
一番最後にはなってしまったが、遅れをとらないように急いで下りた。のだが。
「…げっ…!」
出入口の前で立っているバルフレアの姿を見つける。…何だが悪い予感がを襲う。
この悪い予感がなんなのか予想がつくので、こそこそとバルフレアの前を通り過ぎようとしたが、
「…おい。」
低い声で、当然の如く呼び止められる。
「な、何かしら…?」
震える声でそう返す。とても顔を見れる状況ではない。
「なんでお前があのおっさんと一緒に来たんだ。」
「いや…あの、それは偶然ここに通りかかって…。」
バルフレアがそう尋ねてくると分かっていたにも関わらず うっかり口ごもってしまう。
「大方俺の忠告を無視して人助けしたところを、
あのおっさんに見られて勘違いされたんだろ。」
「うっ…」
しゅん…と小さく俯いてしまった。
「(図星かよ…。)」
眼下には自分よりはるかに小さいがさらに小さくなって固まっている。
怯えているのだろうか。 否、怒られるのをまっている子供ようにも見える。
さほど歳は変わらないのに、今はまるでヴァンと同じ歳のようだ。
「バルフレアさん…ごめんなさい…」
反泣き声でそのうえ上目遣いで見られたらさすがにお手上げだと
バルフレアは頬をかいた。
「あー分かったからもういい。ターミナルへ行くぞ。」
そう言うとバルフレアは扉を開け出て行ってしまう。
「えっ!?あっ、はい!!(ターミナルってどこだろう…)」
以外にも何も言われなかったことに疑問を感じたが、
も走ってバルフレアの後を追った。
***
ターミナルの中で待つこと数分、準備を整えたヴァンがやってきた。
これで全員そろった。あとはビュエルバに向かうだけ。
バルフレアとフランについてドッグの中を歩くたち。
すると現れた、首が痛くなるほどの大きな飛空挺。
「シュトラールだ。なかなかのもんだろう。」
空賊を目指すヴァンには、憧れの飛空挺。
それを目の前にして、ヴァンは感嘆の声を上げた。
見るもの全てが興味深いものばかり。
意気揚々としてヴァンは飛空挺へと一歩一歩足を踏み入れていった。
―――――――夜。
自動操縦へと切り替え、眠りにつく一行。
だが、やはり聞こえてくる物音。
小さくはあるが聞こえる廊下の音に、バルフレアは起き上がり、部屋の扉を開けた。
「何してる。」
予想していた通りの者がそこにいて。
「お祈りです。」
予想通りの答えが返ってきた。
窓の外の月を見つめ、床にしゃがんでただ祈り続ける―――
そっとに近づいてみる。
「怪しい奴をフネに乗せるのは嫌なもんでな。
―――話してもらうぜ。」
逃げても無駄だ、というように壁際へと追いやる。
観念したように、は立ち上がり、バルフレアを見てぽつりぽつりと話し出した。
「わたしは…村の“希望”なの―――。」
「…希望?」
村の話はこの間の集落で、ヴァンと話していたのを聞いてはいた。
でもその時はは多くを語らなかったし、隠しているようにも見えた。
だからこそ分からないことだらけだし、気になって仕様が無いのだ。
「昔は活気に溢れてた。旅の人だって沢山きたし、みんな明るくていつも楽しくて。
でも、帝国に支配されてるようなものだったから…。」
「戦争か?」
「ううん、戦争が起こるずっと前よ。
父や、村の男の人がみんな兵力として連れて行かれてしまって…帰ってこなかった…。」
そう話したの目は、もうバルフレアを見てはいなかった。
昔を名残惜しむように、そっと目を閉じていた。
「その所為で母は病気にかかって…亡くなったわ…。
思い出なんて少ないの…。まだ幼かったし…弟なんて顔もしらないくらいにね…。」
涙は流れてはいないといっても、その声は悲しさで満ち溢れていた。
「それからすぐに、私は村の希望になった…。生まれたときから、私は魔力が強いとか何とかで…
母が引き受けてたシスターの仕事を引き継ぐ形だったけど…。」
「子供のうちから村を守らなきゃいけたくなった、か?」
のその過去に自分の姿を見たのか否か、バルフレアは険しい顔をしてそういった。
“希望”などという綺麗に飾った言葉に紛らわせて、敷かれたレールを歩ませた大人たちの行動に
誰かの姿を思い出したのかもしれない。
「でも嫌々やってたわけじゃないの!」
「分かってるさ。」
慌てて弁解しようとしたに微笑んでそういってやった。
そうでなければ、今も尚 他人にそこまで尽くすことなど、出来ないのだから。
「おい、じゃあ何で聖職者じゃないとかいったんだ。シスターなんだろう?」
月の光に照らされた顔が一瞬にして暗くなる。
「…許せない人がいる。」
「何もかもめちゃくちゃにしていったあいつを私は許せないの…。
恨むって言葉を覚えてしまったら、聖職者なんかじゃないもの。」
「祈るのは…許しを請うためか?」
「いいえ…誓いよ。村を救うための、誓いなの。
一つは20歳を迎えるまで 純潔でいること、一つは祈りを欠かさないこと。
それを果たせば、村は救われると 神が仰ったもの。だから祈るの。」
「神ねぇ…。」
怪訝そうに言ったからだろうか。
心を読んだように、
「あなたは神とか信じていないでしょうね。」
と笑って言われた。
まだ大方、大事なことは話していないのだと分かっていたが、それ以上は何も聞かなかった。
の顔は笑顔なのに、「これ以上聞かないで」と言っているように見えたからだ。
「でも良かったのか…?俺にそんな大事なことを話して。」
そう尋ねると、分からないといった表情で見上げてきた。
無論聞いたのはバルフレアの方なのだが。
「今俺とあんたは2人だけで、このフネは俺の物。
あんたの誓いとやらをめちゃくちゃにするかも知れないんだぞ。」
真っ白なものほど汚したくなるんだと、そう言って。
の顎を持ち上げ、至近距離で見つめてやる。
もちろん、そんなつもりは無いのだが。
「あなたはそんなことしないわ。」
思っていたのとは違う反応に少し驚いた。
真っ赤にして、また慌てると思っていたのだが。
「ほう…どうして分かる。」
「だって…。分かってたのよ。あなた、しぶしぶ立ち上がったようにしてたけど
はじめから助けにいくつもりだったでしょう?」
「…!」
昼間のパンネロの話だろう。本当のところは、確かにの言うとおりだった。
フランしか気付いていないと思っていたことが、まさかも気付いていたとは。
そっとはバルフレアから離れ、部屋の方へと歩いて行く。
その姿を追って、振り返れば、綺麗に笑ったの顔。
「あなたとっても優しいもの。」
だからこうして何もしないで、私を部屋へと帰してくれる と言わんばかりの笑顔。
が去ったその場は静かになり、月だけが明るく光っている。
そうして気付く、言葉の意味。
つまり自分は、男としての器を試されたのだと。
「欲望に流されるような、人じゃないわよね?」と言われているのと同じだと。
そこで流されてしまえば、自分はそこまでの男だし
自分がどこまで、女性に対して紳士的でいられるか 試されたのだ。
上手いこと逃げられたな、と思う。
昼間は子供みたいにめそめそしてるし、かと思えば、大人の女の顔をする。
ころころと表情をかえて、飽きさせない。
「……覚悟しとけよ。」
二度も空賊は獲物は逃がさない、と。
「だが今回は…一本取られたな。」
言葉とは裏腹に、そう言って月を見上げたバルフレアの顔もまた笑顔だった。
***
だからさっさとビュエルバ行けよ!!って突っ込みはなしで!
最後の方はヒロインのちょっと大事な話だったのに
意気込みすぎてめちゃくちゃに。
そしてヒロインも突っ走ってミゲロさんに捕まるドジっぷり。
もっと愛らしいヒロインが書きたいよ!!!