06
「オンドールの屋敷へ行こう。問題はどう接触するかだ…。」
「侯爵は反帝国組織に金を流してる―――そっちの線だな。」
ラーサーに保護されたパンネロを救うため。
そしてバッシュの目的を果たすためにも、
オンドール侯爵と接触しなければならないのだが どうすればいいのか良案が思いつかないでいた。
「オンドール侯は2年前、私が処刑されたと発表した人物だ。
私の生存が明るみに出れば、侯爵の立場は危うくなる。」
「侯爵を金ヅルにしてる反帝国組織にとっても、面白くない事態だろうな。
“バッシュが生きてる”ってウワサを流せば、組織の奴が食いつくんじゃないか。」
バッシュとバルフレアの言う通り、侯爵との接触にバッシュの存在は重要なものとなるだろう。
ただ―――
「ウワサは流すとして…街が大きすぎて、広まるのに時間がかかってしまいます…。」
そうなのだ。
治安のいいここビュエルバは、人で溢れかえり 非常ににぎわっている。
沢山の人間が、バッシュの生存を信じ、話題になれば話は早いが…
絶大な信頼を持つオンドール侯の偽発表説を信じてもらえるかが問題だ。
の言葉に、一同はう〜ん…と頭をひねる。
「あっそうだ!」とポンと手を叩き、ヴァンがひらめく。
「だったら、俺が街じゅうで言いふらしてくるよ。こんな風にさ。
俺がダルマスカのバッシュ・フォン・ローゼンバーグ将軍だ!!
…どうだ?」
えっへん、と得意げな顔をしてヴァンはバルフレアを見つめた。
明らかに、怪しくて 胡散臭い。
「……まぁ、目立つのは確かだな。よしヴァン、お嬢ちゃんを助けるためにもできるだけやってこい。
出来るだけ人の多い場所でな。オンドール侯爵と接触できるかどうかはお前次第だ。
俺達はここにいる。何かあったら戻って来い。」
「分かった!じゃあ行ってくるよ!!」
そういうとヴァンは、人気の多い街の中心へと一気に掛けていった。
「…ヴァンが心配だわ…。私も一緒に行けばよかったかも…。」
住人によからぬことを吹き込むような行為なのだ、解放軍にとっては。
ウワサを聞きつけたその瞬間に、ヴァンに手をかけないとは限らない。
「駄目だ。あんたまでここから離れたら、余計厄介になる。」
「…まぁ…厄介だなんて…。」
心外だ、と反論すれば
「今までのことを思い出してみろ。あんたはしっかりしてるように見えて、色々巻き込まれてる。」
違うか?と目で責められ 息が詰まる。
そういえばそうだったような気もしないでもない…。
「…うぅ…っ。で、でも!ヴァンにもしものことがあったら大変だもの!」
心配性なのだろうか、それとものポリシーなのかも分からないが
納得しないなら 納得させるまで。
幸い、の弱点は知っている。
「…おとなしくしてろ…。
それとも、こうして抱き合っていたいのか …――?」
ぐっとの身体を抱き寄せ、低い声での耳元に囁く。
腰…というには微妙な位置だが、だんだんと近づいてくる顔の距離にはたじろいだ。
「…わ、分かりましたから…!はな れてください、バルフレア…っ」
真っ赤な顔をして、あたふたしているをからかっていたい気持ちになったが
おとなしくしていると言うのだから、とバルフレアも身体を離していつもの笑みでを見下ろす。
へなへなと座り込んで 恨めしそうに自分を見つめる視線と交わった。
弱点とは、スキンシップのことだ。
誓いだか何だか知らないが、その誓いとやらでは男に触れられることを苦手にしている。
これさえ分かったなら をおとなしくさせることなど容易いこと。
まったく、―――面白い女だ。
今度またやってやろうと芽生える悪戯心。
それくらい、の表情は面白くて 愛らしいのだ―――。
***
「少し、遅くはないか…?」
バッシュの言葉に、全員が顔を見合わせる。
その言葉通り、ヴァンがこの場を出て行ってからしばらく経つ。
「確かにそうね…。遅すぎるわ。」
フランが相槌を打ち、はバルフレアを見た。
「ね…!危険だったでしょう…?」
「…仕方ない、ヴァンを探すか。」
そう言って立ち上がるが、ヴァンがどこにいるのかが分からない。
この街を探し回るにも、時間のロスが気にかかる。
今のヴァンは、解放軍にとってオンドール侯を揺るがす災厄なのだから。
早く見つけなくては。
再びう〜ん…と唸って考える。
ふと思い出したこと。前に読んだミステリー小説で、犯人が隠れ家にしていた その場所。
「きっと酒場の奥よ!隠れ家の王道っていったら、そこですよね バッシュさん!」
「あ、ああ…そうだな。酒場の奥だ。」
キラキラとした瞳に同意を求められ、一瞬驚いたバッシュだが 確かにそうだと納得する。
だが、本人が公言しているように 隠れ家にしては王道すぎるということ。
そんな“いかにも”な場所に 隠れ家をつくるような輩なのだろうかと、バルフレアは怪訝そうな顔をした。
「今日は何だか冴えているような気がするの!さっ、ヴァンを助けに行きましょう!」
人助けとなればじっとしていられないのだろうか、は張り切って酒場へと向かい始める。
「まったく…そんな上手くいくもんかねぇ…。」
と、ぶつぶつと言いながらも バルフレアもを追った。
「…元気が出たようでよかったな。」
「…そうね。」
魔石鉱を出たときの、の涙が気になっていたのだろう。
明るく前を行くの背を微笑み見つめながらバッシュはフランに声を掛けた。
「…あれが、作った笑顔でなければいいのだけど…。」
「…あぁ。」
今度はフランの話にバッシュが相槌を打つ。
信用されていないとか、今だ他人としか思われていないのだろうかとか
そういう事ではない。
が…自分達に心配をかけないように、笑っているのではないかと。
自分一人で、生きていこうとして壊れるのではないかと、思ってのこと。
小さな不安を胸に、二人も酒場へと歩みを進めた。
***
一方ヴァンはどうしているのかというと。
街中で「俺はバッシュだ」といいふらしていったまでは良かった。
だがしかし、その話を聞きつけた反帝国組織に囲まれたのだ。
作戦は成功といえば成功なのだが、有無を言わせず連行され今に至る。
「連れてきたぞ、ハバーロ。こいつが“将軍”だとよ!」
嘲笑を浮かべ、ハバーロと呼ばれたその男の前に トメッチはヴァンを突き出す。
「ふん、似ても似つかんな。」
「ケッ、やっぱり別人か。タチの悪いイタズラしやがって!」
やはりバッシュの生存が影響するのだろうか、
余計な心配をさせられたと言わんばかりにヴァンを睨みつけた。
「ただのイタズラならいいが、そこらのガキがローゼンバーグ将軍を名乗るとは思えん。
締め上げて背後関係を吐かせろ。最近、帝国の犬がかぎまわっているからな。」
「あんたらの組織と侯爵の関係をかい?街のガイドを隠れミノに諜報活動か。
―――酒場の奥がアジトとは、また古典的だねぇ。」
「やっぱり!今日は冴えてたでしょう?きっと神のお導きです…。」
得意気にバルフレアを見上げては笑う。
手に握るロッドには、まだ淡い光が残っていて 魔法を放ったのが分かる。
それを証拠に、まだ太陽が空高々だというのにいびきをかいて寝てしまっている門番の姿が見える。
「ええ、のお陰ね。」
「まっ、しばらく起きそうにないしな。あれだけ強力なのかけられりゃ無理もないか。」
「あれでも力を抜いたつもりなのよ…?
それに、通させなかったら手を出すってバルフレアが言うからですよ!」
大勢の反帝国組織に囲まれているにも関わらず、呑気に会話をしている3人に
大声で攻撃態勢を構えるトメッチ。
「なんだ、てめぇら!?」
「待て!」
コツリコツリと一歩ずつ前へと進み出るその姿に、ハバーロは驚愕した。
圧倒的な存在感を放ち、周りにいた者も呆然としている。
死んだはずのその男、バッシュが今目の前にいるのだから。
「あんたは―――本当に生きていたのか―――!」
***
「いかにも裏がありそうな話だったが…まさか本人のご登場とはな。このことを侯爵が知ったら…」
「さて、何と言うかな。直接会ってきいてみたい。」
いつもの優しいバッシュとは裏腹に、今は脅しともとれるくらい意地悪な発言をしている。
どちらにしても、いづれはバッシュ生存の話は街全体に広がり、オンドール侯の耳に届くだろう。
ウワサが広まる前か、広まった後か。
そのどちらかしかないのだ。
「…侯爵閣下がお会いになる。後ほど屋敷に参られよ。」
交渉成立、といったところで
今だ強力なスリプルによってぐーぐーと寝ている門番を尻目に酒場から出た。
酒の匂いから開放され、すっきりした空気のなかでぐっと背伸びをする。
「ふぅ…なんだか疲れたな…。」
「そうねぇ…私も同じ。何だかお酒の匂いだけでも酔ったみたい。頭がくらくらするわ…。」
顔を見合わせて苦笑するヴァンとにバルフレアが釘を刺す。
「おいおい、これからもっと疲れるんだぜ。」
「そっか、そうよね。大切なのは、日がくれてから だものね。」
つかの間の休息を、今は楽しもう。
夜はもうすぐだ。
***
今、ストーリーを思い出すためにFF12を2週目プレイ中なのですが…
あの、バッシュの胸当て?(防具)あるじゃないですか。
黄色とか緑とかカラフルなやつ…。
あれ、バッシュを見るたびに ビンゴカード に見えて仕方がありません…。
私だけでしょうか?!
あれ、絶対ビンゴカードだよ!!