12
これからどうしたらいいんだろう。
一度気付いてしまうと、それを消すのは大変で。
大きくなっていく疑問。
…疑惑。
「もう少しで「死者の谷」に着くわ。」
アーシェは、みんなは…不思議に思っていないのだろうか。
確かに、ウォースラさんに不審な動きはないし
ウルタン・エンサ族の敵襲に遭遇した時だって 躊躇なく助けてくれる。
「私の考えすぎ、かぁ…。」
「?どうかしたの?」
思わず口にしてしまったことをパンネロに聞かれドキッとした。
ウォースラさんを怪しんでいるなんてことが気付かれでもしたら、この先やっていける訳がない。
「ダルマスカ再興」の味方が少ない今、協力していかねばならないのだから。
「ううん、なんでもない。」
「そうー?ならいいけど。」
とにかく早く、「暁の断片」を手に入れないと――――
ナム・エンサを更に奥へと進んでいくにつれ、美しい景色が目に映る。
あれだけ立派にそびえ建っていた油田施設も、後ろで蜃気楼に揺れるだけ。
手が加えられることがなく、自然なままということはつまり 人が立ち入っていないということ。
否―――、“立ち入れなかった”ということ――――――
バサリという羽音とともに、大きな影が地面に映し出される。
「なっ、なにあれ!鳥…!?」
「死者の谷を守ってるっていう怪鳥か!」
死者の谷を守る怪鳥―――その名もガルーダは
空をぐるりと旋回したかと思えば、突如風をきってアーシェに襲い掛かった。
「きゃぁ!!」
「殿下!!」
間一髪、ウォースラがアーシェを抱え込んだことで
ガルーダの口の中に納まらずに済んだ。
「ありがとう、ウォースラ。」
「ご無事で何よりです。ここは私が遠隔攻撃で奴を討ちとめます。」
アーシェが頷いたのを確認し、ウォースラは大剣を構えガルーダへと向かって行く。
「こんのやろー!!」
「おいっヴァン!待て!!」
ウォースラと同じように
バルフレアの忠告を無視して勢いよく飛び掛ったヴァンだったが…
「うわ!と、飛びやがった!?」
再びバサリと音を立てて大空へと上って行く。
ヴァンの努力もむなしく 振りかざした剣は、見事に空振りした。
「だから言っただろ!奴みたいな飛行タイプのモンスターには接近武器は効かない。
俺とフランが何とかしてやるから、お前は魔法で攻撃するか 怪我しないよう隠れとくんだな。」
からかうような台詞を告げると、すばやく銃の引き金を引いて敵を撃つ。
フランもそれに続き、ガルーダにダメージを与えていった。
残りの者は魔法での攻撃やサポートに専念した。
「果て無き深い闇で覆いつくせ!ダーク!!」
のロッドから黒い影が表れ、ガルーダの姿を囲む。
しかし、その様子はいつもとは違っていた。
「いつもの威勢はどうしたんだ。」
「ちょっと失敗しただけだもの…!」
バルフレアの言葉通り、いつも爆発的な威力を放つと言うのに 先程のダークは並みの威力。
闇属性がガルーダの弱点のため大ダメージを与えてはいるが…
いつものの魔法ならば、これくらいのモンスター、一発で仕留めてしまえるはずだろう。
「(通りで…、辛そうな顔してやがる。)」
ちらり横顔を見れば、薄らと汗をにじませたがいた。
さすがにこのままじゃマズイな―――、とバルフレアは一気に勝負をかける。
「―――悪いがお遊びはこれで終わりだ。」
的確な狙いで撃った銃弾は 見事、ガルーダの急所を撃ち抜く。
その大きな身体が大空へと飛ぶことは、もう二度となかった――――。
***
「往来、神々に愛されしレイスウォール王は―――バレンディアからオーダリアの両大陸にまたがる広大な領域を
一代で平定し―――ガルテア連邦を打ち立てました。
覇王と呼ばれてはいますが……――――」
誇らしげにレイスウォール王の偉業を語るアーシェを尻目に、私の額に冷や汗がどんどん溢れてくる。
―――ドクン ドクン
「、大丈夫?」
パンネロが心配そうに顔を覗かせ、肩をそっと支えてくれる。
「とっても気分が悪そうよ…!」
「…平気、ちょっと疲れちゃっただけ…。だから大丈夫、ね?」
やっと王墓に着いたんだ。
早く「暁の断片」を手に入れて…アーシェが王女様だって証明しなくちゃいけない。
ここで足を引っ張るのは嫌だ。
「…レイスウォール王は、覇王の血統の証となる3つの遺産を残しました。そのうち「夜光の砕片」はのちのナブラディア王家へ渡り―――
「黄昏の破片」はダルマスカを建国した我が祖父へ。最後のひとつ、「暁の断片」はここに封じられて―――
その存在は王族にだけ伝えられてきたんです。」
「覇王は今日の事態を見越しておられたのでしょう。」
ドクン―― ドクン―― ドクン―――
「代々の王のみに許された場所ですから、証を持たない者が立ち入れば――――。」
「生きて帰れる保証はなし。墓守の怪物やら悪趣味な罠やら――――そんなところか。」
ついさっきデカい鳥に襲われたところだ、と言いたげなバルフレアの言葉に
アーシェは頷き、王墓の中へ歩いて行く。
「その先に眠っているのです。「暁の断片」も、覇王の財宝も。」
「話がうますぎると思ったよ。」
みんなが中へ入って行くのを見て、私も歩こうとしたが…上手く足が動いてくれない。
苦手な砂漠を歩いていた時ですら軽快だった足が 途端に棒のようになってしまってふらふらする。
身体が拒絶している。この中に立ち入ることを……。
「(死者の谷…って名前通りね…。持ちこたえられたらいいけど…。)」
力の入らない身体を無理矢理動かして、王墓の中へと入っていった。
***
お墓というにはあまりにも立派な。
さすがは覇王というべきか、壮大な王墓の中を…
走り回っていた。
「なんで壁が襲ってくるの〜!!」
「パンネロこっちだ!向こうの部屋に逃げよう!みんなも早く!!」
王墓に入った途端、早速“悪趣味な罠”に出くわした。
蜘蛛のような沢山の足でこちらに向かってくる「壁」は、扉との距離をどんどん縮めてくる。
ここままだとつぶされてしまう、とヴァンの手招きする方へと駆け込んだ。
ハァと息を吐き、ひとまず安堵した。
「この先、何があるか分からないな…。念には念をいれよう。すまない、バルフレア。少し持ってくれないか。」
「はいよ、将軍。」
短剣をバルフレアに預け、装備を変更するバッシュ。
その横では「怖かった」と半泣きのパンネロを、持ち前の明るさで励まそうとするヴァン。
「安心しろって!こっちにくれば、もうだいじょ…う…ぶだ……。」
ゴゴゴゴゴゴ……
「げっ!こっちにもいるなんて聞いてないぞ!!一体どうすりゃ…」
「今向こうに戻ってもつぶされるだけだわ…戦うしかない!」
ロッドを持ち構えるが、ロッドの重みに耐え切れずの身体はがくんと倒れてしまう。
「(お願い、私の身体なら言うこと聞いて…!)」
再び立ち上がると、勢いよく魔法を放ち攻撃を開始する。
皆も上手く敵の攻撃を回避しつつダメージを与え、ヴァンに至っては
「攻撃が当たるならこっちのもんだ」とガルーダ戦で仕えなかった体力を存分に発揮した。
「これで…どうだぁッ!!!」
ヴァンの渾身の一振りが極まり、戦闘は終了した。
やっと訪れた二度目の安堵もつかの間。
「きゃっ!!」
いくら、現代では理解も出来ない程の仕掛けが施してあっても
いくら、偉業を果たしたレイスウォール王の墓であっても
700年あまりの月日が流れれば さすがに建物自体、脆くなってしまう訳で。
先程の戦闘の衝撃で、不運にもパンネロの立つ床がガラリと崩れていった。
「パンネロ!!」
そう、ヴァンが呼ぶよりも先に
バッシュが、手をのばすよりも先に
「!」
ぐい――と腕を引っ張り安全な場所へ助けたのはいいが。
――――ぐらりと揺れ、言うことを聞かない身体では その反動に耐える体力などなく。
「……――――――――。」
「―――!」
の身体は、宙へと舞い そのまま地下の真っ暗な中に飲み込まれていった。
***
「どうしよう…!どうしよう…!私の所為で…が…が!!」
泣き崩れるパンネロに、さすがのヴァンもかける言葉が見つからず
ただそっと抱きしめるだけ。
「私達に時間はないわ。…とにかく、私達は先へ進みましょう。」
「なっ…!」
「…………………。」
アーシェの言葉に一番に反応を見せたのはヴァンだった。
そんな様子を、フランは黙って見つめている。
「さっきのような仕掛けが施されているなら…どこかで合流できる道があるかもしれないわ。」
「だからってそんな…何なんだよお前!」
「お前はやめて!!」
またも始まった二人の口論を止めたのは、フランの意外な一言だった。
「…そうね、先に進みましょう。地下へ進めば、上手く見つけられるかもしれない。」
「フラン!?」
「フラン…でももし…私の所為で……。」
最悪の事態がパンネロの脳裏をよぎり、言葉をつまらせる。
「あなたの所為じゃないわ、パンネロ。はきっと無事よ。“彼”も一緒だから大丈夫。」
最後にもう一度だけ、フランは二人が落ちた場所に視線を向ける。
「(二人とも…無事を祈るわ。)」
そうしてフラン達は、「暁の断片」目指し先へと進んでいった。
***
何を隠そう、次の話が連載当初から書きたくて書きたくて仕方なかった。(何それ)
アーシェが嫌な子みたいな感じになってますが
嫌いって訳じゃないですよ。
このあたりのアーシェは、すごく切羽詰って自分のことしか考えられなかったイメージがあったので。