「レイ!レイ!!しっかりして…!」
「………ごめんね……わたし………」
「お願い!今は喋らないで!ああ、どうしてこんなことに……。」
「村を守るのが…こんなにも大変だなんて…知らなかった……………」
ごめんね、 ―――――――――――――
私がこのまま死んでしまったら
あの人は報われるのでしょうか―――――
13
「――――っい!おい!」
「………バルフレア…?」
目を開けると、そこには心配そうな顔をしているバルフレアがいた。
「守った甲斐なく死んだかと思ったぜ。」
確かにの身体には傷一つなく、どうやら気を失っていただけのようだが…
「バルフレア!あなた…すごい怪我を…。」
「なに、腕の骨を一本折っただけだ。」
気を遣わせないように、平気なフリをしてくれているのだろうが
綺麗なシャツが見事に汚れているのを見ると、その腕にかかった衝撃がどれ程のものか分かる。
それもそのはず。見上げても、さっき居た場所すら見えないのだ。相当高いところから落ちてしまったのだろう。
「私を庇った所為で…ごめんなさい!今、魔法を―――。」
かけます、と言おうとした口を手で遮られる。
「やめとけ。さっきの戦闘で魔力はそんなに残ってないだろ。 それに、死者の谷に着いたときから様子がおかしい。
そんなが少ない魔力で魔法を使えば、今度はあんたの身体がぶっ壊れる。」
「―――――!?」
「分からないと思ってたのか?あんたにはどう映ってるか知らないが、女性の体調には気を遣ってるんだぜ。」
確かにバルフレアは、エンサ砂海を横断中も 何かと休憩をとってくれたりした。
気を遣ってくれたのが迷惑な訳じゃない。嬉しくない訳じゃない。
でも。
私がいなかったら、バルフレアはこんな地下に落ちずに済んだ。
私を庇わなかったら、バルフレアは大怪我しなくて済んだ。
「だからこそ、傷を治したいの。私のことは大丈夫。
ここはミストが豊富…うまく操作すれば、何てことないから。」
「ミストを操作…?そんなことが出来るのか?」
驚いているバルフレアをよそに、はすでに詠唱を始めていた。
目をつぶり、集中しているの身体が、ぼんやりと光りだす。
「ええ…。ミストを自分の魔力にするの。そうすれば何倍もの威力にだってなる。
私の村はミストが多くてね…………ずっとやってた………。」
言葉が途切れ途切れになり、それは魔法を放つのが近いことを案じていた。
「…お願い…彼は私を庇ってくれたの…。
傷を治す力を…私に……ちょうだい……………ケアルラ…!」
パァっと音が出そうな程、の身体は白く輝き 辺りを照らした。
暗闇に慣れた視界が一気に明るくなり、あまりの眩しさにバルフレアは目を閉じた。
***
「どう…?痛みはひいた?」
「ああ…大丈夫だ。」
痛むどころか、完治している。
腕一本と言えど骨折したら、少なくとも治るのに何日もかかる。
高価な回復薬があるといっても、そう簡単に治るものではないというのに。
「あんたも大丈夫なのか?あれだけの魔力つかって。」
「ちょっと疲れたけど平気!私は大丈夫。」
最早、の魔法はスゴイだとか 威力があるとか、そんな話では済まないようだ。
言葉で表せることなど出来ないくらい、ずば抜けている。
「それなら…行くか。どこかでフラン達と合流できるだろう。」
「…そうね、とにかく先に進みましょう。」
よいしょ、と立ち上がって歩き出すだったが
一向にバルフレアが動かないことに気付き、首をかしげた。
「…どうしたの…?」
目に止まる、バルフレアの手の中。
そこにはいつもの銃の姿はなく、代わりに大きな剣が握られていた。
その剣の持ち主は、先程までバルフレアではなくバッシュだった。
「それ…!でも、剣は苦手では…。」
「生憎、危険な道を女性に先に歩かせるほど馬鹿じゃないんでね。」
何と言ったらいいのか分からない。そんな表情を浮べたままのを尻目に
バルフレアは先に進もうとする。
遠距離型の銃と、敵と接近するロッドとでは 危険なのは間違いなくロッド装備の。
少しでも敵の意識が反れるようにと同じように接近武器を装備してくれたのだ。
いつもなら、「ありがとう」と言えた。
でも、今は言葉が出なかった。
パンネロを助けたことは後悔などしていない、でも結果的に無茶をした所為でバルフレアを巻き込んだ。
あげくの果てに、怪我をさせた。
『 あ り が と う 』
感謝を述べるたった5文字の言葉が、あまりにも薄情に思えて 口にすることなんて出来なかった。
途端に、怖くなった。
自分の所為で、誰かを傷つけたと言う事実。
これ以上、あなたを傷つけてしまうのならば
私を守ろうとして、あなたが消えてしまうのならば いっそそれなら見捨ててくれたほうがいい。
嫌いになって。憎んで。忘れて。
―――――バルフレアの優しさが、怖かった。
***
歩き続けること数十分。
ふとが思い出したように話をする。
「ねぇ…バルフレア。あなた、“魔女の騎士”って話をご存知?」
「確か…恋愛小説だろ。何年か前にイヴァリースで大流行した。」
「ふふっ、そうそう。」
「だが俺はあまり詳しい話は知らないぜ。恋愛は見るより実際にするもんだ。」
バルフレアの言葉に、はくすくすと楽しそうに笑った。
「バルフレアらしいわね。……世界は、魔女の力に怯えていた。そんな世界を救うため、立ち上がった男女がいたんだけど…
ふとある時女の子が魔女になってしまったの。彼女は怖くなった。皆が私を嫌いになる、私を殺そうとする、って。」
「…………それで?」
「…それもそうよね、男の子は 本来魔女を倒すべき人物だった。でも彼は彼女に言ったわ。
“俺はあんたを殺さない。どんなことがあっても、守る。魔女の騎士になる”ってね。」
「ほう……。」
「そうして彼は世界を魔女の恐怖から救い
平安を取り戻した世界の中で、二人はそのまま結ばれた、って話。」
なるほど女が好きそうな話だな、とバルフレアは思った。
そういえば、あまり興味のない話を覚えているのも 昔口説いた女が「感動するのよ〜」と話していたからかもしれない。
「バルフレアはまるで“魔女の騎士”ね。現に私はあなたに守ってくれた。」
丁度剣を持ってるわけだし、と付け加えるをよそに 芽生える悪戯心。
「俺が騎士で…あんたが魔女なら…、それはその後の二人のようになりたいってことか?」
だってそうだろう。
の言うとおり俺が騎士なら、待っているのは永久の愛だけ。
くい、と顎を持ち上げて触れそうなくらい顔を近づけたバルフレア。
「きっと恥ずかしそうに慌てるにきまっている。」
それが面白くてからかおうとするバルフレアの思惑は、の間抜けた一言によって台無しになる。
「…へっ?何言ってるの〜、私が“魔女”なんて…無理無理!全然つりあわないもの!」
果たしてに愛という文字はあるのだろうか。
天然か、と言ってしまいたいくらい的外れな返答。
の中で、魔女と騎士の関係がどうのこうのより 役に当てはまるかの方が重要視しているようで。
けろっと「私は魔女じゃない」と言うと、照れる様子もなくさっさと歩いていった。
「…………そういう意味じゃないんだがなぁ。」
言葉はがっかりしているが、
突拍子のない答えがバルフレアの興味をそそったのか ふっと笑うとの後を追った。
―――――ピタリ。
今まで何事もなく ずんずんと進んでいた二人の足が止まる。
一本道だというのに、まるでどこかへ迷い込んでしまったかと思うくらい ビリビリとした緊張感に包まれた。
「……ここ…何かいますね…。」
「ああ。それも、相当良くないもんだな…。」
カラン…―――――
「「!!」」
背後から、乾いた石のような音がして振り返る。
「…スケルトン…?」
暗闇にひっそりと立つ、この世のものではない者。
カランと鳴る骨の音は、いつしか四方 どこからも聞こえ始めていた。
そしていつしか、混じってうめき声が耳に入ってくる。
「なるほど、スケルトンにゾンビね。…だが幽霊屋敷に来た覚えはないぜ。」
暗闇の奥から、地面から突然表れるアンデットモンスターに 二人は囲まれ逃げ場をなくしていた。
「いけるか…?」
「…ええ!もちろん!」
強く握り締めた武器
向け合った、背中
大量の敵を何とか二人で倒していく。
不死生物であるその身体は脆く、一体を倒すのにそう時間はかからないが
二人の体力は恐ろしいほどに消耗していった。
特には―――暗い中でも分かるほどに 血の気が引いて青白いのが分かる。
「(苦しい……気合負けしてしまいそう…!)」
二人が苦労するには理由があった。
それは、何体 何十体倒しても 再び現れる敵の数。
先の見えない戦いの中、には策があった。
「バル、フレア…ッ!これじゃキリがないわ…私が魔法で蹴散らすから…!」
「何言ってる!あんたの身体じゃ無理だ!!」
バルフレアの言葉通り、にそれほど魔力は残されていない。
先程のように、ミストの力を利用するにしてもリスクが大きすぎる。
「だから…っ バルフレアの力を貸して!詠唱している間…もう一度だけ迷惑を引き受けて…!」
自分を守ってくれる代わりに、バルフレアが傷ついてしまうのは にとって耐え難いものであった。
だがしかし、この試練を脱出するには、自分の魔法のほかにバルフレアの協力が必要だ。
「―――わかった。ならおとなしく守られてろよ…!」
バルフレアが私の分まで、攻撃を受け止めているのが分かる。
時折聞こえる小さな声はとても苦しそうで、バルフレアの体力も限界に近いんだ。
だからこの先、もう戦うことのないように
あなたたちは、この世の呪縛から解き放たれるように
お願い――――――――!
「不死の身体を浄化せよ、ファイラ!」
火傷してしまいそうな位の炎は 奥まで届いているのだろう。
アンデット達を包みこみ、炎が消えたときには
あれだけ沢山いたはずの敵の姿はなく、残ったのはとバルフレアだけだった。
「―――――っ!」
「!」
がくん、との身体が崩れ その場に倒れて行く。
「っ!大丈夫か!!!」
***
「ごめんなさい…。」
「この位気にするな。大したことじゃない。」
バルフレアの背には、が居た。
あの後、ぐったりと倒れてしまったは歩くことなど出来ず かといって休憩している時間もなく
何とか先に進もうと バルフレアにおぶわれたのだ。
「身体の方は大丈夫なのか?」
「うん…身体はもう平気だけど…。私、何か駄目みたい。ここ、多いでしょ?」
何が、と聞こうとして思い出す。
死者の谷。ここに着いた時からの様子はおかしかった。
「闇の力に…ちょっと弱いの。私、一応聖の力が主だから、ね…。」
「…だから“ダーク”の威力はいまひとつな訳だ。」
財宝を盗もうとした盗賊、山賊。
だがあの怪鳥によって入ることすら出来ず死んでいった者の思いが、
不死生物となってここに残っているのだろう。
それが外にいても感じ取っていたにとって、ここは地獄といっても過言ではなかったはずだ。
会話は途切れ、聞こえるのはバルフレアの足音だけ。
「ねぇ…バルフレアは、ウォースラさんのこと どう思う………?」
「あぁ?」
ぽつりと漏らしてしまった台詞に、しまったとばかりには慌てたが既に遅し。
「いやっ、あのちょっと…ちょっと…気になって…。」
「………いけ好かねぇ奴だな。」
はっきりと言い切ったバルフレアにぎょっとした。
「何かある度に 俺に突っかかってきやがるからな。」
「それは…確かに…バルフレアのことを目の敵にしてるように思えなくもないけど……。」
「じゃあ、あんたが気になってるのは何なんだ。」
の言葉が詰まり、沈黙が流れる。
「ウォースラさんは…どうやってここへ来たのかな、って…。」
「…………………。」
「オンドール侯の協力で来たのかなって思った。でもそれなら、侯爵はアーシェを取り戻すはず…。」
「……………帝国、か……。」
何度考えても
何度思い返しても 最終的にたどり着くのは、その答えでしかなかった。
「私怖くて…言ったら、色んなことが壊れていきそうで…。だから―――。」
「分かってる…。誰にも言わないさ。」
確証のないまま打ち明けて、仮にそれが間違いであったならば 今この仲間の中の信頼は皆無となるだろう。
特に、まだ「バッシュの裏切り」を完全に拭えていないアーシェにとって
多大な影響を与えるのは間違いない。
再び沈黙が訪れた時、先の道がだんだん明るくなっているのが見える。
上につながっているのだろう。
「バルフレア、ありがとう。ここでもう大丈夫です。」
「無理するなよ。最後まで甘えとけ。」
「うん…でも大丈夫。みんなと合流できたとき、私があなたにおんぶされてたら…パンネロ、気にしちゃうでしょ?」
だから、と言ってそっとバルフレアの背中から降りる。
「本当、どこまでも親切だな。」
褒め言葉というよりも
ちょっとは自分の心配をしろよ、という忠告だった。
「その言葉、そっくりそのままあなたにお返しするわ。」
「巻き込んで、ごめんなさい。でも…一人じゃ私、きっと駄目だった…。」
「ありがとう。」
気恥ずかしいのか、そういうとはゆっくりと歩いていった。
が落ちそうになった時、何とかしようとか 助けてやろうとか思ったわけじゃなかった。
ただ気付いたら無意識のうちに、身体が動いていた。
なるほど、の言うことは大正解らしい。
「相当、俺もおせっかいってことか…。」
***
よだん。
恋愛感情は未だに芽生えていないものの、バルフレアにとってさんは
「ほっとけない子」という意識が生まれました。
魔法がレベルアップしています。黒・白ラ系魔法に。
あと、ファイラで敵を一掃した時の話ですが。ヒロインは聖の力が満ちています。
だからこういう幽霊が出る場所は弱いんですね、はい。
その後敵が出なかったのは、自分の聖の力を使ったからです。
浄化したんですね、成仏させてあげたんです。
バルフレアの武器が変わりましたが次からは普通に銃です。
ちょっと変えたかったんだにょ。
ゲームでは弓とか、忍刀を持たせてましたが…一番は棒ですwくるっと回すのがもうたまりません!!
こうして後から骨付けしないと伝えられない 相変わらずの駄文。