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!!」

「パンネロ…!」

 

よかった、よかったと何回も繰り返し の身体にぎゅっとしがみついたパンネロ。

責任を感じずにはいられなかったのだろう、涙を流し 少し震えるその身体をもぎゅっと抱きしめた。

 

 

 

「よかったわね、生きてて。」

「…何だ、冷たい相棒だな。」

 

そう言うとフッと笑いあうバルフレアとフラン。

それは互いの無事を確認しているようにも見えた。

 

「大丈夫なの?」

 

あなたらしくもない、とフランが指したそこは 見事に砂と埃で汚れたシャツの袖。

もちろん勘のいいフランには、そこがただ汚れているのではなく 怪我の跡だと気付いているからこその台詞だった。

 

「まっ、さすがにちょっと大変だったが…腕のいい医者がいたもんでな。」

 

視線だけを動かして、その目に一瞬姿を捉える。

当の本人は、まさか自分の話がでているとは全く思っていないだろう。

ヴァンとパンネロに挟まれ、再会を楽しんでいた。

 

 

***

 

 

再び、8人となった一行が更に奥へ進むと 

今までとは比べ物にならないほどのミストが漂っていた。

 

「ここを抜けると…「暁の断片」が…」

 

アーシェの言葉に、皆も期待も高まる。

やっとの思いでたどり着き、求めていた宝が目前にあるのだから。

 

…しかし。

 

足を踏み入れた瞬間、辺りは火の海となってアーシェたちを襲った。

 

「あれは…魔人ベリアス…!」

 

圧倒的な威圧感を放ち、立ちふさがっているその後ろには大きな扉が見える。

 

「殿下…。」

「えぇ、おそらくあの扉の奥に「暁の断片」があるのでしょう…。」

「ってことは、あのバケモノを倒さなきゃ駄目ってことだ!!」

 

ヴァンのその掛け声と共に、皆一斉に攻撃を仕掛け始めた。

ヴァン、アーシェ、バッシュ、そしてウォースラの4人は、果敢にベリアスへ飛び掛り

バルフレアとフランは遠距離から。とパンネロは魔法で応戦していった。

 

アーシェの中で、ある心境の変化が起きていた。

裏切り者、信用ならぬ空賊、遠足気分のお荷物―――――

頼りになるはずがないと、そう決め付けていた彼らが確実にアーシェの力となっている。

その事実が、固く閉ざされたアーシェの心を次第に開かせていった。

 

「やぁっ!!」

 

アーシェの剣が、ベリアスの急所を突く。

ベリアスの身体は光となって、アーシェの身体へと吸い込まれていった。

アーシェの中で その強力な力を発揮するだろう―――召喚獣 魔人ベリアスとして。

 

 

***

 

扉の奥へと進み、よくやく「暁の断片」を発見する。

煌びやかな宝石や宝はなかったにせよ、目的は果たされるのだ。

ヴァンほど大喜びしなくとも、いつも落ち着いているフランも不思議と微笑んだ。

「よかった。見つかった。」誰もが安堵の笑みを浮べているのに対し、ウォースラの顔は曇っていた。

 

「どうした。」

 

気になったバッシュが声をかけるが、

何も無かったかのように ウォースラはアーシェを促した。

 

「殿下、急ぎましょう。」

「ええ、そうね。」

 

「暁の断片」に触れようとするアーシェの手が止まる。

アーシェは…驚愕した。

幻というにはあまりにもリアルな 死んだはずの夫ラスラが、何か語りかけるように立っていたのだから。

 

「ラスラ――――。」

 

アーシェにとってその姿は、帝国を滅ぼしてくれと言っているように見えていた。

 

「仇はかならず――――。」

 

そっと、指のリングに触れて 出口へと消えて行くラスラの幻を目で追いかけた。

その時たった一人、同じように幻を追いかけていたヴァンに いつしか視線は向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

まさか、誰がこんな展開を予想しただろう。

 

「再びお目通りがかなって光栄ですな、殿下。」

 

あの後、王墓を出た私達を待っていたのは 帝国の飛空艇だった。

「ここはヤクトだったんじゃ…」そんな疑問をぶつける前に、気付いた時には囲まれ

再び戦艦リヴァイアサンへと連行されていた。

 

「先日はあわただしく、ご退艦なさったので―――

 我々に無礼があったのではないかと心を痛めておりました。」

「痛む心があるというの。――――本題に入りなさい。」

 

嫌味を放つギースを、アーシェは鋭く睨みつけた。

 

「破魔石を引き渡していただきたい。―――覇王レイスウォールの遺産である「神授の破魔石」を。

 …まだ話していなかったのかね

 

 ―――――――アズラス将軍。」

 

 

 

この時のアーシェの切ない顔を、私は忘れることはないだろう。

 

 

 

「殿下、「暁の断片」を。あれが破魔石です。」

「なぜだウォースラ!」

「帝国は戦って勝てる相手ではないっ!ダルマスカを救いたければ現実を見ろ!」

 

声を荒げるバッシュの声も、…ウォースラさんの声も きっとアーシェには届いていない。

 

「アズラス将軍は、賢明な取り引きを選んだのですよ。わが国は「暁の断片」と引き換えに―――

 アーシェ殿下の即位とダルマスカ王国の復活を認めます。

 いかかです?たかが石ころひとつで、滅びた国がよみがえるのです。」

「で、あんたの飼い主が面倒を見てくださるわけだ。」

 

バルフレアが言ったことが図星だったようで、ギースはバルフレアを睨んだ。

 

「彼をダルマスカの民と考えなさい。殿下が迷えば迷うほど、民が犠牲になる。

 …彼は最初のひとりだ。」

 

バルフレアの首に、剣が当てられる。

 

「まわりくどい野郎だな、ええ?」

 

ここまで食い付くバルフレアはとても珍しいけれど、今はそんな場合じゃない。

図星を指されたギースは相当頭に血が上っているし、このまま怒りに任せて 本当に首を刎ねてしまうだろう。

ヴァンもそれに気付いてか、アーシェを促し 暁の断片はギースの手の中に納まった。

 

「王家の証が、神授の破魔石であったとは―――。ドクター・シドが血眼になるわけですな。」

「…今なんつった!」

 

顔色を変えたバルフレアを気に止めることもなく、ギースは続ける。

 

「アズラス将軍、ご一行をジヴァへ。数日でラバナスタへの帰還許可が下りる。

 ――――――…すぐに魔力を測定しろ。」

「本国に持ち帰るまで、手をつけるなとのご命令では?」

「あらかじめ真贋を確かめておかんとどうする?」

 

研究員に暁の断片を渡し、ギースはその場を去った。

上手くいけば「ヴェインの上に立てるかもしれない」という野心から、とんでもないことが起きるとも知らずに。

 

 

***

 

 

「ラバナスタに戻ったら、市民に殿下の健在を公表しましょう。あとは自分が帝国との交渉を進めます。

 ラーサーの線を利用できると思います。彼は話が分かるようです、信じてみましょう。」

「…いまさら誰を信じろというの。」

 

アーシェの言葉に、ウォースラは目を背けてただ一言

「ダルマスカのため」と呟いた。

 

 

まさにその時、リヴァイアサンでは 暁の断片の測定が行われ始めていた。

 

「…ミスト…?」

 

の足がピタリと止まり、フランが苦しそうにうめき声を上げた。

 

「…!フラン!!」

「あ、熱い――――。ミストが―――熱い―――――!」

 

突然フランは雄叫びを上げて暴れだした。

 

「なっ―――取り押さえろ!」

 

ウォースラの命令で兵士達がフランに飛び掛るが 尚も暴れるフランは兵士を襲う。

まるで別人、というより自我が効かなくなったフランに動揺し

一番彼女に詳しいであろうバルフレアにパンネロは答えを求めた。

 

「どうしちゃったの!?」

「束縛されるのが嫌いなタイプでね。――――ここまでとは知らなかったが。

 あんたはどうだい?」

 

冗談めいた説明だが、バルフレアですら フランのこんな姿を見るのは初めてなのかもしれない。

とはいえ、バルフレアの言葉にアーシェは大きく頷いた。

 

「彼女と同じ。脱出しましょう!」

 

しかし、そんな一行を止めようとしたのは 剣を構えたウォースラだった。

 

「やらせるかっ!空賊ごときに、ダルマスカの未来を盗まれてたまるか!」

 

そんなウォースラの前に立ちはだかったのは…

戦友であるバッシュだった。

 

「なぜだ、バッシュ!お前なら現実が見えるだろうが。」

 

 

「だからこそ―――あがくのだ!」

 

 

 

 

こんなにも戦いが辛いのは初めてだった。

戦いを見るのが辛いのも、これが初めてだった。

 

でも分かってる。

 

一番辛いのは、剣を向け合う本人達だってこと。

 

 

 

 

 

ウォースラの身体がガクンと下がって、勝負の終わりを告げる。

 

「(半端じゃない…このミストの量…。このままじゃこの艦は…)」

 

の予想通り、リヴァイアサンの動力を吸い尽くした暁の断片は、

大量のミストを一気に放出し 大爆発を起こそうとしていた。

 

「俺は、俺は祖国のためを―――。」

「わかっている、お前は国を思っただけだ。」

 

「アーシェ、行くぞ!」

 

ウォースラとバッシュが気になるのだろう、立ち止まるアーシェにバルフレアは声をかけた。

名残惜しそうに去ろうとするアーシェの横を すれ違う白い小さな影。

 

「だめです、ウォースラさんも一緒でなければ。」

 

だった。

 

「ふざけるな。俺は…騎士の誓いを忘れ、殿下を裏切った。ここで殿下を見送ることが、騎士としてなすべきこと。」

「…分かっていますよ。それが、あなたが行ったことに対する“覚悟”だってことも。」

 

 

でも、今までずっと支えてきた時間も事実も、絶対に消えない。

それで一瞬にして「はい、さよなら」なんて無理な話。

裏切ったことの責任を果たすため身を引くのが誇りというのなら、そんなの全然格好よくない。

 

 

 

 

 

「…失敗は、終わりですか?過ちを犯ぜば、全て終わってしまうのですか?」

 

 

「騎士であるあなたが、主であるアーシェを裏切ったのは大罪かもしれない。もう二度と、アーシェにお仕えできないかもしれない。

 でも…生きてる限り、何度でもやり直せる。過ちは、償えます…。」

 

甘い、といえば甘いだろう。

世の中はそんな簡単なものでなければ、それこそ これは主従関係。剣を向けるなど、最大のタブー。

それなのに。

「私の言うことが間違ってますか?」と言いたげに 何の迷いもなく、彼女の瞳は自分を見つめる。

 

「まったく…。君には敵わんな…。」

 

ウォースラは目を閉じ、静かに微笑む。

 

「ウォースラさん!お願いです、早くここから出ないとばく――――…」

 

ウォースラの拳がの鳩尾に入り、痛みが広がって行くのと同時にの意識は薄くなっていく。

自分の腕にぐったりともたれかかった身体を、バッシュへと預けた。

 

「ウォースラ…。」

「…殿下を頼む。それから………。」

 

もう一度、ウォースラは気を失ってまだ目を開かないに視線を送る。

バッシュが大きく頷き、かつての戦友を残しその場を去った。

 

 

 

 

 

「おい、冗談じゃねえぞ!」

「ミストよ…ミストが実体化してる!」

「ありかよ、そんなの!」

 

爆風に煽られ、艦の中がぐらぐらと揺れる。

ともあれ、脱出には成功した。

 

「見て!」

「暁の断片!?」

「拾ってくだろ!」

 

 

目を覚ましたの耳には、誰の声も 何の音も入らなかった。

覚えているのは

ぼやけた目に映る、燃えたように真っ赤な空だけだった。

 

 

 

 

***

ウォースラ好きですよ。

この先ずっと またゲストメンバーとして時たま出てきてくれると思っていただけに

このシーンはショックでした。