15
暁の断片の暴走で、リヴァイアサン艦隊は全滅。
上手く脱出したアーシェたち以外に、生存者はいるはずもなかった。
一方アルケイディア帝国では、ヴェインの帝都召還が決定していた。
あれから4日後。
一行はラバナスタに身を潜めていた。
帝国の艦隊を消滅させた原因は間違いなく暁の断片、もとい“破魔石”であり
かつて、旧ナブラディア王国の都・ナブディスにも、レイスウォール王の遺産「夜光の砕片」が伝わっていた。
先の戦争中、帝国軍が突入した直後 原因不明の大爆発で敵味方もろとも消滅してしまったのだという。
「破魔石―――か。奴らが夢中になるわけだ。」
「あの戦争も、調印式の罠も、ヴェインはこの力を狙って―――!
レイスウォール王の遺産―――破魔石は帝国には渡せません。」
だがしかし、「黄昏の破片」はついこの間帝国に奪われ おそらく「夜光の砕片」も帝国の手の中にあるだろう。
そうでなければ、人工的に破魔石を作ることなど出来る筈もない。
「「暁の断片」で帝国に対抗するだけです。ダルマスカは恩義を忘れず、屈辱も忘れず、
刃を以って友を助け、刃を以って敵を葬る。私の刃は破魔石です。
死んでいった者達のため―――――帝国に復讐を。」
帝国への復讐を決意したアーシェだが、ヴァンが尤もな事を発した。
「使い方、わかるのかよ。」
当然、暁の断片が破魔石だとも知らなかった一同が 使い方など分かるはずもなく
しばしの沈黙が流れた。
それを破ったのは、フランのある一言だった。
「ガリフなら、あるいは。古い暮らしを守るガリフの里には、魔石の伝承が語り継がれているわ。
彼らなら、破魔石の声が聞こえるかもしれない。―――危険な力のささやきが。」
フランの言葉には、破魔石の危険性を示唆しているようにも思えるのだが
そんなことはおかまいなしに アーシェは決意を固める。
「危険だろうと、今必要なのは力です。ガリフの里までお願いします。」
「オズモーネの平原を越えた先よ。」
と、口では簡単に言えてしまえるのだが オズモーネ平原に向かうだけでも結構な距離なのだ。
「遠くないか?」
バルフレアの言葉に、アーシェははぁと溜息を吐く。
「また報酬―――ですか。」
またとは言っても、アーシェを誘拐する時に約束した報酬…王墓に眠る財宝は
バルフレア的には空振りだったのだから まぁ当然の行為とも思えるのだが。
「話が早くて助かるね。そうだな、そいつが報酬だ。」
バルフレアが指したものは…アーシェの指にはまるラスラの指輪だった。
「これは――――何か他の―――。」
「嫌なら断る。」
間髪入れずそういわれ、ためらいながらもアーシェは指輪を手渡す。
「そのうち返すさ。もっといいお宝をみつけたらな。」
「なんだよ、もっといいお宝ってさ?」
食いついてきたのは 目を輝かせたヴァンだった。
「さあな。見つけたときに分かるのかもな。
ヴァン、お前なら何が欲しい?何を探してる?」
「俺?そりゃあさ、その―――――。」
逆にそう聞き返されたものの、答えられないヴァンをよそに全員部屋を出て行く。
でもこのことは、ヴァンが「考える」きっかけに繋がるのかもしれない。
***
「ちょっと…!」
「…?何でしょう?」
部屋から出た矢先、アーシェがを呼び止めた。
アーシェの険しい表情が気になったのか、皆も足を止める。
「ウォースラのこと。あなたどういうつもりだったの?」
「どういうつもりって…。」
助けようとしただけだ。
すごい剣幕のアーシェをヴァンは何とか落ち着かせようとする。
「おい…アーシェ!ちょっと落ち着けって。」
「あなたは黙ってて!どうして…どうしてなの…裏切った者とは一緒にいれないのよ…。
なのにあなたはどうして…!」
ぎゅっと握ったアーシェの拳が震える。
いままで沈黙を守っていたが口を開いた。
「仮にあのとき爆発しなかったとしても…
私達を逃したウォースラさんは結局帝国によって殺されていたわ。」
「でも…剣を向けることは……!!」
「しちゃいけないことだって分かってるわ。でも、その先が死なんて 私は正しいと思わない!」
二人の意見は一直線で、決して交わろうとしない。
「その答えは…あなたが聖職者だから出てきた答えなの?」
「違う…!私は誰も失いたくなくて…!」
息をつまらせ、は途端に顔を俯かせた。
「違わないわ!私だって誰も失いたくない!でもいつだってそう!どうしてなの…!
私とあなたは全然違う!いい子でしょって言いたいの!?すごいって言ってもらいたいの!?
それとも私達を安心させておいて裏切るつもりなの!?」
「殿下!」
「おい!いい加減に…」
さすがに言いすぎだと バッシュとバルフレアが止めようとするが
アーシェの声は止まらない。
「あなたが裏切り者じゃないというなら答えてよ!あなたが何者なのか!」
「私は……。」
「それにあなた、あの時ミストが暴走していることも気付いてた!
ヒュムであるあなたがどうして!?秘密にしないで、本当のことを言ってみせ…て…よ。」
アーシェの声は次第に小さくなり、消えていった。
の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれていたから。
「そうね…。私は疑われてもしょうがないと思う…。でもね!
いい子のふりしようとか、そんなこと思ってないよ…!
私は…私は…っなんにも…偉くない。私…わたしはぁ…っ」
「死神同然だから―――――――。」
バタンと扉の音だけが響き
ごめんね、と呟いては外へと消えていった。
「ぁ……。」
なんて事を言ってしまったんだろう。
あの涙が。
あの表情が。
どれほどが苦しかったのか分かる。
ただ呆然と、が出て行った扉をアーシェは見つめることしかできなかった。
***
出発は2日後。
ガリフの里へと向かう準備を今日と明日で整えるつもりだ。
日が暮れて、そこそこに準備を済ませ再び宿へと戻ってきた。
は、その小さな一室にいた。
パンネロが様子を見に、ドアをノックしたが「大丈夫」といつもの声では返す。
その言葉が当てにならないことなど、全員が気付いている。
部屋で休むこともせず、眠ることもせず、
昼間7人でこれからのことを話し合っていた部屋で 時を過ごしていた。
長い沈黙を破ったのはバルフレアだった。
そこでアーシェは知る。
のこと、の村のこと。祈る理由に、誓いのことも。
とはいえ俺だってそこまで知らないんだ、と続けたバルフレアだが
皆アーシェと似たような反応だった気がする。
思えば確かに、が自分のことを話すことは少なかったかもしれない。
酷いことをしてしまった、とアーシェは言った。
王女である彼女が、頭を下げるかどうかは個人の問題だが
「悪いことをした」という意識があるのなら きっと大丈夫だろう。
俯いたアーシェの肩をバッシュがそっと支え、パンネロが暖かいお茶を入れる。
バルフレアはそっと、階段を上り部屋へ向かう。
嘘を吐いた、未だ大丈夫じゃない方へ。
***
アーシェが嫌いなの!?と言われてしまいそうですが
そんなことは全然ない!!むしろ好きだ!(ぇ
ただうちのサイトでは時たまキャラの存在が消えます。