You don't have to worry. worry.
守ってあげたい
あなたを苦しめる全てのことから
Cause I love you.
16 ― 守ってあげたい。―
は冷たい床に座り込み、じっと月を見上げていた。
こちらを見なくても分かっているのだろうか、ぽつぽつと話し出す。
「分かってるんだよ…。アーシェが一番辛いってこと。」
信頼していたウォースラの裏切りが、一瞬にして死んでしまったことが
アーシェの心をどれだけ傷つけたのか。
「けど…!けど耐えられないの!目の前で誰かが死ぬのは!
もう…もう大切なものを失いたくない…!!」
突然、は怯えるように身体を震わせ、涙を流し始めた。
「あの時も…あのときもそうだった…!」
「あの時…?」
帝国に父や、男達を連れていかれても
一生懸命作物を育てたりして 村は活気に満ちていた。
という存在で――――。
人々はを希望といった。
聞こえはいいだろう。
でもそれは、の並外れた魔力が いざとなったとき村の“武器”となることを
賞しただけのこと。
はこのことをとっくの昔に気付いていた。
それでも今尚、そんな村人たちを無視することもせず 想っているのには訳があった。
一人のジャッジが、を欲した。嫁になんて訳ではなく、ただ弄ぶために。
桁外れの力欲しさか、美しいその身欲しさかは知らないが。
だが村の希望であるを、帝国に渡せる訳もなく
「友達が私の身代わりになったの…。帰ってきた彼女はぼろぼろだったわ…。
あの男のいいように遊ばれて…傷つけられて…彼女は死んだ…。」
親愛なる友 レイを死に追いやったジャッジを許すことが出来なかった。
「こうなったらたった一人でもあいつを殺してやる」そう決めたを止めたのは
弟であるイブだった。
『俺が帝国側と話し合って、もう二度とこの村に来ないようにしてもらうから。』
ニカッと笑った顔が忘れられない。だってそれが最後に見た笑顔だったから。
「弟は、ある朝村の真ん中で倒れてたわ…。深い眠りについたように、ずっと目を覚まさないの。
生きているのによ!何年も…何年もあの子の時間を奪って……!!」
村を出るときには付けていなかったはずなのに、
イブの腕には、青い石のブレスレットがはまっていた。
このブレスレットが、きっと体力を奪っているんだとそう思いはずそうとしても離れない。
どれだけ傷つけても、壊そうとしても。
「助けようとしても八方塞がりだった…そんな時。神のお声を聞いたの…。
祈って、誓いを守れば、イブと村は助かるって。」
「だからって…何であんたが全部背負わなきゃいけないんだよ。」
今にも死にそうな顔して。
村のことを聞かれりゃ 苦しそうに顔を背けるっていうのに。
「わすれられない…!二人が言った言葉が…わすれられない!!!」
『は村の希望だから、村を守って?』
「おい、!」
は今にも発狂しそうな勢いで泣きだした。
呼吸もうまくできないのか、とても苦しそうに声を上げる。
バルフレアはがくがくと震えるその背をそっと撫でた。
「私は!二人を失うために希望になったんじゃない…!
私が守りたいのは…本当に失いたくなかったのは…!!
でも…私の変わりに二人が命をかけた村を…無くしたくない…!!」
「私の所為で…わたしのせいで二人は死ん「!!」
言葉を遮って、名前を呼んで。
ふわりと、優しい香水の香りが揺れる。
細くて、小さくて、切なげに震えるの身体をぎゅっと抱きしめた。
「。あんた、自由が欲しくないか。」
「…自由……。」
「自由ってのは、与えられるもんじゃない。自分で手に入れるもんだ。」
「自分で手に入れるもの……。」
まだ頬を伝う涙を手で拭う。
「だがな。あんたが手に入れられないっていうなら…俺がくれてやる。
その唇に触れて、誓いとやらをぶち壊してやる。」
「そんな辛そうな顔をするなら、やめちまえ。
俺の所為にして、自由になればいい。誰もを責めたりしないさ。」
この感情に名前をつけるとしたらそれは。
ほら、確か歌であるじゃないか。
『あなたは何も心配しなくていい』そんな歌詞から始まる
“守ってあげたい”
きっとそんな言葉が一番合ってる。
「―――――――…っ」
は泣いた。隠そうともせず、声を上げて。
すがるように、バルフレアにしっかりとしがみついて。
***
「落ち着いたか?」
「うん……ありがとう。」
トクン――トクン――
と一定のリズムで流れる鼓動の音は
を落ち着かせるには充分だった。
「私、明日アーシェに謝るよ。
“よく平気な顔できるね”って…そんな事思ってたから。」
「そうか…。」
「うん…。」
もう何分、バルフレアの腕に包まれているのだろうか。
大きくて、優しいその腕は、ずっと抱きしめてくれている。
「あの…ごめんなさい。ずっと…疲れたでしょ…?」
「いや…いい。」
「?」
「前に、あんた“魔女の騎士”の話をしたな。」
それがどうしたの?
そう尋ねようとして顔だけを振り返らせると、真剣な眼差しと出会う。
「…わたくしのこの右手は、貴女の不安を消すために。
わたくしのこの左手は、貴女を全てのことから護るためにあります。
貴女を助けるためなら、わたくしは騎士にでも何にでもなりましょう。」
顔の熱が一気に上がるのがわかる。
「あ…っあり、ありがとう…です…。あの…よかったら…」
「なんだ?」
「それ…私以外に言わないで…。」
つまりそれは、簡単に女が口説き落とせるくらい良かったってことか?
何の心配もいらない。
「…当たり前だ。」
あなたのために言った言葉だ。
***
翌朝。
明日の出発に備え、何が必要かチェックしているの姿があった。
当然、その目は真っ赤に腫れていて。
それを見た所為か、アーシェはに話しかけられないでいた。
「(謝らなきゃ…謝らないと…。)」
ぎゅっと一度手を握り締めての元へ向かう。
「あの……!私…その…。」
意を決したというのに、アーシェは声を出せない。
ドキドキして、許してくれなかったらどうしようという不安が、頭の中一杯に広がる。
「あっ、アーシェ!
昨日はごめんね!酷いこと言っちゃって…。」
「………………え?」
は何を言っているんだろう。
どこをどう見ても、酷いことを言ったのは自分だ。
先程の不安を、一気に不思議で染めて行く。
「ってこういう子よ。」
後ろから、フランの声が聞こえ その顔はフッと笑った。
「フラン!それってどういう意味なの…もう!ねぇ、アーシェ。少し散歩しない?」
「えっ…ええ。」
未だ頭の中を整理できないアーシェをよそに、
はそっとアーシェの手を取り外へと出て行った。
「…大丈夫だろうか。」
やはり昨日のことが心配なのだろう、バッシュがバルフレアに声をかける。
「大丈夫だろ。」
アーシェに向けて笑ったの顔は
いつものように 明るい笑顔だったから。
***
朝のラバナスタの町を、二人は歩く。
「あの……。昨日は本当にごめんなさい。」
「ううん、いいの。私も…アーシェが一番、辛いのに…酷いこと考えてた。」
「でも泣いてたわ…。」
「あぁ、あれは違うの。アーシェに言われたことに泣いたんじゃなくて
自分で自分を追い詰めて、泣いちゃっただけだから。」
だから気にしないで、ね?と
にこにこしながら話すにつられてアーシェも笑顔になる。
そしてそっと、仲直りの握手をした。
「ねぇ、。あなた、どうしておじさまの前で、庇ってくれたの?」
一行がアーシェ救出後、ビュエルバでのあの会話が アーシェはずっと気になっていた。
「あぁ…あれはね。王女様と一緒にしちゃ失礼なんだけど…
アーシェの中に、自分を見たの。」
このダルマスカという国を、たった一人支えようとするアーシェに
少なからずは似たようなものを感じた。
国と村。大きさは違えど、二人は限りなく近い場所にいるのかもしれない。
「それって…の心はとても傷ついているってことでしょう?」
アーシェの言葉には目を見開いた。
オンドール侯爵の前で、は確かにこう言った。
『このままじゃアーシェは傷ついていくだけだ』と。
アーシェの心は潰れてしまう、その根拠はきっと自分の心が潰れかけていたからだ。
「そう…なのかもしれないね。」
「もう…は少し自分を優先した方がいいわ。」
そう言うと、今度はアーシェが優しく微笑んだ。
「帰りましょうか。」
「うん。そうだね、準備ほったらかしにしたら怒られちゃう。」
とびきりの笑顔をつれて、皆の待つ宿へと駆け出した。
***
文頭、文中にあった“守ってあげたい”ですが
これはユーミンの曲です(馴れ馴れしいなおい)松任谷由美さんの『守ってあげたい』という曲です。
若い人は、あんまり知らないかな…とか言ってる私だって若輩者ですけどね。
詳しい年齢でもないと思うし…。
13話でも出ました「魔女の騎士」ですが、やってる人には分かるFF8ですね、はい。
感情の変化については言いません、あえてね。
でも、ヒロインにはバルフレアが「好き」という感情はまだないと思います。
神様がまだ恋人ですから。