17

 

 

 

 

身体を容赦なく濡らす大量の雨と

鳴り響く雷からやっと開放されて。

 

目の前に広がるのは美しい緑の平原だけ。

 

いくら太陽が照っているとはいえ

 

「……くしゅん!」

 

今まで雨に打たれた体はまだちょっと肌寒い。

かといって、ゆっくりと休憩している暇もない。濡れた服はガリフの里に着く頃には乾いているだろう。

 

「よっしゃ!行くか!!」

 

鼻の下を指でこすって、太陽みたいな笑顔を見せるヴァン。

ヴァンの笑顔は本当に元気がいい。雨でびしょびしょになった嫌な思いも吹き飛んでしまう。

つられて笑顔になって、気合を入れて歩き出そうとしたその時。

 

「!!!ヴァン……」

「あ?なんだよ、。」

「う…うしろ……。」

 

ガァァァァァァッ!

 

呑気に腕組しているヴァンの背後には

バサバサと羽音を響かせた巨鳥、ズーの姿が…。

 

「うわっ!?ににに逃げるぞみんな!」

 

だだっ広い平原をひたすら駆け回る。

足が千切れそうなほど走っているのに、ものすごく疲れているのに。

 

 

私はものずごく楽しい。

みんなと、こうして一緒に過ごしているこの瞬間が。

たまらなく、楽しいんだ。

 

こんな風に、思えるようになったのは きっと――――――

 

 

 

「…ったくヴァンの奴…飛行タイプの敵と出くわす度に逃げやがって…。

 敵に背をむけるなんざ、主人公のすることじゃねぇぜ。」

 

そう文句を言いながらも、前方を走るバルフレアを見た。

 

 

『…わたくしのこの右手は、貴女の不安を消すために。

 わたくしのこの左手は、貴女を全てのことから護るためにあります。

 

 貴女を助けるためなら、わたくしは騎士にでも何にでもなりましょう。』

 

 

あの時の台詞が蘇ってくる。

ただ自分の過去を話しただけなのに、不安を打ち明けただけなのに。

そう、ただ話して、聞いてもらった。それだけのことなのに。

まるで重い荷物を一緒に持ってくれたように 心が軽くなった。

 

「何か」をすることだけが、人を助けるわけじゃないんだね。

 

私の視線に気が付いたのか、バルフレアは振り返って「何だ?」というような顔をした。

 

 

「ありがとう。」

 

 

本当に 本当に 嬉しかったんだよ。

 

 

「…………おう。」

 

 

 

 

 

 

***

 

飛行タイプの敵に武器で攻撃できるのはバルフレアとフランだけ。

ヴァンはしばしば、逃げることが多かった。

ヴァンだって魔法はつかえるし、魔力だって強い。

それでもそんな行動をとるのは、武器で戦うことが好きだから。(らしい)

 

とはいえ最初は出鼻をくじかれたものの、それからは順調よく敵を倒し

着々と平原を進んでいった。

 

「よっしゃ、これで終了!」

 

今もちょうど、ヴァンが止めを刺したところだ。

もう随分長く、これを繰り返している気がする。

ガリフの里はまだだろうか、そう考えていた時だ。

 

「…この先に村が見えるわ。」

 

フランがスッと指差した奥には、確かに人口的な建物が見える。

 

「俺が一番だぜっ!」

「あっ!待ってよヴァンー!」

 

勢いよく走り出したヴァンを追いかけるパンネロ。二人に続いて、みんなもガリフの里へと歩き出した。

 

「………あれ?」

 

何気なく振り返ると、緑の平原に浮かぶ大きめの影。

あまりに遠くて、ぼやけているからそれが何なのかは分からない。

 

「ガリフ族…なのかな…。」

 

今まで見たこともない為に、判断の仕様がないけれど。

とにかくこの先に行けば、答えが見つかるだろう。

すっかり見えなくなったヴァンを追って、ガリフの里へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら…どうしたの?」

「あぁ…。それがさ…。」

 

二人のガリフ族に挟まれ、立ち往生しているヴァンに話しかけてみると

どうやらなかなか中に入れてもらえないらしい。

戦争だの何だの起こっている時代だ。警戒されたっておかしくない。

 

「彼らはただの旅人だ。」

 

ざくっと地面を踏む足音がしたかと思うと、その声の主は私達の横を通り過ぎて行った。

…ガリフ族だ。門番の二人のガリフ族に比べ、少しばかりがっちりしているように見える。

 

大きくてたくましい姿。もしかして……

 

(ここへ訪れる前に見えた、あの影……?)

 

「彼らがオズモーネを越えてきたのを見た。かなり腕の立つ戦士なのだろう。

 平原の魔物にも、まったく動じていなかった。」

「……戦士長、またひとりで平原へ?」

「………………。」

 

戦士長と呼ばれたそのガリフは、ぐっと押し黙った。

仮面に隠されたその顔は、どんな表情をしているのか分からないが

何だか答えにくそうで、辛そうだった。

 

「……ガリフの地に何か用があるのか?通してやってくれ。

 責任はすべて、私が持とう。」

「戦士長がそう言うなら……。

 ……というわけでお前、入っていいぞ。このところ…なんだかヒュムがよく来るな。」

 

そう言うと、今まで塞いでいた道を開けてくれ

「戦士長」のあとに続いて 私達もそそくさと中へと入っていった。

 

「……まだ名乗っていなかったな。私はスピネル。この里の戦士長を務めている。

 本来、ガリフは外の者に対して寛容だ。しかし近頃はヒュムの世界が何かと騒がしい。

 ゆえに、この里も警戒を強めているのだ。

 里を守る戦士の長として、今一度お前たちに問う。何の用があって、この地を訪れたのだ?

 

 

戦士長のスピネルさんに訳を話した。

破魔石のこと。その使い方のこと。ガリフ族のみなさんなら知っているかもしれないと思いここへ来たことを。

 

ならば長老方に尋ねてみるといい、との言葉通り 里の中を回って話を伺ってみたものの

誰一人として、破魔石について知っている者はいなかった。

たった一つ、多く公伝を覚えているという 最長老に望みを託して。

 

つり橋を渡った場所にいるという最長老のもとへと向かう。

すっかり顔を俯かせた私達に、スピネルさんが声をかけた。

 

「その顔を見ればわかる。求める情報は手に入らなかったのだな。

 大長老でも破魔石のことをご存知ないか……。

 たしかに最長老なら知っておられるかもしれない。しかし、安易に面会を許すわけには……。

「お願いします!」

 

ここまで来て引き下がるなんて出来ない。

やっと、謎の大きい破魔石について何か分かるかもしれないのだから。

 

「私は破魔石について知らなければならないのです。どうか最長老にお伝えください。

 私は覇王レイスウォールの血を引く、ダルマスカ王家の人間です。

 あなたたちがリフが古の記憶を今に伝えているなら、覇王が手にした破魔石のことも、ご存知のはずです。

 

アーシェも必死に、説得に試みた。

しかし、う〜んと考えているスピネルさんに変わりはない。

 

「お前が、覇王の末裔だという証拠があるのか?」

「それは……。」

 

王族の身分を証明できないことはアーシェにとって、相当な痛手であった。

手の中に存在を表す「暁の断片」も、れっきとした覇王の遺産であるのに

力を使った今ではただの石にしか見えなかった。

 

正統な血筋であるというのに、それすら自らに証明することも出来ない。

もし、私に自分の身分を証明できる力があったなら、どれだけのことが上手く進めただろう。と

アーシェの中に潜む無力感を更に膨らませていった。

 

「…………。お前たちを信じよう。

 最長老はこのつり橋を渡った先におられる。

「ありがとうございます。」

 

ぺこり、と一度大きくスピネルさんに会釈して

私たちはつり橋を渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「そなた この破魔石を使ったのだな。」

 

アーシェから暁の断片を受け取り、眺めるやいなや 最長老はそう言った。

 

「私ではないのです。私には扱い方がわからず それで――

「ほう どう使うか知らんのか。ならばガリフと同じよの 。」

「――――えっ」

 

ゆらゆらと燃える炎をみつめ、最長老は語りだした。

 

「往古 ガリフは神々より破魔石をたまわった。

 しかしガリフには破魔石を扱えんでのう。神々はガリフに失望して石を取り上げ――

 今度は人間(ヒュム)の王に授けた。王は破魔石の力で乱世を平らげ覇王と呼ばれた。

 奇態なことよ。覇王レイスウォールの血を引くそなたが破魔石を扱えぬとは。

 

「待ってください!では あなた方は破魔石の使い方を―――

 

「まことにお恥ずかしい。せっかく覇王の末裔とお会いできたというに――

 何ひとつ教えられん。もっとも使い方がわかったとてどうにもならぬよ。

 その石は長年たくわえたミストを放ち力を失っておる。

 再び使えるようになるのはそなたの孫子の代かのう。」

 

悲しそうに顔を曇らせたアーシェを

心配そうにヴァンは眺めていた。

 

「力の失せた うつろなる石――飢えておるな。

 空しさを満たそうと あらゆる力を求めておる。

 人の力 魔の力――良き力 悪しき力。

 破魔石を求める者は破魔石に求められる者でもある 。」

 

最長老のその言葉を聞いて、恐ろしいかった。――破魔石というものが。

使う者の使い方一つで、善にも悪にもなる力。

そんなものを、帝国は持つどころか、人工的に作成しているのだ。

自分達に置かれた状況を、改めて実感した瞬間だった。

 

突然、後ろから足音が聞こえ

振り返った先に――――――

 

「ラーサー様!?」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

ぼんやりした瞳で焚き火を見つめていたアーシェは、

昼間のラーサーとの会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「―――ブルオミシェイスへ?」

「明日にでも発ちましょう。

 護衛が戻るのを待つ予定でしたが ここでお会いできた幸運を生かしたいんです。

 大戦を防ぐためにあなたの力を貸してください。

「対戦――――?」

 

アーシェ、そしてバッシュの生存・帝国のもくろみが明らかになった今、

これ以上帝国に飼われる必要はないと、オンドール侯率いる解放軍は一気に事を進めていた。

 

「オンドール侯爵がわが国に対抗する反乱軍――

 失礼 解放軍を組織しているのはご存知ですよね。でも 今あの人が行動を起こすとまずいんです。

 ――ロザリア帝国が動きます。ロザリアは解放軍への協力を大義名分にわが国へ宣戦をし――

 ふたつの帝国が激突する大戦になります。

 ですからブルオミシェイスに行きましょう。大僧正アナスタシス猊下が承認して下されば――

 あなたは正式に王位を継ぎダルマスカ王国の復活を宣言できます。

 女王として 帝国とダルマスカの友好を訴え――オンドール侯爵を止めてください。」

 

ラーサーの申し出に、アーシェはすぐさま意見した。

自分の国を滅ぼした敵国との友好を自らが訴えるなど―――屈辱でしかなかったからだ。

 

「――友好っ!?勝手なことを!

 そちらから攻めてきて 何もかも奪ってそれを水に流せとでも!?

「戦場になるのはダルマスカなんです!

 ラバナスタを第2のナブディスにしたいんですか!兄は破魔石を持っているんです!

 

戦場はダルマスカ。

その事実に驚き、アーシェは口ごもった。

 

「すみません。図々しい話です。血が流れない方法を 他に思いつけなくて――

 信用できないのであれば僕を人質にしてください。

 

 

 

 

 

 

力を無くした破魔石を眺め、何度も何度も 頭の中で同じ質問を繰り返した。

私はどうすればいいのか と。

ふと橋に視線を向けると

 

「ラスラ―――。」

 

思わず駆け寄ったが、アーシェが近づいた瞬間

ラスラの幻は姿を消し

 

「またあの人が見えたのか?王墓の時みたいに。」

 

ヴァンの姿へと変わっていた。

まるで吸い込まれていくように、溶けていくように。

 

「やはり あなたにも―――――。でもどうして。」

「変だよな。オレ アーシェの顔だって知らなかったぐらいで――

 王子のことなんて、なんにもわからないのにさ。」

 

もしかしたら―――自分が見たのは兄さんだったのかもと

ヴァンは切なげに呟いた。

 

「バッシュから聞いたわ。」

 

 

 

 

は、そんな二人を物陰からこっそり眺めていた。

盗み見するつもりも盗み聞きするつもりもない。

ただ、そう。最長老の話を聞いたあとの がっかりしたアーシェの表情。

そしてラーサーと会話したあとの、困惑した表情。

それはどこからどう見ても張り詰めていて、思いつめていて。

心配だった。人様の心配なんて、十年早いかもしれないけれど。

 

 

 

「降伏間際に志願したんだ。馬鹿だよ、負けるって 分かってたのに。」

「守ろうとしたのよ。」

「死んでなにが守られたっていうんだ。

 お前は納得できたのかよ。王子が死んだ時。」

 

納得なんてしていないと、アーシェの表情が物語っていた。

納得していれば、今こんなにも復讐の二文字なの浮かびっこないと。

 

「帝国が憎いとか 仕返ししてやるとか――怨みばっかふくらんで

 ――けど その先は全然。

 どうせなにもできやしないって気がついて 空しくなって そのたびに兄さんを思い出して――

 俺 そういうの忘れたくて、とりあえず『空賊になりたい』とか――景気いいこと言ってたんだろうな。

 兄さんの死から――逃げたかったんだ。

 アーシェについてここまで来たのも きっと逃げたいからなんだ。」

 

ここへ向かう前のラバナスタで。

バルフレアは言った。「お前ならどんな宝が欲しい」かと。

その時、答えられなかったのは…そこに、心はなかったからだ。

空賊に憧れる気持ちは、決して嘘ではない。

それでも―――心のどこかで、なれる訳ないと思っていた。本気でなってやろうとも、思っていなかった。

 

「でも もうやめる。逃げるのはやめる。

 ちゃんと目標みつけたいんだ。

 俺の未来をどうするか その答え。アーシェと行けば みつかると思う。

「みつかるかな―――」

 

はにかんだような、笑顔をみせて。

 

 

 

「みつけるよ。」

 

 

 

 

夜空にぽっかりと浮かぶ月を

二人はそっと見上げた――――。

 

 

 

 

 

 

「よかった。二人とも…私が心配する必要ないみたい。」

 

テントに戻ろうかな、とそう呟いたの背後に忍び寄る大きな影。

 

「暗いから…ちょっと怖いなぁ…。」

 

――――ポン

 

 

「きゃあああぁぁ…んんんん…。」

 

肩を叩かれ、思わず叫び声を上げると今度はその口をふさがれた。

大きくてごつごつした手の感触は、覚えがあった。

 

「………バッシュさん!」

「すまない、驚かすつもりはなかったんだ。」

 

苦笑しながら頭を下げるバッシュ。

謝らなくてはいけないのは自分の方かもしれないと思う。

勝手に勘違いして、怖がったのだから。

 

「いえ…私の方こそ…。バッシュさんも、アーシェが気になって?」

「ああ、だがその必要はなかったようだ。」

 

まだ月を眺めるアーシェとヴァンに視線を向けた。

その雰囲気は穏やかで、とても柔らかいものだったが。

 

「同じ月を見ているのに…二人が見ているのは違うような気がします…。」

 

が何気なく言った言葉。それはバッシュも感じていたことだった。

『アーシェは、大丈夫なのだろうか』

漠然とした表現だが、一番ふさわしいだろう。

一人で抱え込んだ荷物には、どれだけの不安と 葛藤があるのだろう。

表には出さない分、余計に気がかりだった。

 

「君は優しいな。」

「いいえ…。仲間ですから…当然です。」

 

にっこりと笑ったその姿はまるで天使のようで。

 

「恨んでいるか、ウォースラのこと。」

 

最終的に彼の生死を決めるのは 自分の判断一つだった。

気を失っていたの変わりに ウォースラを助けられたのはバッシュただ一人。

 

「いいえ、とんでもない。

 騎士として…いえ、責任の取り方として…間違ってないと思います。

 でも私がしようとしたことも、間違いではないと思っています…。

 きっと両方とも間違いじゃないから…ぶつかったんです。」

 

そこには、アーシェとの口論のことも含まれているのだろう。

 

「やはり…君は優しいな。」

「そんな…そういうことじゃないんです、本当に。

 ただ…何だか…似てるんです。アーシェ。ふふっ、おおきなお世話かもしれませんが。」

「それはつまり…君も辛いということではないのか?」

「その言葉…この前アーシェにも言われました。」

 

ふふふ、と冗談めかして笑ってはいるが…

 

この間のあの涙は、蓄積された辛さが一気に爆発してしまったようにも見える。

大丈夫と繰り返しているものの

という人は、自分の事そっちのけで 困っている人を助けてしまう人だ。

今までの付き合いで、それはもう充分分かっている。

 

 

 

 

いや――――そうだ。

こう言ってしまえば御幣があるが。

 

 

 

 

「心配する必要はなかったな。」

「……え?」

 

 

 

 

自分よりもずっとずっと。

 

 

 

 

 

「君には頼りになる“ナイト”がついているからな。」

 

 

 

 

 

 

「明日も早い。そろそろ戻ろう。」

 

 

 

の返答を待たずテントへ向かう。

これでいいんだ。

君が言葉の意味を理解したとき、私がそばにいたら

君はきっと 暗闇でも分かるくらい顔を真っ赤にして大慌てするだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

***

貴女のためなら盾にでも剣にでもなりましょう。

 

長い…;

だらだらだらだらだらと書きなぐってしまったorz

夢というよりは、ただの名前変換?セリフ集?ってな過去最低小説に…。

バルフレアにいたっては たった二文字の登場しかない。

他キャラは存在すら証明されていない。

 

ちなみに。

飛行モンスターと遭遇したらすぐさま逃げるのはわたしです。

遠隔攻撃もってないとめんどくさい…。

攻撃魔法だってもってるけどMPがもったいない。(回復=魔法なので)