「私ひとりが消えて済む問題ではありません。」

 

真っ赤な夕日が差し込む、アルケイディア帝国 グラミス皇帝の一室で

ヴェインは皇帝を目の前にしそう言った。

 

「元老院はソリドール家の存在自体を憎んでいます。

 奴らを抑える口実が必要です

 

かつて元老院たちは、好戦派でなく 且つまだ幼いラーサーを、利用するつもりでいた。

ヴェインを失脚させ、ラーサーを“人形”として皇帝に就かせ 政権をものにするために。

しかしラーサーの有能さに気付き 思い通りにならないと気付いた途端、掌を返しラーサーを潰そうと考えているのだ。

 

ソリドール家の命脈を何としてでも絶とうとする元老院を、抑えるために必要な口実。

それは。

 

「必要だと? そうか 必要か――。そちの決まり文句だな。血を流す決断に毛ほどのためらいもない。」

「ソリドールの剣に迷いは不要。その剣を鍛え上げたのは陛下ご自身です

 

元老院に皇帝暗殺の罪をかぶせること。すなわち、ヴェインは暗に父に死をうながしているのだ。

グラミス皇帝も、そうする他に元老院を抑える方法はないと感じている。

しかし、実の父に向かって何一つ気にとめる様子のない息子 ヴェインの姿に、皇帝はためらった。

 

「復讐のつもりか?」

 

そう思ったのは、皇帝自身 負い目に感じたことがあったからだ。

11年前、自らの命令で二人の兄弟をヴェインに斬らせた事が。

 

「必要だと申し上げました。今やらねば もうひとりの未来も奪われます 。」

 

本当に命脈を保つためなのか、それとも自分に復讐するつもりなのか。

息子の言葉を信用できないグラミスと 父にも己の胸の内を明かさないヴェイン。

二人の関係は、最早埋めようのないほどの溝が深まっていた。

 

「白い手の者に代わり その手を汚すか 。」

「すでに血に染まっております。ならば最後まで私が

 

 

 

「すべてはソリドールのため――に か 。」

 

 

 

 

 

 

21

 

 

 

 

 

「でっけー岩!ここがブルオミシェイスか!」

 

ヴァンは驚きと喜びの声を上げた。

大きな岩肌に真っ白な雪がかかる景色は何とも壮大で 幻想的だった。

 

「本当…。雪景色ってこんなに綺麗だったんだね。」

「だよなぁ…。おっ、向こうで人が集まってる、行こうぜパンネロ!」

 

着くや否やパンネロの意見も聞かずどこかへ行こうとするヴァンに

バルフレアのお怒りの声と、プラスげんこつがとんだ。

 

「まったく。遊びにきたんじゃねぇんだぞ。目的忘れんなよ。」

「だーもう分かってるよ。だったら早く行こうぜ。」

 

俺達先に行ってるぜ、とまたもパンネロの手を引いて走り去ったヴァンに、

やれやれと溜息をついたバルフレアとアーシェ。そんな、あわせて4人の様子を見て微笑んだのはバッシュ。

こうしていても埒があかないので、皆もヴァンたちの後を追いかけた。

 

 

「あら…?どうかしたの?」

「アーシェ、それがさぁ…。」

「最近、帝国の方がこのあたりを見回っていると、皆が不安になっておりまして…。申し訳ないのですが…巡礼はお断りしてるんです…。」

 

ブルオミシェイスへ非難してきた難民にとって、帝国は不安 恐怖の象徴であった。

アナスタシス大僧正へ謁見しに来たと言っても、この場でラーサーの名前を出すことは伏せたい。

そんな時だ。

 

「私はです。この方々は大僧正に会われる為にこちらに参られました。心配には及びません。

 信用できないようなら、わたくしの名前をお出しください。」

様!?大変失礼致しました。どうぞお通りください。…アナスタシス大僧正もさぞお喜びになるでしょう。」

 

いともあっさりと門をくぐらせてもらい、奥へ奥へと進む。

その間にも、の姿を見るなり会釈をしたり、感嘆の声を上げる者がいた。

 

「なんかすっげー。って何者?」

「宗派はちょっと異なるんだけど、ブルオミシェイスにはよく来たからね、ただそれだけよ?」

 

「でも懐かしいわ…。(私の旅はここまでやってきたのね)」

 

 

***

 

 

アーシェの王位継承を認めるよう持ちかけたラーサーであったが、突如待ったがかかった。

ロザリア帝国マルガラス家のひとり、アルシド・マルガラスであった。

アナスタシス大僧正の力でアーシェは王位を継ぎ、帝国との友好を訴える。そうして解放軍を止め

解放軍が動くのを待っているロザリア帝国の宣戦布告を防ぎ、戦争は起こらない。

そうなるはずであったが、アルシドはやめるよう言い出したのだ。

 

「私に力がないからですか。」

「いやいや、あなたのせいじゃあありませんよ。」

「ではなぜ!?アーシェさんから友好のよびかけがあれば、僕が皇帝陛下を説得します。陛下が平和的解決を決断すれば―――」

 

「――グラミス皇帝は亡くなった、暗殺されたんだ。」

 

アルシドの衝撃的な事実に、皆言葉を失った。そしてラーサーの幼い心にはそれはあまりにも重かった。

臨時独裁官として全てをゆだねられたヴェインを相手にアーシェに王位を継がせたとしても

アーシェを偽者と断定し、解放軍を挑発。そうして戦争は起こるとアルシドは考えていた。

現にヴェインは、戦争で全てを終わらせようとしている。

そんな現状を前に、より大きな力をつけると言ったアーシェに大僧正はレイスウォールが残したもうひとつの力を求めよと諭す。

パラミナ大峡谷を越えた先にあるミリアム寺院に残された、「覇王の剣」を求めよと。

出発は明日。それまで各々準備を整えることにした。

 

 

「……大僧正、お久しぶりでございます。」

よ、そなたの夢も見ておった。そなたが村を出て…そして誓いを果たす日は近い。」

 

アナスタシスがそう言うと、は俯き視線をそらした。

冷たかった手は次第に震え始めた。

 

「そなたが村にいた頃はキルティアに難民のため、物資を届けてくれたがそれも途絶えた。」

「…やはり、そうでしたか。」

「村の者も力に飢え、そして力に甘えておる。そなたの力にだ。」

「………………。」

よ。そなたが村を思う気持ちはよく分かる。しかし、自分の気持ちに嘘をついてはならん。」

「大僧正…わたし…」

「報われることを望んでもよいのだ。たとえ罪悪感に縛られていようとも、そなたにも幸せになる権利がある。」

 

「それを決して忘れるではないぞ。私に何があっても。」

 

 

 

***

 

「(大僧正は…私の気持ちを分かっておられたの…?)」

 

アナスタシスとの話を終えたは、難民とともに畑を耕すのを手伝っていた。

この寒い場所では作れる作物は限られていたが、次々と人が集まるこの地では貴重なものであった。

 

「なんとお美しい。まるで真っ白な雪の中に咲き誇る真っ赤な薔薇のよう。」

「…アルシドさん!」

「綺麗な手が汚れてしまいます。このような力仕事は男のわたくしが。」

 

アルシドはそう言うとの手をとり、小さな手に握られていた鍬を奪った。

その様子を影から見ていたのはバルフレアであった。

彼は何をするわけでもなく、ただ歩いている最中二人を見かけたのである。

 

「(良く見ろ薔薇って感じの女じゃねぇだろ…。どっちかっていうと百合だ。まぁ百合ほど高飛車な感じでもないがな。)」

 

嫉妬にも似た感情であった。

胸の中にしっかりと存在を残す気持ち。の誓い。それらが邪魔をして、近づいてはいけない気がした。

にも関わらず、そんな事情もおかまいなしにへと近づくアルシドが恨めしかった。

隙を見せるな、と。容易に手を触れられるな、と。触れられない悔しさが、怒りへと変わって行く。

自分の物じゃない。だからこそバルフレアはこの気持ちをどこへやればよいか分からなかった。

 

「すみません…。マルガラス家の方にこのようなことをさせてしまって。」

「なぁに、大したことではありません。…どうやらわたしはお邪魔虫のようなので失礼いたします。」

「え?」

「では、美しい姫君。」

 

!」

「…バルフレア!?」

 

ぼんやりとアルシドを見ていたの腕をぐいと強く引っ張った。

だが一瞬にして二人の間には気まずさが漂った。

 

「昨日は…ごめんなさい。知ったような口をきいて…」

「いや、いいんだ。お前は、悪くない。しかしお前、あーいう奴がタイプなのか?」

 

自分で出しておいて、言うんじゃなかったとバルフレアは思った。

会話にこまって冗談を言って、もし仮にもが肯定したら自分は狂っていたに違いないと。

しかしそんな冗談に、は意外な反応を見せた。

 

「違う!違うの…私、わたしは……。」

…。」

「ごめんなさい、何でもないの。それじゃあ…。」

 

そんな悲しそうな顔をしないでくれ、期待してしまう。

この痛みは何だ。この苦しみは何だ。

口を開けば溢れ出てしまいそうなほどなのに、好きと伝えることも出来ない痛みを

崩れそうなくらい震える彼女を抱きしめることも出来ない苦しさを

 

一体誰が味あわせるのだ。

 

 

***

 

「フラン、少しいいかな?本当ならアーシェに言うべきなんだろうけど…アーシェ今忙しそうで。」

「ええ、なにかしら。」

「あの…私、明日みんなとミリアム寺院へは行かないわ…。王墓の時と二の舞になっても嫌だし…。」

「そう、分かったわ。…、バルフレアと何かあった?あなたたち何か様子が変だから。」

「何もないの!ただ私が知ったふりして、それで私、変なことを言いかけようとして、それで!!」

「落ち着いて、…。」

 

じりじりと焦がすような想いが なくなってしまえばいい

溶けて

消えて

風に乗って、飛んでいってしまえばいい

 

「あなた…バルフレアのことが…」

「止めて!おねがい…言って しまわないで…。」

 

言葉にしたら、認めざるを得なくなってしまう。

この気持ちに気付いてしまってはいけない。

この気持ちに名前をつけてはいけない。

 

そう、これは禁忌―――――

 

神に対して、絶対に犯してはならない、最大のタブー。

 

伝えることも

願うことも

想いつづけることも許されぬことならば

 

どうかこの気持ちに気付いてしまわないで(彼が好きだと)

どうかこの気持ちに名前をつけたりしないで(これが 恋だと)

 

不確かな、ままでいて

 

 

 

 

 

 

 

***

昼ドラ並にドロドロしててごめんなさい。

そしてぐだぐだで文めちゃくちゃで申し訳ない。