「大僧正。」

「…か。アーシェ殿下とともに行かなかったのだな。」

「はい、あそこは闇の気に満ちておりますので…私がいては足を引っ張ってしまいかねませんから。」

「そうか…しかし他に理由があるように思えるのだがな…。」

 

翌朝、アーシェたちはとラーサーを残しミリアム寺院へと向かった。

レイスウォール王が残した「覇王の剣」を手に入れるため、極寒の地を歩いていることだろう。

 

「私が口を出すことでもなかろう…がそう決めたのならば。」

「……はい。私には果たすべき誓いがあります。それに…ここに残ったもう1つの理由があります。」

「オキューリアだな。」

「自らを神と称えるオキューリアが、私たちヒュムの前に姿を見せるとは…とても考えられないのです。」

「ならば書物庫へ行くと良い。…そなたの仕えるオキューリアのように異端と呼ばれる者がおるのやもしれぬ。」

「…調べてみます…!」

 

 

 

 

 

22

 

 

 

 

 

窓から差し込む微かな光だけが頼りの書物庫で、たった一人は書物を読みあさっている。

しかしその手は次第に動かなくなり、天を仰いだ。

 

 

『村の者も力に飢え、そして力に甘えておる。そなたの力にだ。』

 

 

アナスタシス大僧正の言った言葉がの心を揺さぶった。

分かっていたことだった。このまま、自分が誓いを果たすことが 本当に良いのかどうかは、分からなくても。

 

「(大僧正は、自分の気持ちに嘘を付いてはいけないと仰った…。)」

 

本当の気持ちを、言葉にするのも口にするのも恐ろしくて出来ない。

後戻りが、出来なくなってしまう。

叶えたくて、喉から手が出るほど欲しくて、たまらなくなるから。

 

「(私の所為で死んでいったのよ……イブとレイは…。それを忘れてはだめだわ…)」

 

そして何より、これ以上巻き込むわけにはいかないのだ。

自分の過去、村の事情、課せられた運命。彼は何も関係ない、背負わすわけにはいかない。

 

「私と出会ってしまった時点で…もう皆を巻き込んでしまったんだもの、ね…。」

 

そう呟いたの言葉の真意など、知る物はここにはいなかった。

 

 

 

「な、なに…地震!?それとも雪崩!?」

 

突然、がたがたと部屋が揺れ 上からは棚に収めされた本が降ってくる。

 

逃げ惑う足音。

それを追う鎧の響き。

 

「(違う…これは―――――)」

 

甲高い悲鳴。

 

 

 

「(―――銃声だ!)」

 

 

 

一気に階段を駆け上り、部屋から出た先で見たものは。

天へと伸びる黒煙に紅く染まった雪。

男、女、年寄り、子供、何も関係なく襲い掛かる帝国兵――――。

 

ロッドを強く握り締め、は敵襲のなかへと飛び込んでいった。

 

 

 

 

必死にが応戦するも、兵士の数は一向に減らず 死傷者だけがただ増えていく。

武器を手にしている者がいても、実戦経験がほとんどない者ばかりなのだ。

いくらなんでも、一人で手に負える状況ではなかった。

 

様…!」

「しっかりして、今魔法を…!」

 

魔法を放とうとするの手を、教徒の者はきゅっと握りそれを止めた。

 

「私のことはいいんです…早く、大僧正の元へ…!私たちでは何も出来ない…だから、早く!!」

「……っ。…わかりました!」

 

はだたひたすら走った。

沢山の死体で溢れたかえった神都の中を。

 

 

***

 

 

聖堂の中へ入って目に映ったのは、倒れて身動き一つしない大僧正の姿と

 

「……あなたが殺したの?」

「ほう…王女のお供といったところか。」

「そんなことは聞いてない。ここが何処だかわかっているのでしょう!?それなのに武器を向けるなんて!」

「それがなんだ。人間の力を信じず 神などにすがるからこうなるのだ。」

 

こちらに剣を向けるジャッジ・ベルガの姿だった。

そのベルガの体からは、通常有り得ることのないはずのミストが溢れ出し 

視線はこちらにしっかりと向いているのにどこか違う世界をみているような気がした。

どういう訳かは分からないが、暴走している。止める以外に、この場を収拾する方法はないようだ。

 

「………サンダガ!」

 

ありったけの力を込めて放った魔法。外にいた兵士達も、これで倒れたというのに。

 

「(―――吸い込まれた!?)」

 

雷撃が起こるどころか、シュンとベルガの体の中に消えていったのだ。

 

「驚いたろう。これぞ人造破魔石の力よ!」

 

人造破魔石の力、それは魔力を吸収することができること。

ラーサーが以前見せた試作品から、今こうして戦いの場で発揮できるほど完成されつつあるというのだろうか。

 

「受けてみろ!人造破魔石の力!!」

「…きゃああああああ!」

 

衝撃波はいともたやすくの体を吹き飛ばす。

壁に体をぶつかり、突き刺さるガラス片、先程から続いていた戦闘の所為で体力が奪われていたことも加わって

が床に落下した時には、ピクリとも動かなくなっていた。

 

「(私…死んじゃうの、かな……。)」

 

意識が朦朧とする。目の前の地面が紅く濡れている。指一本も動かせない。

ここでもし死ぬのだとしたら、後悔するのはたった一つのはずなのに。

誓いを果たして、イブと村を救えなかったことが、唯一後悔することのはずなのに。

なのに。

なのに。

 

 

「(どうして……バルフレアの顔が…浮かんでくるのよ…)」

 

 

ずっと、この想いには気付いちゃいけないと決めていた。

神にも、誓いにも、この想いは禁忌だから。

でも、

認めるしか、ない。認めざるを得ない。

 

 

――――バルフレアを、好きということを

 

 

 

 

「止めを刺すか。」

「(…………ベルガの腕についてるブレスレッド…見た…イブの、腕……青い、石の入った…)」

 

の意識はそこで途絶えた。

ベルガが、の細い首に剣を向けたその時。

 

『―――待て。この女にオキューリアの力を感じる。私と同じ、異端となったオキューリアと。』

「なるほど、その所為か。この娘、魔力が相当強いようだ。…連れ帰るか?」

『そうしよう、シドの新たな実験の貴重なサンプルになるかもしれん。』

「ならヴェイン様も喜ばれるだろう。―――ガブラス!」

 

 

「この娘もともに帝国へ連れて帰れ!」

「………………。」

「俺はここでアーシェ王女を待つ。先に帝国へ戻れ。」

 

 

 

***

 

 

 

「こいつ……人造破魔石か…。大僧正は?」

 

ベルガは体から大量のミストを溢れ出させた後、苦しみながらこの世を去った。

それは大僧正も然り。パンネロは小さく首を振った。

 

「ねぇ、ラーサー様は?!は?!」

「ジャッジ・ガブラスが連れ帰った

 

メイドにかかえられ、よろめきながらやって来たのはアルシド。

 

「ラーサーは争いを避けようと おとなしく従ったんですが――ジャッジ・ベルガが暴発してね。

 雑魚を片付けるだけで精一杯だった。で 姫――あなたをロザリアに亡命させたいんですが。」

 

アルシドが言うには、ロザリア帝国は先制攻撃論が主流で 今にも戦争を始めてしまう可能性があるらしい。

そのため、アーシェの力を利用し 裏工作をしかけ将軍達を止めようとしていた。

 

「お断りします。私は、『覇王の剣』で『黄昏の破片』を潰します 。」

「あ――…石の在処はわかってませんが?

見当はつく。帝都アルケイディス ドラクロア研究所。帝国軍の兵器開発を一手に仕切ってる。オレが案内する。」

 

バルフレアの一言で、アーシェたちは帝国行きを決意した。

『黄昏の破片』を潰すなら尚更、帝国との直接対決は避けられないだろう。これまで以上の覚悟が必要だ。

 

「ああそうだ ラーサーから伝言です。

 

 

 

 

 

『国と国が手を取り合えなくても 人は同じ夢をみることができる』

 

 

 

 

 

 

***

 

「(くそ…あの男、居てもなんの役にもたってねぇじゃねぇか…)」

「―――――怒る相手が違うんじゃない?」

「………あ?」

 

バルフレアの心の声に相槌をうったのは、相棒であるフランだった。

二人しかいない聖堂、割れた窓から寂しく降る雨の音だけが聞こえる。

 

「一人にしなかったはずだわ。いつものあなたなら。」

「あいつが残ると言ったんだろ。」

「それでも、一人にしなかったわ。あなたもここに残るか、もしくは 一緒に連れて行くか。」

「………に触れるわけにはいかない。」

 

それは、ここ数日考え続けた結果 自分自身が出した答え。

どれほど愛していようと、それが、の邪魔になってしまうなら。

 

フランも、昨夜の様子だけで 確信がもてるわけではなかった。

二人が同じ気持ちかもしれないし、同じ気持ちではないかもしれない。

だけど。

 

 

 

「…あなたたち、まだ何も始まってないんじゃない。」

 

 

 

 

お互いの気持ちを勝手に模索して、空回って、離れて。

ハッピーエンドとはいかないかもしれない。

バルフレアの思う通り、必ずしもそれがの幸せには繋がらないかもしれない。

でも、まだ。

答えを出すのには、早すぎるのだ。

 

「………生きてると思うか?」

 

バルフレアの視線の先には、持ち手に血の付いたのロッド。

 

「連れていったというのだから、生きてるのでしょう。それより…」

「あいつが、の魔力に興味を持たないはずがないな。」

「……行くのね。」

「ああ。」

 

 

 

―――――善は急げ、だ。

 

 

 

 

 

 

***

私の脳内では壮絶な戦闘シーンがあったのですが、上手く文章にできないので割愛。

当初ヒロインはめちゃくちゃ戦っている予定だったんだけどなぁ…←

戦闘シーンを上手く描かれる方はほんとう羨ましいです。だれか文才を。

セリフばっかでごめんなさいね…orz

 

(分かってた方もいらっしゃったかもだけど)物語はきゅうてんかーい!