目が覚めると、そこは見たこともない豪華な部屋の中。

高い天井、美しく装飾された壁、ふかふかのベッド。自分は天国へでも来たのだろうかと思ってみたが、

体を起こすと微かに走る痛みがこれが現実だと教えてくれた。

 

「お目覚めになられたのですね、良かった。」

 

少し低めの、女性の声のした方を向いて驚愕した。

なぜならそこに立っていたのは鎧を身に纏った帝国の兵士だったからだ。

 

「あ、あの……。」

「丁度ヴェイン様が朝食をお待ちですので是非ご一緒に。」

「あの、ここはアルケイディアですか…?」

「はい。あなたがこちらへ運ばれて来た時は大怪我をされていて、ヒーラーが治療に当たったのですが…。」

 

ヴェイン様はあなたが目覚めるのを毎日楽しみにされていましたよ、と目の前の彼女は微笑んでそう言った。

話によると自分は三日三晩気を失っていて、目を覚ますどころかぴくりとも動かなかったらしい。

だがここが帝国ならば尚更分からない。

自分は彼らからしてみれば敵であって、怪我をしてここへ運ばれるきっかけになったのは

ジャッジマスターに戦いを挑み敗れた結果。このように持て成されるわけがないのだ。

 

「まだ体が痛むでしょう、お着替えを手伝わさせていただきますね。」

 

しかしこの兵士からは全く敵意は感じられない上に、まるでどこかの王女に仕えるかのように接してくれている。

 

「この服は…?」

「こちらの服はアルケイディアの中でも一流の仕立て屋が仕立てたものですよ。ヴェイン様が用意されました。」

「どうして…」

「あなたの荷物をこちらで預かっています。何着かありますから、しばらくはこの格好で。良くお似合いですよ。」

 

自分で言うのも変な話だが、鏡に映る姿を見るとよく似合っていた。

決して派手ではなく、かといって地味ではなく。落ち着いた色合いでどこかしっくりとくる。

お食事に致しましょう、と言われ彼女のあとをついて行く長い廊下。

 

天賦の軍事的才覚を持ち、前皇帝が亡くなった今、このアルケイディアを取り締まる中心人物。

嫌でも足が震えた。恐怖なのか、緊張からなのか分からないが。

 

「こちらでございます。どうぞお入りください。」

 

ヴェイン・ソリドール。

その本人がこの扉の前にいると思うと。

 

 

 

 

23

 

 

 

 

「ヴェイン様、お連れしました。」

「ご苦労。下がってよい。」

 

だだっ広い部屋に入って早々二人きりになり、緊張は更に大きくなった。

今からでも飛び出して逃げ出したい。こちらを向いて微笑んでいるのにも関わらずそう思うのは

この人の威圧感がそうさせているのだ。

 

「まぁそう警戒なさらず。私はただ貴女と食事を摂りたいだけですから。」

 

そういうとヴェインは手をとってテーブルまで案内し、丁寧にも椅子を引いてくれた。

席へ着くなりすぐさま疑問を口にしてみる。

 

「私はあなた方にとって敵ですよ。それに私は身分の高い者でもありません。どうしてこのような扱いを?」

「…ではあのまま死ぬのが望みだったと?」

「………………。」

「ならば男が女性をこのように持て成すのは当然の事。とはいえ何もかも自由という訳ではない。」

 

ヴェインの視線の元を辿って見ると、それは自分の右腕にはまった金色のバングル。

着ている服とも色合いがあっていて、一見何の変哲もないアクセサリーのように見える。

 

「これは…?」

「ドラクロア研究所で作られた特殊なバングルですよ。兵から貴女の魔法は桁違いだとの報告を受けてね。」

「なるほど…。魔法を放てなくしたわけですね。」

「外そうなどとは思はない方が身の為。ドラクロアの者でしか安全に外せないのですよ。」

「安全に…ですか。ではその忠告、聞き入れることにいたしましょう。」

 

その後はただゆっくりと食事を楽しんだ。

本来なら居た堪れない気持ちになって、とても楽しめるようなものではないはずなのに

不思議と頬は緩んだ。他愛もない話をしたり、冗談を交えてくれたり。

目に映る彼は、恐れられている統括者ではなくただ一人の人間であった。

だが、ひとつ思ったことがある。それは食事の味気なさだ。メニューの話ではない。

この人の食事は、こんなにも味気なく寂しいものなのかと思った。軟禁中のラーサーと自分を除けば、

彼はたった一人だ。舞い込んでくる話といえば軍事的な話ばかりで、口に入れたものを飲み下すといった

一連の動作をしているようにしか見えない。彼は毎日、たった一人この大きな部屋で何を思い食事をしているのだろう。

優しさや愛情が欠如しているわけではない。それはほんの少しの時間といえど話した様子でわかる。

だがそれの表わし方や、すべてを戦争でまとめてしまおうという考え方になってしまうのは

彼の育ってきた家庭環境に原因があるのではと、思わずにはいられなかったのだった。

 

***

 

「とても大きな国なのですね、アルケイディアは。それにここから見る街はとても奇麗…。」

「そう仰ってくれるだろうと思って護衛を用意しました。安心して街へ行けるでしょう。」

「護衛…?見張りの間違いでは?」

「いいや、間違いではないですよ。上層階へ行くためならば手段を選ばない輩もいる。」

 

たとえ貴女がアルケイディアとなんの関係もなくてもね、とヴェインは続けた。

金が必要ならば平然と人を売り物にしたり、服を剥いで売り物にしたり。武器も魔法も使えない状況では

危険だと、気を遣ってくれているのだろう。

 

「…お呼びですか。」

「この方に街を案内しろ。…アーシェ一行のうちの一人だが、しっかりと護衛するように。」

「アーシェ一行の…。」

「私の客人だ。手荒な真似は避けるよう頼む。」

 

胸がざわざわとした。部屋にビリっと痺れるような空気の所為か、兜の下から射抜かれた視線の所為か。

ともかく何か嫌な予感がしたのは確かだった。

 

 

「ご存じかと思うが…彼はジャッジマスター ガブラス。」

 

 

兜を脱ぎ、突き刺すように自分を睨んでいるその顔は、本当にバッシュにそっくりで。

頭に浮かんだバッシュは、あまりにも優しく微笑むものだから、何だかわからない

不思議な気持ちとちょっとした不安で心は埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

 

***

さてヒロイン別行動第1回目。アルケイディア編は細かく分割して話を進めていこうと思います。

いろいろ人は出てきますが次回はガブラスメインの予定。

あまりにもキャラがつかめてないので今回以上にカオスな展開になりうるでしょうが どうぞ、乞うご期待!

…今気づいたけど名前変換マジで1回もねぇYO!(´∀`*) 自己紹介くらいしとけばよかった!